涼と抱き合って
ドアが開け放たれたまま、月明りだけが差しこむ薄暗い部屋の中で、思い切り涼に抱きしめられた。 涼の力強い腕が背中にグイグイと食い込む。熱と熱が重なりあって、体中が火照りだした。二人の重なり合った影がお互いの吐息と同じように揺れる。
流れ出して止まらなくなった涙が涼のTシャツを濡らす。
身体に込められていた腕の力が抜け、涼が泣きじゃくっているわたしの頬を両手で包み込んだ。
唇が重なり、熱い舌が入り込んで来た。
会わなかった時間を埋めるような激しいキス。
そんな涼の思いに必死で答えるように口内で舌を絡め合った。
唇が離され、もう一度抱きしめられた。
「俺が……全部悪いんだ。沙都にこんな思いをさせて……達樹に怒られたよ。青木に殴られる覚悟で沙都をとり返して来いって。でも、毎日、青木のとこへ通っている沙都のこと聞いて、もう、俺への思いなんか、フッ切れたんだろうって思ってた。そんな二人の仲に割り込んでもバカみたいだし……俺から青木に直接言うから。沙都は渡せないって……言うから」
「涼……」
「もう沙都は、誰にもやらない。どんなことしても、絶対に離さねえ」
「涼……わたしも……もう、涼から離れない」
それから涼は、眠れない夜を過ごしていたわたしのベッドの横で、ずっと手を握っていてくれた。
わたしに会えなくて、サッカーに没頭し過ぎて、先輩とケンカになった話や、達樹と水華のエッチな話など、わたしの笑いのツボを押さえた話ばかりをしてくれた。
水華が達樹にメロメロだってことは気付いていたけど、涼の話に寄るとそれは逆で、達樹の方が、かなり水華にイカレテいると、涼が笑い飛ばした。
「これ以上は男同士のエロい話は女には聞かせられないな」
そう言った涼のほっぺを指で掴んで
「わたしのことは、言って無いでしょうね!言ったら殺すよ」
「いいましぇん。じぇったいいいましぇん」
痛そうにそう言ったので、指を離してやった。
「でもなー。色々聞かせて貰ってるから、俺が言わないわけにはいかないし……」
「な……何それ?いったいあんたたち、どんな話をしてるのよ!」
「イヤ……ほら、今後の勉強みたいなもんだし」
「はあ?」
今度は両頬を指で掴んでやった。
「おえん。おえん……ゆうへぇ」
涙目になって、許しを乞うてきた。
「お前……元気じゃねえか」
両頬を摩りながらそう笑い掛けて来た。
そんな涼が憎たらしくもあり、可愛くもありで、どうしようもなくて、今度はわたしから涼の唇に触れた。
突然のことで、キョトンとしている。
「クッそんなことすっと……やっちまうぞ」
そう言って、ベッドの上にいるわたしの隣に潜り込んできた。
「え?」
「エロネタ見付けてやるかんな」
わたしを両腕で抱き寄せてきた。
「そんなネタ提供してやらないから」
そう言ったものの、わたしの顔を胸に閉じ込めて、髪を撫でて来るもんだから、ドキリとした。
「嘘だよ。沙都は、絶対大事にするって決めたから。これで、粗末に扱ったら青木からとり返す意味がないしな。だから、今日はこのままゆっくり寝ろ」
優しく何度も髪を撫でられ、これ以上の安心は無くて、まるで、小さな子供に返った気になって、言われるままゆっくりと目を閉じた。