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家に帰ると

 ボンヤリとした思考のまま、いつものように自転車で帰宅した。

 途中、喉がカラカラになって、何度も立ち止まって持参してあったペットボトルのお茶を飲んだ。夕方とはいえまだ、日差しがきつい。

 最近、水分をよくとるようになっていた。体中から噴き出した汗のせいで、神経質なほど水分をとるようにしていた。その分、食欲が減退しているのは確かだった。

 不健康に痩せてきているのが自分でも分かった。

「夏バテってやつだな」

 そう呟いて、自転車をこぎ出した。


 家に着くと、珍しく涼のお母さんが来ていた。

 ママと二人、リビングに座ってコーヒーを飲んでいた。

 あれ以来涼の家には行っていないし、そのまま夏休みに入ったから涼とは会っていない。

 朝、ガレージから自転車を出す音と、夕方帰って来た自転車のブレーキの音しか聞いて無

い。涼の姿をひと目見ると、何かが崩れそうで、自分なりに頑張っていることが全て壊れてしまいそうで、涼の姿を見られなかったのだ。

 涼のお母さんに会うのさえ気まずくて、リビングのドアの前で躊躇っていると、ママとの二人の会話が聞こえて来た。

「えっ?涼君にも彼女が?」

 向かい合わせに座っていたママが身を乗り出した。

「うん。本人は違うって言い張ってるんだけどさ。よく、メール来たり電話が掛って来たりしているみたいよ」

「そう。いつまでも子供だって思ってたけど、沙都も今は彼氏に必死だしね。なんか……寂しい気がするね」

「沙都ちゃんはいいわよ。女の子だから。うちは男の子だから、その内、家に帰って来なくなるんじゃないかって心配になるわ」

「まさか……それは無いでしょ?」

「自分たちだってさ、大学時代、主人と半同棲的なことしていたわけだしね。でも、女のわたしは頻繁に実家に帰ってたけど、主人は極、たまにしか帰らなかったのよ。そう思うと、涼、沙都ちゃんを彼女にすれば良かったのにって思っちゃうのよ」

 涼のお母さんの言葉に頷きながら

「親の我儘ね。わたしだって、涼君のほうが気心知れているし、そっちのほうが良かったけど、沙都、今は自分なりに頑張っているからね。応援しているけど」

「それが複雑よね。沙都ちゃんに彼が出来て、涼がかなり落ち込んでいるのは確かだけどね。モタモタしていたあの子が悪いんだ」

「親の思い通りに行かないもんよ。子供は」

 わたしたちの気持ちも知らないで、言いたいことを言い合っている二人に声を掛ける気も失せて、何も言わずに二階にある自分の部屋へとすっこんだ。

 

 部屋にあるエアコンのタイマーを掛けていたので、部屋の中は涼しくて天国のようだった。

「涼に彼女」

 頻繁に電話やメールをしている相手。

 真菜だろうか?

 真菜は真剣に涼のことを頑張ると言っていた。

 夏休みに入って毎日会えなくなったから、電話やメールの回数が増えても可笑しくない。

 そう思うと心がざわつく。

 だけど、二人が付き合いだしたとしても、わたしは何も言えないし、ただ、心無く『良かったね』と言うしかない。

 カバンからペットボトルのお茶を取り出してゴクリと残り全てを飲みほした。

生温くなって美味しくなかった。

 涼……

 涼と真菜……

 そして、今日の青木クンとのキスを思い出して、ベッドに倒れ込んだ。

 青木クンにキスをされながら涼を思っていた。

 涼の声が頭の中に響いていた。

 わたしは……涼を忘れることが出来るのだろうか。

 久しぶりに涙が流れ出した。

 キィーキィッ

 涼の自転車の音がした。

 反射的だった。

 ベッドから飛び起きて、窓へと飛び付いた。

 窓から外を見ると、Tシャツにジャージ姿の涼がガレージに入って行くところだった。

 久しぶりに見た涼は相変わらず日に焼けていた。

 髪を切ったようで、夏休み前より短くなっている。

 自転車を置いた涼がガレージから出てきて、それが癖でもあるかのようにこちらに目を向けて来た。

 窓を覗くわたしを見止めた涼が立ち止まったまま、わたしを見上げた。

 涙が溢れて来て、涼が歪んで見えた。

 どれほどの時間見詰め合っていただろう。

 涼はただ、何も言わず、泣いているわたしを心配気な表情を浮かべて見上げている。

 このまま、駆けだして、涼の胸に飛び込みたい。

 そんなわたしの気持ちを察したように、涼がクルリと背中を向けて、自宅へと入って行った。

『もう、この部屋にはくるな』

 涼の精一杯の拒絶に思えた。

 わたしは立ちつくしたまま、ただ、涼のいなくなったガレージを見ていた。




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