マネージャーの思い
達樹がグラウンドへ戻った後、そのまま廊下に立ち尽くしていた。
窓に目を向けるとグラウンドに涼の姿が見えた。
サッカーボールを追って、元気に走り回っている。
いつもの光景だった。
涼の少し前屈みになって走る癖。
華奢な身体のわりに筋肉質で、がっちりした両脚。
失敗すると、天を仰いだり、大げさに頭を両手で覆ったりする仕草。
どんなに遠くても、涼の姿なら直ぐに分かる。
あんまり近すぎて、ここまで涼のことをここまで思っていた自分に今ごろ気付いた。
涼も遠くからでもわたしの姿が分かるのだろう。
お互い、それほど相手を思い合っていた。
この上ない幸せだと思った。
あのマネージャーはわたしたちと同じような気持ちで、いつも青木クンを見ていたんだろう。
ただ、元気で野球をする青木クンを。
そんな青木クンを、あのマネージャーから奪ってしまった。
ただ、カッコイイからとかそんないい加減な思いだけで。
その上、わたしを庇って怪我をしたのだから、女としてもマネージャーとしてもわたしを許せないだろう。
カラオケで、涼の腕に抱き付き、隣に座った真菜に嫉妬していた。
自分がマネージャーに対して酷いことをしていたなど知らずに、ただ、真菜に嫉妬していた。
マネージャーに対しても、青木クンに対しても申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
青木クンのわたしへの思い。
どれほどのものか分からないけど、達樹が言ったように、自分が気負いするほど大きなものではない気がして来た。
そんなことより、涼を思い続けたまま、青木クンと付き合って行くほうが、青木クンを傷つけることになると思った。
青木クンが怪我をしたのは、わたしを庇ったからだ。
予想しない事故だったけど、そんな青木クンに謝ろう。
あのマネージャーにも謝ろう。
教室には向かわず、来た道を引き返して、青木クンのいる総合病院へと向かった。