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達樹に励まされて

 まだ、誰も登校していない、静まり返った廊下に頬を打ちつけたまましばらく寝転んでいた。

 廊下の端に埃が見えた。高校生になると、みんな掃除を真面目にしないので、大人数が行き交うこの廊下はいつも埃が舞っている。

 そんな状態の場所に、寝そべったままだった。あの子は野球部のマネージャーだろうか?

 あの子に怒鳴り付けられたショックで、身体動かなかった。

 窓の外からは、野球部員かサッカー部員のかけ声が微かに聞こえた。

 昨日、擦り剥いた膝が痛む。膝の痛みを庇いながら、ゆっくり起き上がると

「沙都?」

 視線の先には、黄色と青のストライプのサッカースパイク。

 顔を上げると、ユニフォーム姿の達樹が心配そうな顔で立っていた。

「達樹……スパイクのまま校舎内に入っちゃダメじゃない」

「沙都、あの野球部のマネージャーに突き飛ばされていただろ?外から見ていて、それで慌てて、ここへ走って来たんだ。お前、大丈夫か?」

そう言って、手を差し伸べてくれた。

「うん……ちょっと怖かったけど」

 達樹の手につかまり、立ち上がって、スカートとベストについた埃を叩いた。

「さっき、学校に来るなり聞いたんだけど、昨日、青木が事故にあって、怪我したんだってな」

 達樹の言葉に茫然となった。

 もう既に話は広まっている。野球部員も来ているから、サッカー部に話が漏れても不思議は無い。

「沙都?お前……その事故の時、一緒にいたんじゃないのか?」

 わたしの膝に視線を落したまま達樹が声を上げた。

 心配そうな達樹の顔を見るなり、涙がワッと溢れ出て来た。

「達樹……どうしよ。わたしのせいで、青木クン、試合に出られないって……わたしのせいで……」

「わたしのせい?」

「うん。青木クン……わたしを庇って……」

 泣きじゃくるわたしに困った表情を浮かべた達樹が

「なあ、沙都? 涼とのこと、青木に話したのか?」

 嗚咽を吐きながら、首を横に振った。

「言ってない……青木クンに断ろうとした矢先だったの。でも……涼には嘘付いた。ちゃんと断ったって直ぐにばれる嘘付いた」

「ハァー」

 達樹が大きくため息を付いてわたしの肩を二度叩いて来た。

「まあ、涼のことは気にするな。お前のそんな嘘ぐらいで、臍を曲げるようなヤツじゃない。そうじゃなきゃ、こんなに何年も沙都に片思い出来るわけないだろ? 問題は青木だろ?」

 涼のことは気にするな……

 達樹のその言葉はとても有り難いものだった。

 声にならない声を上げて、大きく頷いた。

 そうだ。涼は……こんなことで、わたしを嫌いにならない。

 ずっと、一緒にいたんだから、こんなことで涼はわたしを嫌いにならないけど、青木クンをこんな状態で付き離せない。

「青木クンに……断れないよ」

「なあ、沙都。あのさ、お前、青木に対して、どれだけ容量しめてんの?」

「えっ?」

「青木に対する容量だよ。だたの情だけで10%未満じゃない? 昨日、今日付き合いだしたばっかでさ、青木の心の中も沙都への容量なんて、多くて30%だろ。50%は野球だろうしさ。そんなもんじゃないのか?」

 達樹の言い出した言葉の意味が分からなかった。

「さっきのあの、マネージャーの態度見ているとあいつ、青木に対してかなりの容量のしめているぜ」

「どう言うこと?」

「お前は青木の心配ばかりしているけど、青木をお前以上に心配しているヤツがいるってこと」

「あのマネージャーってもしかして青木クンのこと……」

「サッカー部と野球部って毎日の練習時間は、ほぼ一緒なんだよ。だから、傍から見ているとよく分かるんだ。あのマネージャーがどんな目で青木のことを見ているかって。これはさ、涼に対しても言えるんだぞ。チアリーダー部が部室から出てきて、体育館に向かう時なんか、ボール見て無いもんな。あいつ」

 達樹が思いだしたように豪快に笑い出した。

「達樹……」

「お前が無理して支えなくても、青木にはちゃんと支えてくれる子がいるってこと。それを青木が受け入れるかどうかは分からないけど、他の男を思っている女に支えてもらっても、俺なら嬉しくないな」

 達樹が、クシャリと笑い掛けて来た。

「涼さ、今まで生きて来た中で、今が一番てんぱってるぞ。そんな、涼の思いを踏みにじったら、お前だって、一生後悔するぞ」

 達樹の言葉にコクリと頷いた。


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