野球部のマネージャー
学校近くの売店前で、涼がこぐ自転車の後から飛び降りた。
さすがに校門までは二人乗りは出来ない。
「まっ適当に授業始まるまで時間潰せよ」
「うん。取りあえず教室に行ってカバンを置いてくる。それから、サッカー部の練習でも見学しようかな」
「じゃ、俺行くわ」
肩手を上げて、一人で自転車をこぎ出し、校門へと向かった。
わたしはカバンを肩に掛け直して、ゆっくりした歩調で歩きだした。
校門を抜け校舎内に入り、玄関で上履きに履き替え、自分の教室へと向かう。
一年生の教室は北側校舎の一階にあった。さすがにこの時間は誰も登校していなくて、教室へと続く廊下はシーンと静まり返っていた。
北側校舎はグラウンドに面しており、窓からは朝連に集合したサッカー部員や野球部員の姿が見えた。
野球部員の姿が目に入ると同時に青木クンのことを思い出した。
さっきまでの涼との楽しい時間が一変して、心が灰色に変わり、暗いものになった。
その場に立ち止まり、グラウンドから目を背けた。背けた先は、1-5と書かれたドア前。
青木クンのクラスだった。
ボンヤリとした顔で、1-5と書かれたプレートを見ていると急にドアが開かれた。
ドアが開いた音に驚いて肩を窄めた。
1-5の教室の中からは涙ぐんだ女子生徒が飛び出て来た。
廊下に立っていたわたしとはち合わす格好になった。
女子生徒は運動部員のようでジャージ姿だった。
サッカー部か野球部しか朝連は行っていない。
どちらかのマネージャーのように思えた。
涙ぐんでいたその女子生徒が、わたしの顔を見るなりもの凄い血相となって
「この、厄病神!」
そう怒鳴りつけて来た。
「高井沙都ってあんたよね? この前、光輝の彼女になったばかりの女でしょ?」
目を見開いて、余裕の無い表情の彼女から目を離せなかった。
開かれた目は明らかにわたしに敵意を抱いていた。
「光輝、せっかく県大会の控え投手に選ばれたって喜んでいたのに……光輝のお母さんに聞いたんだから、光輝はあんたを庇って怪我したんでしょ? なに平気な顔して登校してきてんのよ!
あんたのせいで、光輝は試合に出られないんだよ!」
ドン!
そう捲し立てて、わたしの胸を思い切り突き飛ばしてきた。
その衝撃で、勢いよく窓ガラスに背中を打ちつけられた。
「光輝が今までどんな思いで頑張って来たと思ってるの? 光輝のお母さんは、あんたを庇って怪我をしたことは誰にも言わないでって口止めして来たけど、あんたと付き合い始めて次の日にこんなことになるってどう言うことよ! 厄病神、厄病神 、厄病神!」
窓ガラスに凭れかかっていたわたしの腕を掴んで、今度は廊下の床へと突き飛ばして来た。
抵抗すらしなかったわたしは、床に這いつくばるような格好で倒れ込んだ。
「光輝は……どうしてあんたなんか好きになったんだろ」
吐き捨てるようにそう言って、わたしに背を向けて猛スピードで走り去って行った。




