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待ち伏せ

 その夜は、涼から貰ったユニフォームを着て眠った。

 タンスの奥に仕舞っていたみたいで、防虫剤の匂いが微かに臭っていたけど、明日のことを考えると不安で仕方なかった。

 サッカーで使った物は捨てられない性分の涼が、捨てるに捨てられず、かと言って後輩たちに譲ることも出来ずにいた、このユニフォームには特別な思い入れがあったのだろう。

 そんな物をわたしに譲ってくれた涼のこの思いに抱かれたまま眠りたかった。

 青木クンの怪我が治れば、ちゃんと自分の思いを青木クンに告げよう。

 それまで、涼を騙し続けることになるけど、涼を不安にさせたくない。

 もし、本当のことが分かれば、中途半端なわたしに愛想を尽かすかも知れない。それだけはイヤだ。 せっかく思いが通じあったのに、涼を誰にも渡したくない。

 瞼を閉じたまま、眠ることも出来ず、そんなことばかり考えていた。


 次の日、朝連に出かける涼を自宅の玄関の前に立って待ち伏せした。

 一年生の涼は、朝連当番の日は先輩たちより早く登校しないといけない。

 この時間は学校の最寄り駅へは電車がないので、学校までの七キロの距離を自転車で通う。

 ガレージから、自転車に跨った涼が出て来た。

 玄関先で立っているわたしに一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに嬉しそうな顔をして

「あれ? 沙都どうした?」

「おはよ。お化けでも見たような顔して驚かないでよ」

「そりゃ驚くだろ? 毎朝、ギリギリじゃないと登校しない沙都が俺より早く支度して待ってるなんて、真夏に雪が降るより珍しいじゃん」

 そう言いながら、朝日が差し込む空を見上げ、眩しそうな顔をする。

「一緒に行っていい?」

「それって、俺に後へ乗せろって、言ってんの?」

「うん。サッカー部は足を鍛えなきゃ」

「警官に注意されるようなトレーニングは禁止なんだけどな。しゃあねえな」

「ヤッタ―」

 肩に掛けていたカバンを自転車の籠に、これでもかと言うくらい押し込めて、後に飛び乗った。

「言っとくけど、飛ばすからな」

「うん。了解!」

 勢いよくこぎ出した涼の腰に手を回して、しがみ付いた。

 涼との二人乗りは初めてじゃない。中学生に上がったばかりの頃、仕立てたばかりの新品の制服で二人乗りして、河川敷を滑り降り、そのまま川へと飛び込んだことがあった。

 新品の学生服とセーラー服がビショビショになった。

 あの時は、涼が悪い、沙都が暴れたからだと擦り付け合いばかりして、二人して、お互いの親に怒られたことがあった。

 あの頃は、男とか女とかまったく意識してなくて、高校生になった今でも、あんなことがないと、涼を男として見ていなかったんじゃないかと思う。

 この前、青木クンに付き合ってくれと言われて、背が高くて、なんてカッコイイんだろうって、素直にそう思った。

 野球部と聞いて、尚更カッコ良く見えた。

 男の子のわりに清潔感があって、照れて笑うところが可愛くて、直ぐにOKの返事をしてた。青木クンをTVの中のアイドルみたいな目で見ていた気がする。

 彼が、どんな子かも知らない癖に、安易に返事をした。

 青木クンがどれほど自分を好きでいてくれたかなんて、想像すらしなかった。

 涼に押し倒されて、やっと、自分の非力さや、軽い部分に気付いた。

 相手が、涼じゃなきゃ気付かなかっただろう。

 わたしは、涼が好きだ。

 涼の傍で今までと同じようにずっと笑っていたい。

 涼の夏服のシャツに頬を寄せた。

「沙都? お前、こんな時間に登校して、学校で暇だろ?」

「うん。涼の練習見て、時間を潰すから」

「俺のプレー見て惚れなおすなよ」

「惚れなおさないし」

そう言っては両腕に力を入れて、もう一度涼の腰にしがみ付いた。


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