涼のユニフォーム
器用に手当てをしてくれた後、まだ、タオルケットを身体に巻き付けたままのわたしに
「沙都、その格好、眼の毒」
そう言いながら、部屋の中に置いてあるクローゼットから、青いサッカーユニフォームを取り出してきた。
そして、それをわたしに差し出し
「もう、小さくなって来たしさ。沙都にやるよ。これ着て帰れよ」
涼からユニフォームを受け取り、涼の目の前で腕を通した。
「わたし、中学生の頃の涼と同じままなんだ。ぴったりだな」
涼がベッドの端に腰をドスンとおろして
「俺さ、沙都の背を追い越した時、スゲー嬉しかったんだ。これで、沙都に似合う男になれたかなとか思ってさ」
そう言って照れくさそうに笑った。
「わたしは、逆に涼のくせに生意気―とか思ってた」
「涼のくせにってなによ。それ、酷くね?」
「だって、涼、よく泣いてたじゃん。小学校の時なんか、好きだった男の先生が転勤になったって離任式のとき泣いたりしてたし」
すると、両手をわたしの頭の上に乗せて
「お前、そんな昔のことよく、覚えてるな。こうしてやる!」
ベッドの上のわたしに乗っかって来て髪をクシャクシャにしてきた。
「ちょ……なにそれ? ここまでする? 」
体制を立て直して、今度はお返しに、わたしが涼の頭を両手で持って髪をクシャクシャにしてやった。
髪をクシャクシャにしたままの涼が笑いながら、わたしを押さえこむように抱き付いて来た。
「沙都、仕返しすんじゃねえ。力も負けないからな」
両腕を取られて身動きが取れなくなった。
「クソ……力も負けてる。悔しいー」
両腕を解放して今度は優しく抱きしめて来た。
「沙都、俺さ……沙都と思いが通じて本当に嬉しいんだ。今、スゲー幸せ。昨日だって、夢見ているんじゃないのかって、信じられなかったから」
その言葉に心がギュッと何かに掴まれる感じだった。
身体が震え出しそうで、涼の背中に腕を回して抱き付いた。
「わたしも……嬉しかったよ」
わたしはこんなに無邪気に笑う涼に……
嘘を付いている。
帰り際、玄関まで出て来た涼に
「涼、このユニフォーム今夜からパジャマに使っていい?」
そう言ったわたしにまた、嬉しそうな顔で
「沙都にあげたから、沙都の好きなように使えよ」
「うん。ありがとう」
それだけ告げて、涼の家を出て、自宅に帰った。