涼と結ばれて[改]
倒れ込んでも、涼はわたしの両腕をベッドに押し付けたまま、はなさない。
手首を強くにぎったままだ。その上、腰の上に跨っている為、両脚さえ動かせない。
「俺は、沙都みたいに……誰でもいいなんて、どうでもいい気持ちで女と付き合えないんだ」
「それなら……わたしに当ることないじゃない。はなしてよ。腕、千切れそうだよ」
そう言って、眼の前十センチまで顔を近づけてきた涼をおもい切りにらんだ。
「バカヤロウ!」
耳元でどなりつけてきた。耳がキンキンする。
「耳元でそんな大声出さないでよ。男のヒステリーはみっともないわよ」
すると……怒っていた涼が、きゅうに表情を変え、泣きそうな顔をして
「俺の気持ち、お前……本当にわかんないの?」
涼の歪めたうすい唇が震え出した。
「涼……の気持ち?」
「沙都が、コンビニのプリン食べたいって言ったら買ってきたり、沙都の好きなアイドルのビデオ予約したり、眠いのに、女友達とケンカしたお前の悩みきいたり……俺は……お前のなんだったんだ?兄妹か?やっぱ……ただの幼なじみなのか?」
「涼……」
男にしては長めの睫毛で縁取られた目からポロリと涙がこぼれた。
そして、わたしの頬にポタリと落ちた。
「俺は……ずっと……沙都が好きだったんだ」
絞り出すような声でそう告げて来た。
まるで……抑えていたものを吐きだすような、そんな感じだった。
わたしが……好き?
苦しそうに声を振り絞った涼が、はじめて男の子に見えた。
ただの幼なじみだった涼が……
男に見えた。
「沙都だから、何でも言うこと聞いて来たんだ。沙都だから……仲のいい幼なじみの振りしてきたんだ。バカやっておどけて、男の部分消してさ……沙都の隣に居た俺ってバカみたい」
「涼……」
わたしは、ずっと涼は幼なじみだと思ってた。
なんでも、わたしのこと分かってくれてて、言うことを聞いてくれる、都合のいい幼なじみだと思ってた。
『仲のいい幼なじみの振りをしてきた』
「振りしてたの?幼なじみの振りしてたの?」
「俺は……もう、ずっと前から、沙都を女として見て来たんだ。幼なじみだけど……ずっと見守ってたんだ」
サッカーしているときの真剣な顔とはまた違う、初めてみる涼の男の顔。
こんな表情を浮かべた涼は初めてだった。
手首に入れられていた力が緩みだした。
そして、ゆっくりと、わたしの腕をはなしてくれた。
「クソッ」
そう叫んでベッドを思い切り叩いた。
つかまれていた手首がジンジン痛む。
震えながら、まだ、わたしに覆い被さっている涼の頬に手を伸ばした。
「涼……」
もうひとしずく……涙が落ちそうで、それを指ですくった。
「だから……好きでもないヤツと付き合ったりするなよ」
「涼……」
「沙都が……ほかの男にキスされたり、抱かれたりするのを想像するだけで……俺、発狂しそうだ」
「涼……」
「沙都……」
真面目に見詰め合った。
今まで、いつも傍にいたけど、こんなに真面目に向かい合ったのは初めだ。
そして……気付いた。
涼が、こんな目をわたしに向けることを意図的に避けていたことが。
見詰め合ったままお互いゴクリと唾を飲み込んだ。
涼の頬に触れているわたしの手をその手に包み込んで、ゆっくりと顔を近づけてきた。
唇が重なった。
涼が、意図的に避けていた理由。涼は、それで感情を抑えていたんだ。
ファーストキスだった。
唇に温かな涼の体温を感じた。
目を閉じた涼とは対照的に、わたしは目を見開いたままだった。
「イヤだって……言わないのか?」
唇を離して、わたしにそう問いかけてきた。
「言わない……よ」
そう返事をすると同時に、もう一度唇を重ねて来た。
フワリ、フワリと重なっては離れ、そして、だんだん重なっているほうが長くなって
「涼……」
何も抵抗できなかった。




