真菜からの電話そして……
その後、電車を乗り継ぎ、家へと向かった。時間はすでに八時を過ぎていた。
一応、家に電話をしたが、誰もいないのか出なかった。
駅から自宅への道を歩きながら、携帯をカバンに仕舞おうとしていると、
チャカチャカチャカ
チャカチャカチャカ
真菜のお気に入りの曲が鳴り出した。
この着信音は真菜だった。
慌てて出て、耳にあてた。
『沙都? 今、電話大丈夫?』
明るい真菜の声がした。
「うん。大丈夫だよ」
『あのさ、沙都に一番に言いたくて電話したんだ』
「何?」
『わたし、涼のこと頑張ってみる』
涼のこと……
携帯から聞こえた真菜の声にまた、胸がドキンとなった。
「涼……って?」
『さっきね、家まで送ってもらったの。不貞腐れてて面倒くさそうな顔してたけど、もう、暗いからって、結局家まで送ってくれてさ。涼って優しいね。カラオケでも、ブツブツ言いながら、リクエストした曲は全部歌ってくれたしさ。涼が優しいのは沙都限定だって思ってたから、なんか、とっても嬉しかったんだ』
弾んだ真菜の声。
わたしと青木クンが帰ってから相当楽しんだように思えた。
確かに涼は優しい。
誰にでも気を使う子だ。
小さい頃から、自分に出来ることは相手を選ばず、優しく出来る子なんだ。
沙都限定……
真菜にはそう映ってたんだ。
涼の気持ちに薄々気付いていた。
真菜は……
涼が好きだったんだ。
そして、わたしに彼が出来たことに寄って、真菜は、なんの気兼ねも無くなった。
(涼のこと頑張ってみる)
真菜の素直な言葉が頭の中でリフレインして、胸が張り裂けそうになった。
『沙都? 元気ないね。青木クンと何かあった?』
血まみれで倒れていた青木クンが鮮明に思い出された。
今ここで、青木クンの事故のことを話すべきか……
青木クンの今のちゃんとした容態は分からない。
ヘタに大げさなこと言って、青木クンに迷惑がかかるといけない。
小さな噂が大きくなって飛び交うことはよくあることだ。
学校にはすでに連絡が行っているはず。
明日になれば、みんなに知れ渡る。
それからにしよう。
今は……言わないほうがいい。
「ちょっと……色々あって……詳しいことは明日話すよ」
『色々? なになに? もしかして、キスとかされた?』
「そんなんじゃないよ。そんなんじゃない!」
真菜の見当はずれの明るい声と言葉の内容に声を荒げてしまった。
ツゥツゥ
ツゥツゥ
どこからか電話が入ったようで、通話中着信音が鳴った。
「真菜、ごめん。他から電話が入ったから切るね」
真菜からの返答も聞かずに、慌てて電話を切った。
これ以上真菜と話しをすると、涼とのことと青木クンのことが入り混じって、真菜を傷つけてしまいそうだった。
今のわたしには、真菜に対して、当り障りのない相槌を打つほどの余裕がなかったのだ。
液晶画面には、涼の名前。
電話は涼からだった。