青木クンのお母さんが駆けつけて
しばらくすると、救急搬入口に中年の女性が駆けこんできた。
その女性は入口の受付警備員に『青木』と名乗った。
その言葉に立ち上がって、その女性に軽く会釈をした。
「光輝のお友達?」
そう言いながら駆け寄ってきた。
声が出なくて、首だけ縦に振った。
近くで見ると、青木クンに良く似ていた。
青木クンのお母さんのようで、何処かの会社の事務員の制服を着ていた。
「ごめんなさいね。付き合わせたみたいね。自転車の事故だって、警察から連絡があったの」
「青木クン……頭から血が出てて……」
思い出しただけで言葉が詰まった。
すると、救急治療室の扉が開いて、中から女性の看護師さんが二人現れた。
「青木さんですか?」
「はい」
「担当医からの説明がありますので、中に入って下さい」
青木クンのお母さんが看護師にそう促された。
「あの……青木クンの容態は?」
看護師にすがるような声でそう聞いた。
「ええ。髪の生え際を少し切ってて、そこを少し治療しましたよ。大丈夫ですよ」
看護師が気を聞かせたのか二コリと笑ってそう言ってくれた。
緊迫していた心がその笑顔で楽になった。
「青木クン、大丈夫なんですか?」
「出血多くてびっくりしたでしょうが、もう、大丈夫よ」
もう一人の看護師も笑ってくれた。
「色々ありがとうね。ここはもう、大丈夫だから、早く家に帰ってね。お家は遠い?」
青木クンのお母さんがわたしを心配したのか、そう聞いて来た。
「いえ、そう、遠くないです。帰れます」
軽くお辞儀をすると、看護師二人と青木クンのお母さんが救急治療室の中へと向かった。
三人の背中を見送ってから、もう一度椅子に座って大きく息を吐いた。