まさかの事故で
理髪店の奥さんの肩に凭れかかるようにして立ち上がった。
回りの喧騒とした雰囲気は伝わって来ていたが、涙が溢れた目だけを見開いていた。
倒れた自転車の籠がグニャリと折れ曲がっていて、どれほどの勢いで追突したのかを物語っていた。
女子高生は右太ももと右膝をすり剥いて、血が出ていた。若いOLと中年のオバサンに両脇を抱えて貰ってようやく立っているといた感じだった。
「警察にも通報したほうがいいでしょうね」
救急車に連絡を入れてくれたサラリーマンが理髪店のオジサンにそうたずねた。
「怪我人が出ているんだ。仕方ないでしょうね」
オジサンのその言葉に女子高生が青ざめて震え出した。
どこにでもいるわたしと変わらない普通の女子高生。
イヤフォンに肩手携帯。
わたしも何度かしたことがある。
警察……
怪我人……
わたしたちは被害者だけど、決して人ごとではない事態。
れっきとした犯罪になるんだ。
理髪店の奥さんに腕を掴まれたまま、また全身が震え出した。
すると、倒れていた青木クンの足がピクリと動き出した。
「君、大丈夫か?」
サラリーマンが足を動かした青木クンに声を掛けた。
倒れたままの青木クンを見ていて、頭の隅で、もしかして死んでいるんじゃないかと震えていたわたしは、青木クンの微量の動きに安堵しホッとした。
青木クン……
青木クンは起き上がろうとしている様子だったが
「頭を打っているから大事を取って動かさないほうがいい。このままで、救急車を待ちなさい」
理髪店のオジサンがうつ伏せに寝ている青木クンの傍にしゃがんで耳元でそう囁いた。
青木クンは起き上がるのをやめた。
「青木クン!」
我に帰ったわたしは、オバサンの腕をはらって、青木クンの傍に駆け寄り理髪店のオジサンの隣にしゃがみ込んだ。
青木クンの額は血で真っ赤で、短髪の髪には土埃が付いていた。わたしの声に左目だけを薄く開いてくれた。
「お嬢ちゃん、これ」
理髪店のオバサンが理髪店の名前の入ったタオルを差し出してくれたので、それを受け取り、青木クンの額にそっとあてがった。
そんなわたしの顔が見えたのか、口元が少しだけ弧を描いた。
遠くの方から救急車のサイレンが近づいて来た。
周囲を取り囲んでいた通行人たちが、救急車の音に反応して、わたしたちの傍から離れ出した。