二人きりの帰り道
店の外は陽が落ちて、薄暗い紫色の風景だった。街燈がポツリポツリと付き始めて、会社帰りのサラリーマンや下校中の学生たちが歩道を行き交っていた。
その人ごみの中を、青木クンと肩を並べて歩いた。わたしの手はやはり、制服のベストのポケットに手を突っこんだままだった。
わたしより、ニ十センチ以上も背が高い青木クンが俯き加減で話しかけて来た。
「沙都ちゃんって……西中出身だよね」
「うん。そうだよ。さっきのメンバーの男子たちもみんな西中出身だよ」
「俺さ緑中出身なんだけど。中学の時、一度、西中で練習試合したことあるんだ。その時、沙都ちゃん、何人かの女子たちと応援に来てたこと覚えてない?」
ちょうど一年程まえ、同じクラスだった野球部の子の練習試合をクラスの女子何名かで即席のチアリーダー部もどきを結成して、応援したことがあった。ラメ入りのポンポンなんかを作って、冷やかし半分で、応援したことが……
「行ったことある。あれ、緑中との試合だったの?」
「酷いなあ。応援に来て相手チームの学校も知らなかったの?」
練習試合だし、勝つか負けるかだけしか考えて無かったから、相手チームがどことかあまり気に止めてなかった。
「あの試合で……沙都ちゃんを見て、可愛い子だってずっと思ってたんだ。自分のチームがミスしても、点入れてもキャッキャッ笑って騒いでたよね」
確かに、応援していたと言うより、騒いでたってほうがあっていた気がする。
「青木クンってポジションどこ?」
「俺?一応ピッチャーしてたんだけど。試合しながら、相手チームのチアリーダーのこと見てたって、それもかなり問題があるんだけどね」
青木クンが照れくさそうに笑った。
結局、あの試合は、うちのチームがボロ負けして、クラスの野球部に女子全員でカツを入れてやった。
その時、野球部たちが言ってた。
『相手のピッチャーが良過ぎたんだ。あいつ、県の選抜ピッチャーだぞ。俺らが打てるわけないだろ?』
その開き直った態度にもう一度、女子全員で激怒した覚えがある。
「高校に入学して、一番先に沙都ちゃんのこと見つけて、あの試合の時を思い出したんだ。だから、こうして、彼女になってくれて、俺、凄く、嬉しいんだ」
青木クンは……中学の頃から、わたしのことを知ってて、それで、昨日、告白してくれたんだ。わたしの彼が出来ればそれでいいなんて、中途半端な、浅はかな考えじゃなかったんだ。
さっきの涼と真菜の二人の光景を思い出した。
真菜に涼を取られたくない。
今……言うしかない。
『ごめん』って言うしかない。
こんなに涼のことが好きなのに……青木クンとは付き合えない。
「ねえ。青木クン……あのね。わたし……」
「危ない!」
後から、通行人の男の人の叫び声が聞こえた。




