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カラオケボックスで

青木クンの電話が終わり次第、いつものカラオケ店に向かった。

店に着くと涼が先に店員に部屋をかけあってくれていた。

あいかわらず、真菜が涼の腕にしがみ付いて離れていない。

真菜の横顔をうかがった。

とても嬉しそうな顔をしている。

真菜……

もしかして、真菜は涼のことが……

自分の気持ちにも、涼の気持ちにも気が付かなかったわたしが、真菜の気持ちに気付くはずない。

あのアイドルが好きだ、こっちのほうがカッコイイ。そんな、現実味のない当り障りのない話題でいつも盛り上がっていた。

真菜とも水華とも高校に入学してから友達になった。

友達になって、まだ三カ月しか経っていない。

高校に入ると、達樹に水華という彼女が出来て、それで、少し、テレビの向こうの世界ではなく、真面目にだれかステキな彼と付き合いたいと思い始めていた矢先だった。

わたしにとって、このクラスの仲間はワイワイ言い合うただの友達に過ぎなかったんだ。

だから、涼はだれが好きだとか、真菜はだれが好きだとか、気にも止めていなかった。

昨日、涼と抱き合って、眼の前にかかっていたフィルターが消えてなくなった。

見るもの全てが変わって見え始めた。

そして、大事なモノが……くっきりとしたかたちで、目の前に現れた。

涼……

いつも傍にいた涼の全てが愛しくて、心の底から無言で叫んでいた。

『涼から離れて』

青木クンには悪いと思ったけど、電話が終わって駆け寄って来た時、わたしは手を制服のベストのポケットに突っ込んで、手は繋ごうとしなかった。

青木クンはその話題はスル―してくれたけど、やはり、気を悪くしたにちがいない。




店員に部屋へと案内され、十名ほど入る個室へと入った。涼は相変わらず不機嫌な顔で、真菜の手を振りほどいてドカッとソファに座った。

涼の隣には、すかさず真菜が……

わたしはそんな涼と真菜に向かい合うように青木クンと隣同士にソファに座った。

達樹と水華は、涼と真菜の隣に座り、早速歌う歌を検索し始めている。

薄暗い部屋の中で、達樹と水華の笑いあう声が響いていた。

青木クンの横顔をチラリと見ると、歌う気は無さそうで、ドリンクメニューを手にしていた。

達樹がマイクを手にして歌い始めた。いつもなら、涼がこれでもかとヤジを飛ばすのに、今日は一言も声を掛けずに、選曲用のリモコンばかりを弄っている。

わたしも歌う気にもなれず、そんな涼の姿をボンヤリと眺めていた。達樹の歌が済んで、水華、真菜へと続いて、また、さっき歌ったばかりの達樹がマイクを持った。

青木クンは好きな歌ばかりだと言って、みんなの歌を聞き入っていた。

注文したみんなのドリンクが運ばれてきて、それを全て飲みほした頃、青木クンが急に席を立った。

「沙都ちゃん。あのさ、俺、今から同じ野球部の子の家に県大会の日程表のプリントを持って行かなきゃいけないから、これで帰るよ」

「日程表?」

「うん。そいつ、今日は部活を休んだからさ」

すると、真菜が

「沙都も一緒に帰っていいよ。ラブラブして、二人きりで帰りなよ」

気を利かせているんだぞと言わんばかりの勢いで、そう言ってきた。

「じゃあ……沙都ちゃんも途中まで一緒にかえろ?」

立っていた青木クンがわたしの腕を掴んで引っ張り上げて来た。

二人切り……

『ごめんなさい』を言ういい機会かもしれない。

青木クンに付き合えないと断りを言う、絶好のチャンスだ。

だけど……心は、涼と真菜のことが気になる。

真菜に涼を持って行かれそうで……そう思うと胸が苦しくなった。

青木クンに腕を引っ張られたまま、席を立った。

「みんなの沙都ちゃんは俺が責任持って送り届けるからさ」

青木クンが気さくにそう言ってみんなに笑い掛けた。

「沙都~。今日はわたしたちの奢りだからね~。お金は気にしないでよ」

水華がニッコリ笑って、手を振ってくれた。

「うん。ありがと。じゃあね」

みんなに手をふる青木クンに、腕を取られたまま、個室の出入り口ドアの前で涼の顔を窺った。

これでもかと言うくらい、熱い視線を浴びせて来た。

目力が凄かった。

そんな涼と見つめ合いながら、涙が出そうになったが、青木クンに促されて、個室の外に出た。


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