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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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69/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 69

「…それは、なんだ?…」


 私は、聞き返した…


 が、


 すぐに、アムンゼンが、


 「…矢田さん、周りを見て下さい…」


 と、言った…


 「…周りだと?…」


 私は、アムンゼンの言葉で、周囲を見た…


 すると、すでに、


 …囲まれていた!…


 この場所には、この矢田と、アムンゼンのみならず、バニラと太郎もいる…


 なんというか…


 実に、目立つ!


 目立つ、組み合わせだった(笑)…


 だから、観衆に囲まれていた…


 大勢の群衆に囲まれていた…


 この矢田トモコは、平凡だが、猿の太郎を連れている…


 そして、その隣には、男装したバニラ…


 180㎝の大女だ…


 さらに、このアムンゼン…


 3歳の幼児だ…


 アムンゼン自体は、サウジアラビアの王子だから、肌が、浅黒いだけだが、その傍らには、黒いスーツ姿の屈強なボディーガードを、何人も連れている…


 サウジアラビアの王子だから、当たり前だ…


 だから、目立つ…


 目立つのだ…


 それゆえ、周囲の人間たちが、放っておくわけが、なかった…


 すでに、私と太郎とバニラの3人が、歩いているだけでも、十分に目立っていたが、それに、このアムンゼンを加えたものだから、さらに、目立った…


 まるで、見世物というか…


 一体、なにが、起こったんだとでも、いうように、大勢の人間が、私たちをスマホのカメラで、一様に、撮影していた…


 私も、遅まきながら、それに、気付いて、ようやく、アムンゼンの

 

 「…矢田さん、周りを見て下さい…」


 と、いう言葉の意味に、気付いた…


 そして、焦った…


 …これは、マズい…


 と、焦った…


 私と、太郎と、バニラが、いっしょにいることで、目立つのは、いい…


 それが、当初の目的だからだ…


 私たちが、目立つことで、周囲の一般人が、私たちをスマホで、撮影した写真や、動画をネットに上げる…


 それが、話題になり、その結果、来日するサウジの前国王や、その側近たちの目に留まり、前国王の方から、私たちに、声が、かかる…


 そういう筋書きだったからだ…


 が、


 正直、そこに、このアムンゼンが、いるのは、マズい…


 ハッキリ言って、前国王が、どういう態度を、とるのか、見えん…


 前国王が、どういう態度を取るのか、わからん…


 自分に会いたいが、ために、アムンゼンを人質にとったとまでは、言わないが、利用したと、思うだろう…


 それが、マズい…


 前国王の心証を悪くするからだ…


 だから、マズい…


 私は、思った…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、アムンゼンが、


 「…バニラさんも、お久しぶりです…」


 と、バニラに挨拶した…


 すると、バニラも、


 「…こちらこそ、お久しぶりです…殿下…」


 と、丁寧に挨拶した…


 私は、驚いた…


 驚いたのだ…


 なぜ、バニラが、こんなにも、アムンゼンに丁寧に接するのか、わからんかったからだ…


 すると、アムンゼンもまた、


 「…バニラさん、ご丁寧にありがとうございます…」

 

 と、返した…


 私は、目が点になった…


 私の細い目が点になった…


 すると、だ…


 「…殿下、いつも、娘の面倒を見て下さり、ありがとうございます…」


 と、続けた…


 それで、納得した…


 マリアだ…


 このバニラの娘のマリアだ…


 このアムンゼンは、マリアに首ったけ…


 マリアにべた惚れしている…


 それは、マリアが、アムンゼンの面倒を見たから…


 このアムンゼンとマリアは、同じ保育園に通う…


 日本に滞在するセレブの外国人の子供たちが、通うセレブの保育園に通う…


 アムンゼンは、ホントは、30歳だが、3歳の幼児にしか、見えんから、わざと、保育園に通った…


 その方が、都合が、良いからだ…


 まさか、アラブの至宝と呼ばれた、優れた頭脳の持ち主が、外見が、3歳の幼児にしか、見えないとは、誰も、思わないだろう…


 しかも、ホントは、30歳にも、関わらず、3歳にしか見えない…


 小人症だからだ…


 アムンゼンは、それを逆手にとって、3歳の幼児を演じた…


 3歳の幼児だから、保育園に通った…


 が、


 ホントは、30歳なのだから、保育園に馴染めるはずが、なかった…


 保育園の中で、周囲に馴染めず、孤立した…


 当然のことだ…


 そして、孤立したアムンゼンを救ったのが、マリアだった…


 マリアは、3歳ながら、親分気質というか…


 類まれなリーダーシップがあった(笑)…


 だから、周囲に馴染めないアムンゼンの面倒をみた…


 それゆえ、アムンゼンは、マリアに頭が上がらなくなった…


 同時に、マリアに惚れた(爆笑)…


 ホントは、30歳のアムンゼンが、3歳のマリアに惚れるのは、おかしいが、事実だった…


 現実だった(爆笑)…


 自分の面倒を親身にみてくれるマリアに好意を抱いたのだ…


 なにより、マリアは、下心がない…


 下心というのは、アムンゼンは、アラブ世界の実力者…


 その権力を目当てに、アムンゼンに取り入る者が、後を絶たない…


 が、


 3歳のマリアには、そんな下心=権力に、おもねるつもりは、まったくない…


 純粋になんの下心もなく、アムンゼンの面倒をみてくれる…


 だから、アムンゼンは、マリアが好きだったのだ…


 これは、誰もが、同じだろう…


 誰もが、他人が、親身になって、自分の面倒をみてくれるのは、いい…


 だが、下心が、ミエミエだと、誰もが、興ざめする…


 当たり前のことだ…


 バニラの言葉に、アムンゼンは、


 「…いえ、バニラさん、マリアに面倒をみてもらっているのは、ボクの方です…」


 と、返した…


 「…そんな…」


 と、バニラ…


 「…ボクは、マリアに会って、つくづく良かったと、思います…そして、矢田さんにも…」


 …なんだと?…


 …この矢田だと?…


 …一体、この矢田と会って、なにが、良かったんだ?…


 私は、思った…


 だから、


 「…アムンゼン…この私と会って、なにが、良かったんだ?…」


 と、直球で、聞いた…


 いや、


 聞いてやった…


 私の質問に、アムンゼンは、


 「…それは…」


 と、口を濁した…


 「…それは、なんだ?…」


 「…それは…」


 「…お姉さんといると、楽しいんでしょ?…」


 と、バニラが、横から、口を出した…


 「…楽しいだと?…」


 「…そう…」


 「…一体、私といて、なにが、楽しい?…私は平凡さ…平凡極まりない女さ…」


 「…いえ、矢田さんは、平凡では、ありません…」


 アムンゼンが、答えた…


 「…平凡ではない? …だったら、なんだと、言うんだ?…」


 「…矢田さんは、あったかいんです…」


 「…私が、あったかいだと?…」


 「…例えてみれば、矢田さんは、焚火のようなものです…」


 「…焚火だと? …」


 「…冬に焚火をすれば、周りにひとが集まります…焚火をすれば、暖かいからです…それを目当てに、焚火の周りに、ひとが集まる…」


 「…」


 「…矢田さんは、それと、同じです…」


 アムンゼンが、断言した…


 私は、なんと言っていいか、わからんかった…


 そもそも、この発言が、この矢田を褒めているのか?


 それとも、けなしているのか?


 わからんかった…


 いや、


 褒めているのは、わかる…


 が、


 この矢田の本音は、そんなところには、ない…


 …なぜ、このアムンゼンは、ホントは、30歳の大人だから、この矢田の大きな胸に惚れたと言えん…


 それが、不満だった…


 「…ホントは、自分が、小人症でなければ、矢田さんと、結婚したかったです…」


 と、言えんのだ…


 それが、猛烈に、不満だった…


 ホントは、私だって、こんなことは、言いたくない…


 が、


 隣には、バニラがいる…


 美人のバニラがいる…


 バニラは、この矢田に、いつも歯向かうから、嫌いだが、その美貌は、認めざるを得ん…


 それほど、キレイだった…


 だからだ…


 だから、この矢田を焚火にたとえるのでは、なく、


 「…矢田さんは、胸が大きくて、凄いです…」


 と、言ってもらいたかったのだ…


 そんな人柄とか、そんなことで、褒めてもらいたくなかったのだ…


 ルックスで、褒めてもらいたかったのだ…


 それは、ちょうど、小さな子供を見て、


 「…いつも、元気で、羨ましいです…」


 と、言っているのと、同じ…


 同じだ…


 最初は、そんなものかと、思ったが、会うたびに言われる…


 よく考えれば、褒めるところが、他にないからだ…


 ルックスも平凡…


 頭も平凡…


 他に、褒めるところが、なにもない…


 だから、


 「…いつも、元気で、羨ましい…」


 と、しか、言えない(笑)…


 他に褒めるところが、なにもないからだ…


 これは、別段、私のことを、言っているのではない…


 誤解して、もらっては、困る…


 あくまで、一般論…


 一般論に過ぎない…


 私のことではない!


 断じて、私のことではないのだ!


 私が、そんなことを、考えていると、背後から、


 「…アムンゼン…アンタ…だから、ダメなのよ…」


 と、いう声がした…


 幼児の声がした…


 その声は、続けて、


 「…矢田ちゃんは、ルックスを褒めてもらいたいの…」


 と、言った…


 女の声だった…


 小さな女の子の声だった…


 「…バカね…アムンゼン…アンタ、いくつになっても、女心がわからないのね…」


 私は、その声に、聞き覚えが、あった…


 だから、その声のする方に、振り向こうとした…


 が、


 私が、振り向く前に、


 「…マリア…」


 と、バニラが叫んだ…


 マリアの母親のバニラが叫んだ…


 そこにいたのは、バニラの娘のマリアだった…


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