35歳のシンデレラ 大道芸人編 69
「…それは、なんだ?…」
私は、聞き返した…
が、
すぐに、アムンゼンが、
「…矢田さん、周りを見て下さい…」
と、言った…
「…周りだと?…」
私は、アムンゼンの言葉で、周囲を見た…
すると、すでに、
…囲まれていた!…
この場所には、この矢田と、アムンゼンのみならず、バニラと太郎もいる…
なんというか…
実に、目立つ!
目立つ、組み合わせだった(笑)…
だから、観衆に囲まれていた…
大勢の群衆に囲まれていた…
この矢田トモコは、平凡だが、猿の太郎を連れている…
そして、その隣には、男装したバニラ…
180㎝の大女だ…
さらに、このアムンゼン…
3歳の幼児だ…
アムンゼン自体は、サウジアラビアの王子だから、肌が、浅黒いだけだが、その傍らには、黒いスーツ姿の屈強なボディーガードを、何人も連れている…
サウジアラビアの王子だから、当たり前だ…
だから、目立つ…
目立つのだ…
それゆえ、周囲の人間たちが、放っておくわけが、なかった…
すでに、私と太郎とバニラの3人が、歩いているだけでも、十分に目立っていたが、それに、このアムンゼンを加えたものだから、さらに、目立った…
まるで、見世物というか…
一体、なにが、起こったんだとでも、いうように、大勢の人間が、私たちをスマホのカメラで、一様に、撮影していた…
私も、遅まきながら、それに、気付いて、ようやく、アムンゼンの
「…矢田さん、周りを見て下さい…」
と、いう言葉の意味に、気付いた…
そして、焦った…
…これは、マズい…
と、焦った…
私と、太郎と、バニラが、いっしょにいることで、目立つのは、いい…
それが、当初の目的だからだ…
私たちが、目立つことで、周囲の一般人が、私たちをスマホで、撮影した写真や、動画をネットに上げる…
それが、話題になり、その結果、来日するサウジの前国王や、その側近たちの目に留まり、前国王の方から、私たちに、声が、かかる…
そういう筋書きだったからだ…
が、
正直、そこに、このアムンゼンが、いるのは、マズい…
ハッキリ言って、前国王が、どういう態度を、とるのか、見えん…
前国王が、どういう態度を取るのか、わからん…
自分に会いたいが、ために、アムンゼンを人質にとったとまでは、言わないが、利用したと、思うだろう…
それが、マズい…
前国王の心証を悪くするからだ…
だから、マズい…
私は、思った…
そして、私が、そんなことを、考えていると、アムンゼンが、
「…バニラさんも、お久しぶりです…」
と、バニラに挨拶した…
すると、バニラも、
「…こちらこそ、お久しぶりです…殿下…」
と、丁寧に挨拶した…
私は、驚いた…
驚いたのだ…
なぜ、バニラが、こんなにも、アムンゼンに丁寧に接するのか、わからんかったからだ…
すると、アムンゼンもまた、
「…バニラさん、ご丁寧にありがとうございます…」
と、返した…
私は、目が点になった…
私の細い目が点になった…
すると、だ…
「…殿下、いつも、娘の面倒を見て下さり、ありがとうございます…」
と、続けた…
それで、納得した…
マリアだ…
このバニラの娘のマリアだ…
このアムンゼンは、マリアに首ったけ…
マリアにべた惚れしている…
それは、マリアが、アムンゼンの面倒を見たから…
このアムンゼンとマリアは、同じ保育園に通う…
日本に滞在するセレブの外国人の子供たちが、通うセレブの保育園に通う…
アムンゼンは、ホントは、30歳だが、3歳の幼児にしか、見えんから、わざと、保育園に通った…
その方が、都合が、良いからだ…
まさか、アラブの至宝と呼ばれた、優れた頭脳の持ち主が、外見が、3歳の幼児にしか、見えないとは、誰も、思わないだろう…
しかも、ホントは、30歳にも、関わらず、3歳にしか見えない…
小人症だからだ…
アムンゼンは、それを逆手にとって、3歳の幼児を演じた…
3歳の幼児だから、保育園に通った…
が、
ホントは、30歳なのだから、保育園に馴染めるはずが、なかった…
保育園の中で、周囲に馴染めず、孤立した…
当然のことだ…
そして、孤立したアムンゼンを救ったのが、マリアだった…
マリアは、3歳ながら、親分気質というか…
類まれなリーダーシップがあった(笑)…
だから、周囲に馴染めないアムンゼンの面倒をみた…
それゆえ、アムンゼンは、マリアに頭が上がらなくなった…
同時に、マリアに惚れた(爆笑)…
ホントは、30歳のアムンゼンが、3歳のマリアに惚れるのは、おかしいが、事実だった…
現実だった(爆笑)…
自分の面倒を親身にみてくれるマリアに好意を抱いたのだ…
なにより、マリアは、下心がない…
下心というのは、アムンゼンは、アラブ世界の実力者…
その権力を目当てに、アムンゼンに取り入る者が、後を絶たない…
が、
3歳のマリアには、そんな下心=権力に、おもねるつもりは、まったくない…
純粋になんの下心もなく、アムンゼンの面倒をみてくれる…
だから、アムンゼンは、マリアが好きだったのだ…
これは、誰もが、同じだろう…
誰もが、他人が、親身になって、自分の面倒をみてくれるのは、いい…
だが、下心が、ミエミエだと、誰もが、興ざめする…
当たり前のことだ…
バニラの言葉に、アムンゼンは、
「…いえ、バニラさん、マリアに面倒をみてもらっているのは、ボクの方です…」
と、返した…
「…そんな…」
と、バニラ…
「…ボクは、マリアに会って、つくづく良かったと、思います…そして、矢田さんにも…」
…なんだと?…
…この矢田だと?…
…一体、この矢田と会って、なにが、良かったんだ?…
私は、思った…
だから、
「…アムンゼン…この私と会って、なにが、良かったんだ?…」
と、直球で、聞いた…
いや、
聞いてやった…
私の質問に、アムンゼンは、
「…それは…」
と、口を濁した…
「…それは、なんだ?…」
「…それは…」
「…お姉さんといると、楽しいんでしょ?…」
と、バニラが、横から、口を出した…
「…楽しいだと?…」
「…そう…」
「…一体、私といて、なにが、楽しい?…私は平凡さ…平凡極まりない女さ…」
「…いえ、矢田さんは、平凡では、ありません…」
アムンゼンが、答えた…
「…平凡ではない? …だったら、なんだと、言うんだ?…」
「…矢田さんは、あったかいんです…」
「…私が、あったかいだと?…」
「…例えてみれば、矢田さんは、焚火のようなものです…」
「…焚火だと? …」
「…冬に焚火をすれば、周りにひとが集まります…焚火をすれば、暖かいからです…それを目当てに、焚火の周りに、ひとが集まる…」
「…」
「…矢田さんは、それと、同じです…」
アムンゼンが、断言した…
私は、なんと言っていいか、わからんかった…
そもそも、この発言が、この矢田を褒めているのか?
それとも、けなしているのか?
わからんかった…
いや、
褒めているのは、わかる…
が、
この矢田の本音は、そんなところには、ない…
…なぜ、このアムンゼンは、ホントは、30歳の大人だから、この矢田の大きな胸に惚れたと言えん…
それが、不満だった…
「…ホントは、自分が、小人症でなければ、矢田さんと、結婚したかったです…」
と、言えんのだ…
それが、猛烈に、不満だった…
ホントは、私だって、こんなことは、言いたくない…
が、
隣には、バニラがいる…
美人のバニラがいる…
バニラは、この矢田に、いつも歯向かうから、嫌いだが、その美貌は、認めざるを得ん…
それほど、キレイだった…
だからだ…
だから、この矢田を焚火にたとえるのでは、なく、
「…矢田さんは、胸が大きくて、凄いです…」
と、言ってもらいたかったのだ…
そんな人柄とか、そんなことで、褒めてもらいたくなかったのだ…
ルックスで、褒めてもらいたかったのだ…
それは、ちょうど、小さな子供を見て、
「…いつも、元気で、羨ましいです…」
と、言っているのと、同じ…
同じだ…
最初は、そんなものかと、思ったが、会うたびに言われる…
よく考えれば、褒めるところが、他にないからだ…
ルックスも平凡…
頭も平凡…
他に、褒めるところが、なにもない…
だから、
「…いつも、元気で、羨ましい…」
と、しか、言えない(笑)…
他に褒めるところが、なにもないからだ…
これは、別段、私のことを、言っているのではない…
誤解して、もらっては、困る…
あくまで、一般論…
一般論に過ぎない…
私のことではない!
断じて、私のことではないのだ!
私が、そんなことを、考えていると、背後から、
「…アムンゼン…アンタ…だから、ダメなのよ…」
と、いう声がした…
幼児の声がした…
その声は、続けて、
「…矢田ちゃんは、ルックスを褒めてもらいたいの…」
と、言った…
女の声だった…
小さな女の子の声だった…
「…バカね…アムンゼン…アンタ、いくつになっても、女心がわからないのね…」
私は、その声に、聞き覚えが、あった…
だから、その声のする方に、振り向こうとした…
が、
私が、振り向く前に、
「…マリア…」
と、バニラが叫んだ…
マリアの母親のバニラが叫んだ…
そこにいたのは、バニラの娘のマリアだった…




