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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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63/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 63

と、そこまで、考えて気付いた…


 サウジアラビアの前国王が、なぜ、この矢田と、会いたいと、言ったか? だ…


 それを、考えた…


 考えてみれば、それは、この矢田を味方につけるためだった…


 この矢田は、アムンゼンと仲がいい…


 そのアムンゼンが、言うには、今、サウジアラビアでは、アムンゼンの父である、前国王と、兄である、現国王が争っていると、聞いた…


 そして、それを、仲裁できるのは、アムンゼンだけだと…


 アムンゼンは、外見こそ、小人症で、3歳の子供にしか、見えないが、頭脳は、明晰…


 ずば抜けている…


 それゆえ、アラブの至宝と、呼ばれている…


 アラブの至宝=宝と、呼ばれている…


 それは、サウジアラビア一国のみならず、アラブ世界全体を、見ても、宝と呼ばれるほど、優れた頭脳の持ち主だからだ…


 だから、兄である現国王と、父である、前国王の争いを止めることができるのは、アムンゼンだけだと、周囲から、見られている…


 それゆえ、アムンゼンに、自分の側についてもらうべく、現国王と前国王の側近が、この矢田に近付いてくる…


 そんな情報をアムンゼンが、知ったから、アムンゼンは、太郎と、大道芸人の旅を続けていた、この矢田の元に、やって来た…


 この矢田の身を守るべく、やって来たのだ…


 が、


 まさか、直接、前国王から、この矢田に会いたいという連絡が来るとは、思わんかった…


 思わんかったのだ…


 これは、意外というか…


 ありえんことだった…


 同時に、考えたことは、アムンゼンに相談することだった…


 あのアムンゼンに、相談して、どうするべきか?


 指示を仰ぐことだった…


 私は、太郎を抱きながら、そう、気付いた…


 そう、気付いたときだった…


 「…お姉さん…」


 と、葉尊が、声をかけた…


 私は、反射的に、


 「…なんだ?…」


 と、告げた…


 「…お姉さんは、バニラを頼るべきです…」


 と、葉尊が、言った…


 「…バニラを頼れだと?…」


 「…そうです…」


 「…どうして、バニラを頼れと、言うんだ?…」


 「…バニラは、信頼できます…バニラは、信頼するに、足る女です…」


 「…バニラが、信頼できるだと? どうして、そう言い切れる?…」


 「…ボクが、やって来るまで、バニラは、全力で、お姉さんを護衛していたでしょ? バニラは、信頼できる女です…」


 葉尊が、言った…


 が、


 私は、なんだか、気に入らんかったというか…


 なぜ、葉尊が、そんなことを、突然、言うのか?


 わからんかった…


 そもそも、この葉尊とバニラの関係は、微妙なはずだ…


 すでに、何度も説明したように、バニラは、葉尊の父、葉敬の愛人…


 葉敬とバニラの間には、マリアという3歳の娘がいる…


 そのバニラは、まだ21歳で、29歳になる、葉尊より、8歳も年下…


 だから、葉尊とバニラの関係は、微妙…


 葉尊にとって、自分より、8歳も年下の女が、自分の父親の愛人では、面白いはずがないからだ…


 それが、今、


 「…バニラを頼れ…」


 とは?


 一体、どういうことだ?


 もしや、さっきも、思ったように、この葉尊は、この矢田とバニラを、サウジアラビアの前国王の元へやり、私たちふたりを亡き者に、するつもりか?


 思ったのだ… 


 そして、そんなことを、考えながら、ジッと、葉尊を見た…


 太郎を抱きながら、目の前の葉尊を見た…


 すると、だ…


 目の前の葉尊が、いつのまにか、葉問に変わっていたことが、わかった…


 「…オマエは、葉問!…いつのまに?…」


 私が、驚いて、言うと、私の膝の上に乗った太郎が、嬉しそうに、


 「…キー…」


 と、鳴いた…


 私は、太郎が、嬉しそうに、鳴いたことで、あらためて、目の前の人物が、夫の葉尊ではなく、葉尊のカラダを持つ、葉尊のもう一人の人格である、葉問だと、確信した…


 太郎は、葉尊は、嫌うが、葉問は、好きだからだ…


 だから、二人が、入れ替わったことを、確信したのだ…


 そして、


 「…今、バニラを頼れと言ったのは、オマエか、葉問?…」


 と、聞いた…


 「…ハイ…」


 葉問が、頷いた…


 「…どうして、そう、言った?…」


 「…バニラは、信頼できるからです…」


 「…信頼できるだと? …あの女が、か?…」


 「…そうです…」


 「…どうして、そう思う?…」


 私が、聞くと、葉問が、


 「…バニラは、単純だからです…」


 と、笑った…


 「…単純だからだと?…」


 「…ハイ…バニラは、直情型…思い込めば、一直線…根が単純です…」


 なんだか、バニラを褒めてるのか、けなしているのか、わからんことを、言った(笑)…


 「…なにより、根は、善人です…」


 「…バニラが、善人だと?…あのバニラが、善人?…」


 これまた、一気に、この葉問の信用が、消し飛ぶことを、言った…


 あのバニラが、善人のはずがない(笑)…


 あれは、バカだ!…


 ただのバカだ!…


 バカだから演技もできんから、直情型で、行動する…


 一直戦で、行動する…


 それだけだ…


 私の葉問を見る目が、一気に冷めた…


 私の葉問に対する評価が、一気に下がった…


 それが、私の表情に出たのだろう…


 「…どうしました? …お姉さんは、ボクのバニラに対する評価が、気に入らない様子ですね…」


 と、葉問が、聞いた…


 「…当り前さ…バニラは、バカと言っては、言い過ぎかも、しれんが、顔だけの女さ…顔がいいだけの女さ…信頼できる女ではないさ…」


 「…お言葉ですが、お姉さん…そのバニラが、葉尊が、来るまで、お姉さんを真摯に守ったのを、お忘れですか?…」


 「…それは…」


 私は、言い淀んだ…


 たしかに、その通り…


 その通りだからだ…


 バニラは、私を真摯に守った…


 それで、バニラを、見直した…


 まさか、あれほど、真摯に、バニラが、私を、守ってくれるとは、思わんかったからだ…


 だから、驚いた…


 同時に、感激した…


 普段、いつも、この矢田に向かって、暴言を吐き、生意気な口を利く、バニラとは、別人が、そこにいたからだ…


 だから、驚いたし、バニラの評価が、変わった…


 バニラが、あれほど、真剣に私を守るのを見て、


 …だから、この女は、モデルとして、成功したんだ…


 と、思った…


 どんなことも、成功することは、並大抵の努力では、できない…


 まして、バニラは、世界的なモデルとして、成功した…


 だから、その努力は、半端ないに違いないからだ…


 私を守るときの集中力が、半端なかったからだ…


 うっかり話しかけることも、出来ん…


 それほどの集中力だった…


 成功するには、才能や運の問題も、あるのは、わかる…


 才能や、運が、なければ、いくら努力しても、成功は、できないからだ…


 それは、例えば、東大に、受かるか、否か?


 と、同じ…


 いくら、努力しても、頭が、良くなければ、東大には、受からない…


 それと、似ている…


 が、


 成功をしても、その成功を続けるのは、また、努力に、他ならない…


 いったん、成功しても、努力を続けなければ、すぐに、その座から、引きずり降ろされるというか…


 他の人間に、その座を奪われるだろう…


 それは、マラソンに例えれば、わかる…


 自分が、先頭グループの一人で、いても、油断すれば、すぐに、先頭グループから、脱落するだろう…


 東大に入っても、勉強を続けなければ、すぐに、周りの人間から、おいてきぼりをくらうだろう…


 当たり前のことだ…


 周りが、わかることが、自分だけ、わからないということになる…


 つまりは、どんなときも、努力は、必要だということだ…


 私は、考えた…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、葉問が、


 「…お姉さんも、バニラのことが、少しは、わかったようですね…」


 と、笑った…


 が、


 私は、葉問の、その言い方が、気に入らんかった…


 たしかに、バニラのことは、わかる…


 バニラのことは、評価できる…


 が、


 葉問の笑いが、気に入らんかった…


 なんだか、バカにされている…


 なんだか、下に見られている…


 そんな感じがしたのだ…


 だから、


 「…葉問…その笑いは、なんだ?…」


 と、私は、怒鳴った…


 「…なんだ! …その笑いは!…」


 と、怒鳴った…


 私は、頭に来たのだ…


 が、


 それが、いかんかった…


 私の膝の上に乗った太郎が、


 「…キー…」


 と、哀し気に鳴いた…


 私は、慌てて、太郎を見た…


 すると、太郎が、哀し気な表情で、私を見ていた…


 まるで、私を責めるかのようだった…


 たった今、怒鳴った私を責めるかのように、思えた…


 太郎は、私の息子だった…


 その息子から、見れば、母親の私が、いきなり、怒鳴り出したのが、嫌だったに、違いない…


 これは、人間に例えれば、わかる…


 誰もが、母親といっしょにいて、突然、その母親が、誰かと、ケンカを始めれば、嫌だと、思わないものは、いないだろう…


 それと、同じだ…


 だから、太郎の気持ちに、気付くと、私は、太郎を抱き締めながら、


 「…すまんかったさ…太郎…」


 と、詫びた…


 「…怒鳴ったりして、すまんかったさ…オマエを哀しませて、すまんかったさ…」


 と、繰り返した…


 私にとって、太郎は、もはや、私の息子だった…


 35歳の矢田トモコにとって、初めて、出来た子供だった…


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