【婚約破棄短編】ニセモノ聖女に追放されましたが、精霊たちが崇拝するので辺境で贅沢に暮らします
「エリア、君のような力のない聖女はもう不要だ! 我が国の宝であるベアトリスこそが、真の聖女に相応しい!」
王太子の傲慢な宣告と同時に、私の左手から聖女の紋章が消えた。
派手な光の演出と、宝石を散りばめたような奇跡を操る「ニセモノ」のベアトリス。
彼女が操っていた華やかな奇跡の正体。
それは魔法でも神の加護でもなく、私が十年かけて精霊と結んできた『土壌浄化の魔力循環システム』を、魔道具で無理やり吸い上げていたものに過ぎない。
私はただ、静かに微笑んだ。
「……ええ、存分に愛でて差し上げればよろしいわ。『偽りの繁栄』が、どれほど脆いものか知らないままに」
王宮を去り、流れ着いたのは、地図からも忘れられた辺境の荒野。
だが、足を踏み入れた瞬間、荒れ果てた大地に奇跡が起きた。
精霊たちが、私を待ちわびていたかのように足元で踊り、枯れ木が瞬時に花を咲かせ、大地が黄金色に脈動を始める。
その頃、王都では――。
ベアトリスが手をかざすたび、大地は悲鳴を上げ、噴水から湧き出るはずの水は泥水に変わり、王都全域に深刻な「死」が浸食していた。
彼女が精霊を呼べば呼ぶほど、契約を無視された精霊たちの怒りは国を焦がし、穀物は灰へと変わる。
一年後。
飢餓と暴動に塗りつぶされた王都から、変わり果てた姿の王太子が辺境の領主邸に現れた。
「エリア、頼む! ベアトリスは……詐欺師だったんだ! 精霊たちが俺たちを殺そうとしている! 戻ってきてくれ、王国を救えるのは君しかいない!」
私は、窓の外に広がる、精霊の祝福に満ち溢れた領地を眺めた。
紅茶の湯気が、優雅に立ち上る。
「戻る? 貴方はまだ勘違いをされていますわね」
王太子の足元に、一通の契約書を放り投げた。
「貴国が枯れ果てているのは、私が去ったからではありません。貴方たちが『本物』を捨て、『偽物』という名の不純物を王宮に迎え入れた結末ですわ」
冷ややかな瞳で、かつての婚約者を見下ろした。
「私は、この地の領主として多忙なのです。……お帰りなさいませ。ニセモノと二人で、滅びゆく王都という名の棺桶の中で、心ゆくまで最期を看取って差し上げなさい」
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
聖女エリアにとって、国を去ることは「追放」ではなく「契約解除」に過ぎませんでした。
本質を見極める目を持たない者に、本物の奇跡を委ねる道理はない――。
そんな彼女の静かな矜持を感じていただければ幸いです。




