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第12話 パーティと進化するローグライク

ホームルーム前の教室は、いつものざわめきに包まれていた。


机を寄せて話す声、椅子を引く音、誰かの笑い声。

昨日と同じ風景。


私は、いつものように教室のドアをそっと開けた。


なるべく目立たないように。

なるべく音を立てないように。


こっそり入って、そのまま無言で自分の席へ向かう。


鞄を置いて、前髪の奥で視線を落とす。

いつもの朝…のはずだった。


とんって、肩に手が置かれた。


びくっと体が跳ねる。

振り向くと、そこにほのかが立っていた。


明るい顔で、にこっと笑う。


「おはよー、しずく」


心臓が、一瞬止まった。

教室の空気が、わずかに変わる。


でも、ほのかはそんなことを気にしていないみたいに、私の肩に軽く手を置いたまま顔を少し近づける。

そのまま、耳元で小さな声。


「探索者のことは内緒ね」


ささやくように言う。


私は慌てて頷いた。


「…う、うん」


それだけ。

本当に、それだけだった。


ほのかは、何事もなかったみたいに自分の席へ戻っていく。

まるで、普通の朝の挨拶みたいに。


でもそれだけで、教室の空気がざわっと揺れた。


「え?」

「今、神宮さん…」

「え、あの子と知り合い?」

「え、なに?」

「話してたよね?」

「え、いつの間に?」


ざわざわ、ひそひそ。

視線が、ちらちらとこっちに向く。


机を見つめたまま俯くが、逃げ場がない。

でも、昨日とは違う。

昨日までの私は、ただのぼっちだった。


でも今日からは…。


肩に手を置いてくれる人がいる。

耳元で秘密を共有する人がいる。


それだけで、教室の景色がほんの少しだけ違って見えた。


私は前髪の奥で、そっと息を吐く。

そして、小さく呟いた。


「…おはよう」


誰にも聞こえないくらいの声で。

それは、ちゃんと返事だった。



放課後の探索者協会は、相変わらず人の出入りが多かった。


素材袋を抱えた探索者。

装備を点検している人。

受付で手続きをしている人。


その片隅で、私は立っていた。


そわそわしている。

落ち着かない。


人生初の待ち合わせ。

壁際のベンチの横で、カードを握ったり離したりする。


まだかな…まだかな。


時計を見る。

まだ三分しか経っていない。


ロビーの時間だけ、やけにゆっくり流れている気がした。


私は視線をさまよわせる。

すると、入口の方に列ができているのが見えた。


初心者講習。

新しく探索者登録した人たちが、まとまって案内されている。


十人くらいで、装備もどこかぎこちない。

昨日の私と同じだ。


私はぼんやりとその列を眺めていた、そのとき。


「あれ?」


思わず小さく声が出た。


一人、列の中に妙に小さい子がいる。

小さい、明らかに小さい。


…小学生?


いや、まさか。

探索者は法律で満十六歳からだ。

講習の列にいる以上、登録は通っているはず。


その子はどう見ても、小学生くらいにしか見えなかった。

背が低い、体も細い。

装備も、ぶかぶかに見える。

たぶん、着替えたばかりなんだろう。


動きやすそうな軽装。

その上に、ローブみたいなものを羽織っている。


マジシャン、そんな雰囲気だった。

フードを少しかぶっていて、顔はよく見えない。


でも、年齢だけはどうしても違和感がある。


「なんで…」


私は思わず首を傾げた。


そのとき、後ろから元気な声がした。


「おまたせー!」


ポニーテールを揺らしながら、いつもの笑顔で歩いてくる。


その瞬間、私の意識は一気に戻った。


「…あ」


待ち合わせ、私は慌てて姿勢を正した。

ほのかが私の隣に来て、にやっと笑う。


「もう来てた?ごめん!」


「…う、ううん」


私は小さく首を振る。

それから、さっき見ていた列の方を指差した。


「…あの」


「ん?」


「…あの子」


ほのかが視線を向ける。


初心者講習の列。

その小さい子を見て、少し表情を変えた。


そして、小さく笑う。


「たまにいるんだよね」


「…え」


ほのかは肩をすくめる。


「童顔というか、小さい子」

「たぶん、高校生かなぁ」


…童顔。


私はもう一度、その子を見た。

小さいくて細い。


どう見ても小学生。

でも、首から探索者カードを下げている。


その子は、列の中で静かに前を見ていた。

まるで、最初からそこにいるのが当然みたいに。


「ま、とりあえず他の人のことは置いといて」


ほのかが、手を軽く叩いた。


「受付いこ!」


「…え」


私はまだ列の方を見ていたけど、ほのかはもう歩き出している。

振り向いて、にっと笑う。


「正式にパーティー申請しよ」


パーティー申請。

その言葉に、胸が少しだけ跳ねた。


昨日は、ただ約束しただけ。

でも今日は、正式に組む。


私は慌ててあとを追った。


受付カウンターの前に立つと、昨日と同じ受付のお姉さんがこちらに気づいた。


「あら」


にこっと笑う。


「また来たのね」


そして、二人を見比べる。


「今日は一緒?」


ほのかが胸を張る。


「はい!パーティー申請お願いします!」


受付のお姉さんが、少し楽しそうに端末を操作した。


「いいわよ、探索者カード出して」


私は慌ててポケットからカードを取り出す。

まだ新品同然の綺麗なカード。


ほのかは慣れた手つきでカードを差し出す。

端末が小さな機械音を立てた。


「神宮ほのかさん」


「はい」


「佐倉しずくさん」


「…は、はい」


名前を呼ばれると、まだ少し緊張する。

受付のお姉さんは画面を見ながら言った。


「パーティーは途中加入や脱退も可能。収益分配は基本均等、別契約も可」


ほのかがすぐ答える。


「均等で!」


そしてちらっと私を見る。

私はこくこく頷いた。


受付のお姉さんが微笑む。


「了解、では二名パーティー登録ね」


端末を操作する音。


「はい、登録完了」


そしてカードを返してくる。


「探索者パーティー登録、2名」


その言葉が、胸の奥に落ちた。

ほのかが嬉しそうに言う。


「よし!」


私の肩を軽く叩く。


「これで正式パーティーだね」


昨日は偶然だった、でも今日は違う。


私はカードを見つめた。

そこには小さく表示が追加されていた。


パーティー:神宮ほのか


私は小さく息を吐いた。

…本当に組んだ。


ほのかがニヤニヤしながら言う。


「じゃ」


軽く顎でダンジョンゲートの方を示す。


「初パーティー行きますか」


その言葉に、胸がどくんと鳴った。




ダンジョンゲートの前。

ほのかが配信機材を確認している。


「配信オン!」


画面の向こうでコメントが流れ始める。


『きた』

『パーティー配信?』

『昨日の子だ!』

『熊キラーJK』


私はまだ少し緊張していたけど、ほのかは楽しそうだった。


「行こ!」


二人で並んで、ゲートをくぐる。

世界が反転する。

足元の感覚が消えて、次の瞬間。


湿った空気と石の匂い。

いつものダンジョン。


そして、目の前に見慣れた半透明のウィンドウが開く。


【本日の型:ガンナー型】

器用:大幅上昇

敏捷:大幅上昇


ほのかが横で声を上げる。


「お、今日ガンナーか!」


私は小さく頷く。


次のウィンドウが開いた。


【初期装備を支給します】


【79式軽機弩】

通常弾(20発)マガジン ×2


【レザー防具一式】


足元に光が落ちる。

そこに現れたのは、機弩だった。


黒い金属の塊。

クロスボウみたいなフレームに、銃の機構。


79式軽機弩。

この間の配信で、視聴者が騒いでいた武器だ。

そして、私が失ったもの。


ほのかが覗き込む。


「え、マジで79式!当たりじゃん」


私は恐る恐る持ち上げる。

79式、また戻ってきたんだ。


ほのかが笑う。


「いいねー。今日は二人ガンナーじゃん」


【パーティーメンバーを検知しました】

【ローグライク機能拡張:ロック装備共有機能を開放】


「…え?」


共有?


視聴者コメントが一瞬で爆発する。


『は???』

『共有?』

『そんな機能聞いたことない』

『チート進化してる』

『パーティー限定!?』


ほのかも目を見開いている。


「ちょっと待って」


ウィンドウがさらに開く。


【共有対象装備:銀のバックラー】

【共有可能メンバー:神宮ほのか】


私は思わず、自分の腕を見た。

銀のバックラー、昨日ロックした装備。

私はそれをそっと撫でる、金属の冷たい感触が返ってきた。


昨日までは、私だけの装備だった。

でも今、パーティーを組んだ。


「共有…?」


私は呆然と呟く。


「それってさ、私も盾使えるってこと?」


コメント欄がさらに荒れる。


『やばい』

『パーティーバフきた』

『ローグライク壊れてきた』

『この二人マジでバグキャラ』


私はまだ信じられなかった。

ローグライク、全部私の能力だった。


でも今、その能力がパーティーに広がった。


ほのかがニヤッと笑う。


「ねぇ、しずく」


私は顔を上げる。


ほのかは、楽しそうに言った。


「そのスキル、思ったよりとんでもないかもよ?」


私は銀盾を握ったまま、まだ呆然としていた。

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