5月ー1 『桃花らしさ』
5月になってしまった。
5月になってもまだなんのアクションも起こせてないなんて非常にまずい状態だ。
しかも他のヒロインに先を越されていたなんて…。
よし、もう一度作戦を練り直してみよう。
教室が騒がしい中、そんなことを休み時間に席で悩んでいると、
「よっ!悩み事かい?」
「栗花落くん?」
金髪のチャラ男、栗花落渉が声を掛けてきた。
渉は遥斗の親友で、ゲームではプレイヤーにヒロインとの親密度や攻略のヒントをくれる都合の良いお助けキャラだ。
そんな彼とはまだ面識もないはずだが声を掛けてきた。
よっぽど俺は切羽詰まった顔で考え事をしていたのだろう。
俺は桃花になった日から家でも学校でも桃花として生活している、ここは桃花のキャラになりきって返答しておこう。
「ん〜ん、大丈夫だよ!ちょっと考え事をしてただけだから」
「本当か?悩みがあるなら聞かせてみろよ、相談に乗るぜ!」
ラブダイをプレイしてた時はただのサブキャラとしか認識していなかったが、渉はとても良い奴なのかもしれない。
それに渉はプレイヤーとヒロインの仲を取り持ってくれるお助けキャラだ。
だったら逆にヒロインと主人公の仲を取り持ってくれるかもしれない。
だったら…
「あのね。実は仲良くなりたい人がいるんだ。
でもなかなか声をかけることができなくて…。」
渉に打ち明けてみた。
渉はなんて返すだろうか。
「そうなのか。まぁクラスも変わったばかりだし、初対面のやつに話しかけるなんて勇気がいるよな〜」
「栗花落くんもそうなの?
でも栗花落くんはまだ一回も話したことない私に声を掛けてくれたよね。どうして?」
「それは困っている奴がいたらほっとけないし、俺は桜野さんと仲良くなりたいと思っていたからだ。」
渉は笑顔で答えてくれた。
「ここで俺が2つアドバイスをやろう!
桜野さんは桜野さんらしく笑顔でいたらいいんじゃないか?
笑えば可愛いのに全然笑ってるところ見ないぞ。
そりゃ怖い顔してたら近づきたいもんも離れてくぜ。
それから、ちょっと難しく考え過ぎじゃないか?
桜野さんらしいやり方をしたら誰だって桜野さんと仲良くなりたいと思うはずだぜ。
もっと気楽にやってみろよ!」
確かに俺は言葉遣いを桃花っぽくしただけで、表情や考え方までは桃花になりきれていなかった。
自分から相手に話しかける勇気がないからと言って話しかけてもらおうなんて姑息な真似を桃花はしない。
根本から間違っていた。
初対面のはずなのに渉は桃花にとってというより、俺にとって的確なアドバイスをしてくれたように感じた。
さすがお助けキャラだ。
「ありがとう。やってみるよ!」
「ああ、良い笑顔になったな!」
そうだ、俺は桃花だったらどうするか、そこまで考えなきゃいけなかった。
俺は桃花になったが、俺を助けてくれるのも桃花なのだ。




