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6月ー7 『みんなの想いを連れて』


俺は海音先輩の所属事務所と正式に契約を結び所属アイドルとなった。

その際に事務所に俺はある条件を言い渡した。


そこから俺は海音先輩とアイドルの特訓の日々が始まった。

歌やダンス、表情や仕草の一つ一つまで。

初めてのことばかりで戸惑っていたがいつも海音先輩が褒めて俺を応援してくれた。

家に帰っても簡単なトレーニングを続けた。


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


ゲームの中とは言え学生だ。

学生は芸能活動だけではなく、学校行事にも精を出さなければならない。

今日はいよいよ体育祭だ。


もうすぐ7月がやってくるこの日の太陽は眩しく、気持ちの良い暑さだ。


赤組と白組は対角にそれぞれ陣地を持ち、それがそれぞれの応援席だ。

別の組の陣地に入ってはいけない決まりはないが、別の組の陣地に行っている生徒はあまり見かけない。

他クラスの仲良しな生徒と話ている生徒も少しはいるが、今日は敵同士だ。

ふと、白組の陣地に目をやると、隅の方で日傘をさし、曇った表情で1人立ち尽くしている少女がいた。


それは紅葉栞だった。

栞ちゃんは身体が弱く、ほとんどの競技を見学している。

俺は彼女に声を掛けに行った。


「栞ちゃん、今日は暑いね。」


「そうですね。」


「別々のチームで残念だよね。」


「はい…。皆さん同じチームで羨ましいです。

私一人白組で少し寂しいです…。」


栞ちゃんは少しどころか、とても寂しそうな顔をしていた。


「よかったら、一緒に皆を応援しない?」


「え、でも私達は別々のチームですよ?」


「別のチームでも友達を応援するのは悪いことではないんじゃないかな?

私も栞ちゃんのこと応援するよ!」


「桃花先輩…」


「お!桃花ちゃん、ここにいたのか!」


急に声を掛けられて振り向くと、そこには遥斗と渉がいた。


「海音先輩から聞いたぜ!桃花ちゃんアイドルデビューするって!

桃花ちゃん可愛いから絶対人気出るぜ。

俺ファン1号な!」


「可愛いだなんて、そんな。

でも、ありがとう。」


当然だろ、桃花たんが一番可愛いに決まっているだろ。

と心では思いつつも、俺は桃花らしく謙虚に答えた。


「そろそろ栞ちゃんが出る玉入れの時間じゃないかな?」


「そうですね。私はここで失礼しますね。」


玉入れは他の競技に比べてそこまで身体を動かしたり、力が必要な競技ではないので、唯一栞ちゃんが参加する競技だ。

俺たち3人は栞ちゃんがよく見えるところまで行き、全力で栞ちゃんを応援した。

最初はなかなか玉が入らなかったが、終わりの合図の笛と共に栞ちゃんは一つだけ玉を入れることができた。

結果は1個差で白組の勝ちだ。


「やりましたよ!桃花先輩ー!」


栞ちゃんはとても嬉しそうだった。


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


今度は海音先輩が参加する借り物競争だ。

海音先輩はお題が書かれた紙を一番に引き、お題を見るなり俺の方に向かって走ってきた。


「桃花ちゃん!ちょっと借りられてくれない?」


「え、私ですか?」


俺の質問に答える代わりに海音先輩は俺の手を取り、二人でゴールに向かって走った。

結果は見事一番乗りだった。


「お題はなんだったんですか?」


「内緒っ!」


ウインクで答える海音先輩の紙には『気になる子』と書かれていたが、俺には見えなかった。


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


種目が進み、いよいよ最後の全学年参加の全校リレーだ。


1年生から2年生、2年生から3年生へとバトンを繋ぐ体育祭の一番の目玉イベント。

2年生の代表は赤組は渉、白組は麗華、3年生の赤組代表は海音先輩だ。

俺は栞ちゃんと遥斗と一緒に白組の端っこの応援席で応援するつもりだったのだが…


「すまない!さっき転んじゃって、リレー走れそうにないわ〜。」


膝を血まみれにした渉が歩いて俺たちの方にやって来た。


「ちょっと、栗花落くん大丈夫?」


おいおい、何やってんだよ。


「早く保健室に!」


「俺はリレーの代表選手だ。

代表選手は代打を選ぶ権利がある!

代打は君がやってくれないか?」


「え、私?」


渉が指名したのは俺だった。


「でも、私よりも四季くんの方が、男の子だし足が速いんじゃ…。」


「それでも俺は君が良いと思うんだ。

直感だけどな。」


「渉が言うなら僕も賛成だよ。

桜野さん頑張ってね。」


「私も応援するので、桃花先輩のかっこいい姿見せてください。」


3人に背中を押されたら断る訳にはいかない。


「わかった。みんなの想いを連れて、私頑張って海音先輩にバトンを繋ぐね!」


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


「あなたなんて私の敵ではありませんですこと。」


2年生の代表者の待機場所に行くと当然だけど麗華がいた。


そして、スタートのピストルがドンッと合図を鳴らした。

1年生の2人は抜きつ抜かされほとんど同じ速さだ。

同じぐらいのタイミングで俺と麗華にバトンが渡った。

今日の俺はみんなの想いを乗せている。

本当は走りたかったであろう渉の気持ちや、栞ちゃんにかっこいいところを見せるって約束。

もうなりふり構っていられない。桃花らしさなんて知ったこっちゃない。

俺は全力で走った。

麗華との差はかなりある。


そして、海音先輩にバトンを渡した。


「桃花ちゃんすごい。あとは任せて!」


海音先輩は走り出した。

が、真ん中あたりで転んでしまった。


「海音ー!諦めちゃダメだーー!!!」


俺は心の底から美音先輩に叫んだ。

白組との差はまだあるここですぐに立ち上がって走ればまだ間に合うはずだ。


「海音先輩、頑張ってください!」

遠くからも目をうるうるさせた栞ちゃんの声が聞こえる。


「そうだよね。こんなに桃花ちゃんが頑張ったんだもんね。

ここで私が挫けるわけにはいかないよね。

今は1人で戦ってるわけじゃない!」


海音先輩は立ち上がってすぐに走り始めた。


結構は僅差で海音先輩の勝ち。

赤組の優勝だ。


ゲームとは結末が変わってしまったが、俺はこれで良かったと思う。


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