6月ー2 『生粋のラブダイヤー』
「え、今なんて?」
夕陽が上り、少し薄暗い教室で俺と麗華は話をしている。
はっきりと聞こえていたが俺は自分の耳を疑い思わず聞き返してしまった。
「だから、あなたが現実世界から来た転移者かどうか聞いているのよ。」
やはり聞き間違えではなかった。
転移していることを他の者に知られてはいけないのが転移物アニメのお約束だったりするがこの世界はどうなんだろうか。
相手から聞いてきているということは正直に答えても良いのだろうか。
そんなことを聞いてくるなんて、もしかしたら麗華も…
「そうですけど、もしかしてあなたも?」
「ええ、そうよ。」
そう答えながら麗華様は白い本を見せてきた。
それは桃花の部屋にもあった、あの輝いて見える白紙だらけの不思議な本だった。
「あなたもそれを持っているんですね!
なんで私が転移者って分かったんですか?
自分では結構桃花になれていると思っていたのですが」
「そんなの簡単よ。
他のヒロインの中であなただけが本来の桃花であればしない行動をしている。
縁結びの桜で遥斗と出会うイベントが起こらなかった時点で察しはついていたわ。」
「そうですか…」
いや、待てよ。
麗華はさっき初めて登場したヒロインなのに、なぜ4月のことを知っているのだろう。
「えっと、柊さんは今日初めて登場するヒロインなのになぜ…?」
「登場しないからと言って学校に通っていないわけではないわ。
私はラブダイの台本に則って今日まで遥斗や他の主人公との接触を避けていたのよ。
柊麗華様のプライドにかけてね!
というか、2人きりの時はその口調をやめなさい。
なんだか違和感があるのよ。
本当はそんな喋り方じゃないのに頑張って桃花たんを演じている感が出ているわ。
他の人は感じていなくても、わたくしにはわかるわ。」
「わかった。じゃあお言葉に甘えて…。」
「あなたは現実世界ではなんて名前だったの?」
「俺は藤原 翔。
改めてよろしく。」
「お、おれ?!え、、待って待って!?
お、お、お、…男の人なの?!?!
あわわわわ、、、こんな可愛い桃花たんの中に男がいるの、、、?!
そんなの許せませんわぁぁぁぁ!!!」
麗華様は驚きながら全力で後ずさりし、教室の壁際にぶつかるところまで行って膝から崩れ落ちた。
なんだこのリアクションは。
ラブダイのプレイヤーのほとんどが男性だと思うが、麗華様は中身も女性なのだろうか。
「そ、そんなに驚かないでよ。
君は現実世界でも女の子だったのかな?
名前は…?」
パニックになっている麗華様に俺は恐る恐る聞いてみた。
「わ、わたくしは、、わたくしは、し、白雪というわ…。
そうよ、私は現実世界でも女よ!
男ならよろしくするつもりなんてないですけど、一応名乗ってあげるわっ!」
白雪と名乗る彼女は段々落ち着いてきたと思ったら急に強気な態度になった。
麗華様はゲーム内でもお嬢様設定だが、話を聞くと現実世界でも名家のお嬢様で男性恐怖症らしい。
俺の口調に違和感を感じると言っていたのは、現実の俺が男だからだろうか。
「白雪さんね、おっけー。
それは苗字だよね?下の名前は?」
「下の名前なんてどうだっていいでしょう。
あなたには絶対に教えてあげないわ!」
白雪さんは顔を赤くして頑なに名前を教えない態度だった。
「白雪さんは麗華様になりきることにすごくこだわりを持っているみたいだけど、麗華様推しだったの?」
「よくぞ聞いてくれましたわ!」
先程まで冷たい態度だった白雪さんは突然笑顔になり、元気になり早口で喋り始めた。
「私は桃花たんも海音先輩も栞ちゃんも大好きな箱推しですけれども、やっぱり麗華様が1番ですわ!
麗華様のあのクールな雰囲気や気品溢れるセリフ一つ一つに惹かれますわ。
麗華様も名家のお生まれで、同じような境遇で共感できるところも多いですが、麗華様はわたくしよりも誇らしく、強い女性ですわ。
私も上品で気高い麗華様みたいな女性になりたいですわ!」
「す、すごい麗華様愛だな…。」
ラブダイアリーのプレイヤーは通称ラブダイヤーと呼ばれている。
白雪さんは生粋のラブダイヤーらしい。
俺は白雪さんの麗華様愛に圧倒されてしまった。
「翔…。あなたは誰推しですの?」
「どのヒロインも捨て難いけど、俺はもちろん桃花たんだな!」
「お互い推しに転移できて良かったですわね。
わたくしは麗華様としての時間を過ごせてとても嬉しく思っておりますの。
でも、わたくしは現実世界に戻りたいと思っていますわ。
翔。あなたはどうですの?」
そうか、推しに転移できて嬉しいと感じる人もいるのか…。
俺には無い感覚だった。
推しに転移できたことで現実世界に戻りたくない人もいるのだろうか。
俺はもちろん…
「俺も現実世界に戻りたいよ。
俺は桃花たんになりたいんじゃなくて桃花たんを攻略したいんだ!」
「ふふ、いい志ですわね。
私が桃花たんみたいな普通の家庭の子だったら戻りたくなかったかもしれませんわ…。
では、私たちは敵同士ということですわね!」
「て、敵!?なんでそうなるんだよ!」
「あなた、本を読んでいないの?
現実世界に帰るには主人公・遥斗とラブエンドを迎えることって書いてあったでしょう。
主人公に選ばれるヒロインは1人だけよ。」
そういうことか…。
俺か白雪さんのどちらかがラブエンドを迎えられた場合、どちらかが現実世界に帰り、どちらかがこの世界に閉じ込められることになる。
「前情報によると転移者はあと1人いるはずね。
あと1人が誰に転移していて、どんな行動を取ってくるかはお互い警戒が必要ですわね。」
そういえば、転移する時に謎の声がラブダイアリーを愛する上位3名様を招待するとかなんとか言っていたな。
「やっぱりもう1人もヒロインに転移しているのかな?」
「普通に考えたらそうですわね。
ヒロインじゃないのにどうやって主人公にアプローチをするのか…。
そもそもヒロイン4人の中の誰かではないと選択肢にも上がらないはずですわ。」
となると、海音先輩か栞ちゃんのどちらかか…。
「海音先輩も栞ちゃんも転移者には見えないけど…。」
「そうですわね。
もしかしたら、わたくしのように完璧にヒロインになりきっていてしっぽを見せていない可能性もありますけどね。」
主人公に選ばれるのは1人だけ。
そして分岐ルートに入るまで残りわずかの時間…。
ん、待てよ…
「なぁ、麗華様ってさっき出てきたばかりのヒロインで1番遥斗との好感度が低くて1番不利なんじゃないか?」
そう、麗華様は他のヒロインと違って分岐ルート突入の直前に出てくるキャラだ。
下調べもしていないプレイヤーのほとんどは麗華様を選ばず、ゲームの進行中に頻繁に出てくる3人のヒロンイの中から選ぶパターンが多い。
「何を言いますの。
この麗華様ですわよ?
麗華様のキャラデザ…いいえ、美貌にかかればあの遥斗も一目惚れしているはずよ。
明日を楽しみにしていなさい!」
白雪さんは麗華様の外見に対してすごく自信ありげだったが、外見の好みは人それぞれじゃないか?
まぁ本人はそれほど気にしていないようだったから深くは気に留めないことにした。
そして次の日、遥斗がヒロインを選び分岐ルートに突入する日になった。




