アスパラガス
カランカランとベルが鳴る。今日も男は例の物を買いに行きつけの店までやってきた。
「やぁ、マスター。例の物は入っているかい?」
店主はちらりと男を見やると、ああ、と奥へと消えていった。男は鼻歌交じりにいつものところに座ると、まるで男が来るのを予見していたかのようにカウンターに出されていたウイスキーが注がれたグラスを、ぐいっと呷った。
店主が男の前にコトリ、とアスパラガスがぎゅうぎゅうに入った小瓶を置いた。
「さすがだね、いつも仕事が早くて助かるよ。今回は、ちょっと変わったアスパラガスだね。こんな模様、初めて見たよ」
「お前の物好きにはほとほと呆れかえっているからな」
仕入れるのに苦労した、と店主はまたグラスを磨き始めた。
カラン、と控えめに開いたドアから、栗色の髪が覗いている。
「あのぉ、ここって開いてますか……?」
「開いてるよ、先客は僕がいるけどね。一杯どう?奢るよ」
ありがとうございます、と女は男の隣に座り、
「あたし、スクリュードライバーで」
「お、いきなりいいのいくね。別名女殺しの酒だ。でももっといいカクテルがあるよ。マスター、あれ頂戴」
「なんか、慣れてますね。もしかして、あたしのこと狙ってるの?なんてね」
「きれいな赤いネイルをしている君にぴったりのお酒だよ、僕は誰彼構わず誘うような男じゃないさ」
店主がスッとカウンターにカクテルが注がれたグラスを音もなく差し出す。
「スクリュードライバーはウォッカベースだけど、このお酒は、ジンベースだし、レモン果汁が入ってるからさっぱりしてて飲みやすいよ。迎え酒にぜひ」
「あ、ありがとうございます。詳しいんですね。何て名前なんですか?このカクテル」
「――コープス・リバイバー」
「これも、なにか別名があったりするんですか?」
「知らないほうが幸せなこともあるよ」
ケチ、と女がそっぽを向きながら酒を一口飲み下す。くらりとした感覚があったが、きっとこの酒が強いせいだろう。
もう寝たかな。女が男の方にもたれかかってすやすやと寝息を立てている。酒が回ったのか、それとも仕込んだ薬のせいか、つくづくマスターには世話になりっぱなしだな。
「マスター、奥の部屋借りるよ」
「……うまくやれよ」
今日はなんて良い日なんだろう!また僕好みの女性と出会えるなんて!やった!やったぞ!
「またこんなきれいなアスパラガスが手に入るなんて……」
男の手には、青白い指に赤いネイルがきらりと輝く小瓶にぎゅうぎゅうに押し込まれていた。
完




