初めまして反逆者様3
魔術師長曰く、聖女は何かを願うだけで女神様が望みを叶えてくれるらしい。
自分が派手に喉元を掻き切ったときに吐いた呪いの言葉を思い出して、血の気が引くのを感じた。
「…っ私災厄呼んじゃったけど大丈夫なの?国滅ぼしちゃった?」
「聖女様の祈りは言霊を通してというよりは、心からの祈りや願いが女神様によって叶えられます。ですので…」
「本気で滅べばいいなんて思って無かったの!」
聖女にそんな力があるなんて知らなかった、ではきっと済まされないことだ。
真実を知った国民が少しの間怖がって、王家に対する不信感を持ってくれればと思っただけ。
これでは、自分が心の底から嫌っていた何も知らない、知ろうとしない人間と一緒ではないか。
「でも、もしかしたら…」
心の奥底では、本当の本当にこの国が破滅することを望んでいたかもしれない。
指先から温度が、耳から音が遠ざかっていく感覚がする。召喚されたばかりの頃と同じように、消えてしまいたくてしょうがない。
「良いのではないでしょうか。こんな国滅んでしまっても」
罪悪感に駆られるこちらの気持ちなんてお構いなしに、魔術師長はとても晴れ晴れとした声とは真逆の、辛辣な言葉を吐いた。
「…あなたの祖国でしょう」
「正確にはただ生まれただけの、何の思い入れもなくなった祖国です」
「そうだとしても、人は帰属の生き物なんだから自分の祖国を滅ぼされかけたこと、もう少し怒ったら?理不尽を受け入れちゃ駄目だよ」
「理不尽というのであれば、貴方様には国を滅ぼす権利があると思います」
「魔術師長って、薄々気づいてたけど、過激派だったんだ」
まあ、普通の感性をしていたらこんな頭の可笑しい女、さっさと王家に突き出しているだろう。
きっと無辜の民を傷つけるなんてと憤る側の人間だろうに。
「それに、貴方様の願いが本当に災厄を呼ぶことなのであれば、今頃国中に魔物が押し寄せていたり、天災で地形すら変わっていることでしょう」
「屋敷に引きこもってる間に起こってたりするかもしれないでしょ…?」
「この国に引いてある結界には私の魔力も使われております。ですので、魔物が結界に触れたり破ったりすれば気づきますし、窓から見える空には雲一つございません。貴方様はこの国に滅びを呼んでおりませんよ」
魔術師長がカーテンを開けてくれたので、窓の外を見てば、確かに雲一つない青空が広がっていた。
ただし、屋敷中を取り囲む騎士団とやらは想像以上に多く、国でも落としに行くほどの規模に思えたが、現実を見たくない私は見て見ぬふりをした。
「………本当に?」
「もし本当に魔物に襲われたとしてもお気になさる必要はないかと思いますが、何も起こっていないのですから、何もしなかったと言うことです」
そして、魔術師長には軍勢なんてその辺の雑草と同じように見えるらしい。
平常心でない私も特に突っ込んだりせず、滅びを呼んで無くても良かったと胸を撫で下ろしたと同時に,気が緩んだせいか本当は空いてないと思っていたお腹が盛大に鳴った。
「少々お待ちください。直ぐに何かお持ちいたします」
魔術師長は神妙な顔でうなずき、この部屋に来た時の騒動が嘘に思えるほど静かに部屋から出て行く後ろ姿はとても頼もしかった。




