【短編怪談】真実でーす。
「ねぇ、お父さん。」
「ん、どうした?こんな時間に。まだ寝てなかったのか。」
「うん。あのね。日和の部屋にね。」
「…うん。」
「知らない女の人が立ってるの。」
「…は?」
「日和の部屋に、知らない、綺麗な女の人が、立ってるの。」
「…ん?ごめん、どういうこと?…誰かが日和の部屋にいるのか?」
「うん。いるよ。」
「…見間違いじゃない?」
「違うよ。声もずーっと聞こえてるもん。」
「声…?何か喋ってるの?」
「うん。『日和を返せ、返せ』って言ってるよ。」
「…なんだって?」
「なんかね。とっても苦しそうで、怒ってるの。あの人、すごく可哀想。」
「…….いや、まさか、そんなはずが….。ちょ、ちょっと、見てくるからここにいなさい。」
《足音、ドアの開閉音》
《足音、ドアの開閉音》
「…うん、誰もいなかったよ。何か変な夢でも見てたんだろ…」
「そっか。でもね、なんか、どこかで会ったような気もしたんだよね。」
「…気のせいだよ、きっと。さぁ、もういい加減…」
「あとね、ちょっとだけ、日和のお母さん、って感じもした。」
「…何を言ってるんだ。日和のお母さんはなーちゃんだろ?」
「ううん。日和の、"本当のお母さん"、って感じ。」
「…日和。さっきから変なことばっか言うな。いい加減にしなさい。
なーちゃん、今体調崩してて、大変なんだぞ。何てことを言うんだ。」
「でも、倒れちゃったのって… お父さんのせいだよね?」
「お前…。」
「お父さんのことがショックで、お母さん寝込んじゃったんだよね?」
「…分かった。…日和。よく聞きなさい。
いいか?あれは、全部、週刊誌の人たちが書いた、"嘘"だ。
日和はまだ小学生だから分からないかもしれないけど、
世の中には、どんなにでたらめでも、嘘でも何でもいいから、
たくさんの人が喜んだり、楽しんだりすることを書いて、
お金をもらうのが仕事の人もいるんだよ。
あの週刊誌のやつらがいい例だ。
あいつらは、事実なんてどうでもいいんだよ。
それなのに、世の中のね、頭の悪い人たちは、それを信じちゃうんだ。
…結局ね、みんなは、お父さんみたいに成功した人を、羨ましがってるだけなんだ。
世の中の馬鹿な奴らはね、お父さんみたいに、ちゃんといい大学も出て、たくさんドラマやCMにも出て、お金もたくさん稼いでる人を見ると、
自分はなんて不幸なんだ、許せない、他の人も不幸になればいいのに、
なんて思う、しょうもない、惨めな人間なんだよ。
それに、俺は世界で一番なーちゃんと日和が大切なんだ。あんなこと、するわけないだろ。
なーちゃんも、ちょっと心配しすぎただけなんだ。何も気にすることないのに…」
「あの記事の内容が、絶対に嘘じゃない、って誓える?」
「…日和まで疑ってるのか?…俺は悲しいよ。そんなの、当たり前だろ。」
「こないだのあたしの誕生日の日も“仕事”って言ってたよね。あの日、ほんとは何してたの?」
「はっ…。お前、まじでいい加減にしろよ。
…あのな、この業界ってのは、常に戦場なんだよ。
いつどこで誰に刺されるか分からない。一番近くにいたやつに裏切られることだってある。ひとつしくっただけで、全部がひっくり返るんだよ。
だからな、どんな時だって、俺は死ぬ気で働いている。
これも全部、家族のためなんだよ。」
「そうなんだね。たしかにね。
『子煩悩パパで愛妻家の倉持快児』っていうキャラクターでやってるのに、もし年下の女優と不倫してました、なんてことがばれたら、お父さん、もうこの先…」
《殴打音。椅子が倒れる音》
「お前さっきからごちゃごちゃ…」
「いっ…!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!髪はひっぱらないで、ごめんなさい!」
《机が揺れる音》
「いた…」
「……悪かった。…でも、本当に、あれは本当に、全部、嘘なんだ。信じてくれ。
俺だって、なーちゃんと日和のことを守るのに精いっぱいなんだよ。」
「本当?」
「本当さ。…痛い思いさせちゃって、ごめんな。
だから日和も、もう変なこと言わないでくれるか。」
「ううん。大丈夫。色々確認できて、良かったよ。
変なこと言っちゃって、ごめんね。もう寝るね。」
「…あぁ。おやすみ。また、明日。」
「おやすみなさい。」
《足音、ドアの開閉音》
《携帯電話の呼び出し音》
「…あ、もしもし。俺だけど。…ちょっと聞いてくれ。
…日和のやつ、何か変なこと言い出した。
『自分の本当のお母さんが部屋に立ってる』とか、
あの週刊誌が本当なんじゃないか、みたいなこととか…。
いや、分かってる。あいつは何も知らないはずだ。
…すまん、ちょっと焦った。…うん、そうだよな。
…しかし、穂乃果に憎たらしいくらい似てやがる。あの目つきとか。
あの時手を出したのは失敗だった…。
…悪い、言い方が良くなかった。
でも…俺はやっぱり、茉弥、お前が一番だ。
…本当のことを言うと、俺は茉弥の子供が一番欲しい。
本当だ。これは噓じゃない。
…あぁ。これまでの十字架を背負わなきゃいけないのだけはきついな。
穂乃果は勝手に産むし…。その後、結婚は出来ないって言っただけであんなことになるし…。渚も渚で、ちょっと繊細過ぎるんだよ…。
…ごめん、愚痴ばっかりになった。でも、茉弥の声を聞けて良かった。
これも全部、茉弥と結ばれるための試練なんだと思う。
君とのことは大丈夫。俺に任せろ。金ならいくらでもあるから、大抵のことは何とかなる。あの記事の件も大丈夫だ。
…うん。ありがとう。絶対に幸せにするよ。愛してる。
それじゃあね。」
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【743,607回視聴 12時間前】
【826件のコメント】
投稿者:hiyori
投稿者コメント:
演技じゃない、本当の父を、みんなに見せてあげました。