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ローエングリン


  我が名はエルザ、貞淑なるエルザ!

  その名声は芸術の国(ブラバント)と謳われし

  緑豊かなベルギーとともにあり

  今は父王、崩御の悲しみに沈みし


  木漏れ日の森で愛弟(おとと)(うしな)いし

  その悲劇につけいりし後見人

  テルラムント伯爵とその悪妻

  妖術をあやつる魂魄をもつ女


  「ゴットフリート()きあとは

  我が王位につくのが正道よ」と

  テルラムントは狡猾にいいしも

  エルザは不可思議な夢に微睡む


  白鳥に導かれし聖騎士が

  正々堂々と神命もて現れる

  夢は現となり名もなき騎士

  白鳥とともに英姿を現せり


  「素性理由はあかせぬが

  我、汝を守護する者なり!」

  テルラムントと白刃まじえ

  赫々と神の加護を示したり


  我が名はエルザ、処女なるエルザ!

  その名声は芸術の国と謳われし

  博愛の志、名もなき騎士とともにあり

  今はただ名もなき騎士に愛を誓うだけ

  今はただ名もなき新婦に愛を誓うだけ


  星々と月光の祝福のなか

  王女と騎士は瞳をあわせ

  底深く写る互いを見しが

  エルザの心は彷徨いては

  祈りて知れぬ秘密に咽ぶ


  「その、そなたの名を

  聞くことは禁忌だが

  その、そなたの名をば……」と

  蝶の舞うよに囁いた


  「我が名はエルザ、そうエルザ、エルザです!

  それで……あなたは?……」

  「我が名は……我が名は……

  聖杯の守護者(パルジファル)の嗣子

  ――ローエングリン!

  おお、エルザよ! なぜ聞いたのだ!

  なぜ私を信じなかったのだ! なぜだ!」

  おお、エルザよエルザ、なぜなのだ!――


  白露おちたる朝の薄明に

  悲しげな白鳥の声が響く

  騎士に仕えし白鳥は来た

  永遠の別れがやって来た


  静かに地に降りし白鳥は悲しげに

  エルザの悲痛を抱くかのように

  大きな翼を広げては羽ばたく

  だがエルザの命脈は尽きてゆく


  名もなき夫を受けいれがたしと

  神を受け入れがたしと泣く心を

  嘲けれるものなら嘲笑うがよい

  運命の過酷さを知らぬ者よ


  我が名はエルザ、死にゆくエルザ

  我が名はエルザ、やがて死すべき者

  名を失い、神の子(ローエングリン)の元へ旅立つ者

  かくして神の慈愛は罪を赦しし

  妖術で、名もなき白鳥となりし愛弟(おとと)

  その腕のなかで死にゆくエルザ


  我が名はゴットフリート、神の贈り物!

  その名声よ芸術の国(ブラバント)に轟け!

  緑豊かなベルギーに骸なりし者とともに

  今は姉、最期の悲しみ悼みし

  我が名はゴットフリート、やがて死すべき者

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