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「美華子ー、ちょっと手伝ってー。」
学校から帰ってきて早々にお姉ちゃんから呼ばれてしまった。
清水高校3年生 加藤美華子。手芸部に所属している持ち前の明るさと愛嬌でここまでやってきたつもりではいる。先輩や先生から好かれやすい性格なのは、
上に姉が2人いる影響だろうか、、、。
長女の若葉お姉ちゃんは、気が強くて頼れるお姉ちゃんって感じ。でも、怒ると怖いからいつも機嫌を取るのに必死だ。次女の紗江お姉ちゃんは、若葉お姉ちゃんが気が強いせいかおっとりしていて正直何考えてるかわからないところはある。
そういえば、
手伝いってなんだろう、、、。
「はーやーくーしてくれる??」
若葉お姉ちゃんはこれだから36歳になっても独身なんじゃないかなって思う。男の人も怖くて近寄れないんだと思う。私がもし男性だったら絶対に関わりたくない。そんなことお姉ちゃんには絶対言えないけど、、、。
いつも通り帰ってきて手洗いうがいをしっかり済ませたあと、即座に学校の制服を脱ぎ捨てお店の制服に着替える。この瞬間が私は好きだ。だって、学校の制服脱いだ時の圧迫感や校則から逃れてパン屋さんの制服からほんのりする甘い焼き立てパンの匂いに包まれた時、食べることが大好きな私は今日も一日頑張った。そう思える。そう、パン屋さんでバイトをすることは私にとってはご褒美で、1日の中で1番楽しみにしていると言っても過言ではない。
「若葉お姉ちゃん待たせちゃった??」
すると若葉は、
「いや、全然!?」
明らかに不機嫌なのが眉間に皺を寄せた表情や口をとんがらせているところから受け取れる。
そう、
若葉お姉ちゃんはわかりやすい。
機嫌が悪くなるとすぐに顔に出やすいタイプである。
今日はパン屋の売り上げが好調だ。昨日は雨が降っていて客足が少なかったせいか、
いつもの倍お客さんが来てくれている。
そのせいで、若葉お姉ちゃんが機嫌が良くないのは仕方ないか。忙しすぎていつもなら3人で
充分なところ、今日は3人じゃとても足りない。
チリンチリン。
お店のドアが開いた。常連のおじさんだ。
「いらっしゃいませー」
「今日はお客さんが多いねぇ。」
「そうだ、確かパン屋の外で右往左往してる男の子がいたよ。
誰か探してたみたいだったよ。
小さな白い紙を持っていたなぁ。」
んー??外を見てみると、見覚えのある制服を着た男の子が困っている様子だった。
「私ちょっと行ってくる」
焦っているそぶりを見せ、
パン屋の外に向かう。チリンチリン。
ハックシュン。
お店の中は暖房で暖かいので半袖でいたことを忘れ外に出たため海辺の近くにあるパン屋なので寒くてくしゃみが出てしまった。
目先のことにとらわれてばかりなのを反省しようと思った。そのくしゃみをしたせいで、さっきまでパン屋を探していた男の子の手元にある手紙はびっくりして飛んでいってしまった。
「あっ」
と一言言い放ち、驚いた顔で美華子を見ていた。
「あの、すみません。その制服ってうちの学校と同じですよね??」
普段男の子とあまり話さない美華子は、
少し頬を赤く染めながら恥じらいのある様子で話をした。