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だいたいハッピーエンド

結婚するけど、君のことは愛してないよ(棒読み)と言ってドヤ顔する旦那様とその妻になった私

作者: あかね

 初夜というのは儀式である。

 ルミナでも、ちょっと緊張する。年上の嫁であるので、私が先導せねばという謎の使命感も相まって、ベッドの上で正座して待っていた。

 色々あったようななかったような日々をちょっと思い出す。


 ルミナは侯爵家のご令嬢であったが、結婚相手がなかなか見つからなかった。昨今、政略結婚ってどうよ?という雰囲気があり、自由恋愛市場となったが、世の中、自由恋愛できないものがいる。

 ルミナは恋敵ハンターに負けたのだ。ご令嬢らしくおっとりと育てられては勝ち抜けない。え、婚約前なのに一緒にお出かけしますの? え、腕組む? 手を握る? ぎゅっとされるって……。

 ルミナは16歳のころ一度頑張って、敗北した。むり。お父様結婚相手斡旋して。そう父親に泣きついた。お前もかぁと父親は微妙な顔していた。聞けば、姉たちもそうだったらしい。あら?自力で探しましてよ?と言っていたのは強がりで、10人くらい軽いお見合いをしたようだ。

 ルミナが姉に問いただせば、いまどき恋愛結婚しないなんて馬鹿にされるんですものっ!と鬼気迫る勢いで言いわけをしてきた。まあ、確かにとルミナも思う。自由恋愛なんだから、お見合いも自由恋愛のうちに入れて欲しいものである。


 ルミナが今の夫に出会ったのは、二年ほど前の18のころだ。17歳から1年ほど、色々な人に会っては相互にお断りやお断りが続いたのだ。間が悪く、同年代のめぼしい男性は刈り取られたあとだったのだ。残っているのはちょっと年上か年下のみ。範囲を貴族外まで広げればそれなりにいるらしいが、家格が釣り合わないと相手から断られたらしい。命令してもいいけど、そういうの嫌だろと父に言われればルミナも同意するしかない。

 多少は愛情か情のある家庭を築きたいのである。命令で嫌々からスタートはお断りしたい。


 年下で良ければ、微妙な縁があると紹介されたのは恰幅の良い男性だった。

 年下?と首をかしげるルミナに父は微妙な表情で、その男性が今度の見合い相手の父親だと言った。先にルミナに会って、人となりを確認したいと言ったらしい。

 侯爵家及びのご令嬢に向かって、である。

 ルミナは大丈夫かと思った。


 彼はウェル領のエド男爵だと名乗った。

 ウェル領? どこかで聞いたことがあると思うルミナに宝石の産地だよと父親が告げる。


 最近、王妃殿下に大粒のアクアマリンを献上したのがエド男爵だった。王妃殿下は大層お喜びになり、陛下に褒美を与えるようにお願いしたともルミナは聞いていた。

 まあ、とルミナが声をあげると疑い深いような視線をエド男爵より向けられる。

 疑い深くもなるであろう。見事な宝石を産出する山を所有しているのだ。勝手に売られても掘られても困る。それなりに計画されているのだろうし。

 飲み込まれても困るし、たかられても困る。婚姻相手は厳選したくはあるだろう。

 宝石は好きかと聞かれてルミナは返答を迷った。父を見れば、やはり微妙な顔でうなずいた。

 石集めが好きなのです。と告白するとエド男爵は顔をしかめた。この話はおしまいでと立ち上がった彼をルミナは引き留めた。

 石コレクションを見てから、判断してほしいと。


 ルミナは石が好きである。河原で見つけた丸い石が最初だった。すっごく丸く、白い石は輝いて見えた。以来、あちこちで拾ってきてはコレクションしている。輝石も好きだが、一点ものの形のおかしな石も柄が奇妙な石も、ただ石だって大事だ。

 そんなことをつい力説していたら、エド男爵は表情を引きつらせていた。ルミナははっとして、身を縮こまらせた。母にもやめなさいと言われていたのだ。オタクのオタクな話はほどほどに、と。かくいう母演劇オタクで、ルミナを超える熱量で語り倒すのだが。


 その日はそれでお開きとなった。やってしまったと反省するルミナに翌日手紙が届いた。エド男爵より前日の非礼の詫びと年下の生意気な息子で良ければ会っていただけないか書いてあったのだ。

 そうして、数日後に会った少年は緊張した面持ちで応接間で待っていた。

 ルミナを見ると慌てて立ち上がって、アースと名乗りとあいさつを一息で済ませてしまう。そして、きれいなお姫さまでびっくりしましたなどと述べた。

 きれいなお姫様と反芻しながらルミナは微笑んで挨拶を返した。そのまま座ってもらい、和やかに会話が始まった。

 通常父親も同席するものだが、すでに面識はあり、わりとおすすめということで二人で会うことになったのだ。つまりは、本人たちの合意が取れればそのまま婚約することになる。

 しばらくして、彼は改まったように居住まいをただした。


「あの、お願いがあります」


 そういって、アースはルミナに数枚のカードを手渡した。

 ルミナはそのカードを読み上げる。


「君のことは愛してないからと初夜に言う?」


 君とは仕方なく結婚するんだ。と言いつつ溺愛。

 僕は乗り気じゃなかった。とは言いながら溺愛。

 等々。

 ルミナには全く意味が分からない。


「……あの?」


「申し訳ないんですが、政略結婚で嫌々結婚しますというお芝居をお願いしたいのです」


 彼はまじめな顔でそういって頭を下げた。


「ちょっと事情がありまして。父が言わなかったと思うんですが、内々で王女様との婚約の打診が来てました。お断りしたんですが、そのあとに恋愛結婚みたいなものも困るんです」


 言いたいことはルミナにもわかる。断った後にいちゃつくなんてあてつけがましいということだろう。そうでないようにおとなしくしているか、不仲でも政略結婚であるという形にするしかないということも。

 しかし、王女様がそれを気にするだろうか。


「王女様って、確か5歳でしたね」


「この間会ったときに、もう、ろくしゃい! おねえさんだもん! って言ってました」


 沈痛な面持ちでアースは言った。ルミナより年下とはいえ、彼は16歳である。6歳の嫁をもらっても多分困る。そして、もう顔合わせしている。微妙に根回しが始まっているということだ。

 原因はあの献上したアクアマリンに違いない。ほかにももっといいものがあるのでは? 娘婿なら、多少は融通をきかせてくれるのではないか? そういう思惑もありそうである。


 王妃だけの思惑で王女の嫁ぎ先は決まらない。陛下も多少は関わっているはずである。


「公式には発表されていませんが、一つの山で金がでるようなんです。本格的な採掘はまだですが、数年の内には始まると思います」


「……なるほど」


 領地を吸収すれば王女の一人でもおつりがくる。

 それならば、王女の成人をまって嫁がせることは規定事項に違いない。もしほかに縁談があってもルミナのような侯爵家のご令嬢でもない限り、婚姻は潰されるだろう。

 侯爵家でもわかっててやっているなら、王家への敵対行為に近いとみなされそうだ。そこはうまく言い逃れる自信があるから縁談を持ってきてはいるのだろうが。


「なぜ、うちなんですか?」


「父の友人であるということですが、聞いてませんか?」


「知りませんね」


 ルミナは父が野生児だの猿だの脅威の野人だの言う人は聞いたことがある。何があっても奴が困ってたら助けに行くからなと言っていたくらいの友人に対して、嫌なあだ名付けるもんだなと思ったりもしたのだ。


「ええと、野人とか言うひとではないですよね? あの魔物狩りでうちの父が大層迷惑をかけた」


 まさかね? と思ったが、一応尋ねてみる。アースは苦笑する。


「そっちではそういわれてましたか。

 うちでは、鼻持ちならん坊ちゃんとか言ってました。後始末がいつも大変でと。でも、うちの父も大概で貧乏だからツケはそっちもちとか言ってたらしいですよ」


 お互いに散々な言い方をしているらしい。

 悪友というべきだろうか。父たちの武勇伝らしきものを思い出すと渇いた笑いが出てくる。悪さの限りというより、悪ノリの限りというべきだ。

 お互いの父のアレなところに思いを馳せ、沈黙が訪れた。


「では、よろしければ、結婚していただけますか?」


「こちらこそ、ぜひ伴侶として迎えたいです」


 ルミナは父と父の友人である彼の父への信頼を担保に婚約することになった。

 なんだか、お芝居というのも楽しそうだし。とルミナは思ったりもした。でも、このカードはいけない。

 ルミナは彼を母に紹介した。事情を説明すれば、不仲であっても自然に仲良くなっていくという演出を考えてくれるに違いない。

 そして、存在しない父親同士の約束があったということになり、政略結婚として広められることになった。


 それから2年、険悪な婚約者同士として過ごし、婚姻をした今夜がクライマックスである。

 ドキドキするとルミナが今か今かと待っているとばーんと扉があいた。

 つかつかとベッドまでくるとアースは言った。


「結婚したけど、君のことは愛してないよ」


 棒読みだった。絶望的なほど、言わされてる感があった。

 緊張が悪さをしている。


「……承知しました」


 やり切ったと言いたげなアースにやり直し! と喉元まで出てきたが、扉の向こう側に興味津々の使用人がいることを知っていたためにルミナは予定通り進めることにした。

 この使用人が王家とつながっていることは知っていた。有能ではあるので泳がせていたのだが、この報告後には切る予定である。

 これから愛されない妻が、なんだかんだあって夫に溺愛されるのである。観客は厳選したい。


「……きれいなのにな。僕の奥さん。今日も全然一緒に居れないとか辛い」


 ぼそぼそと呟く声と不機嫌そうな表情が全然かみ合っていなかった。もはや特技の部類ではとルミナは思う。


「秘密の通路があるのでしょう?」


「じゃあ、鍵開けて待ってる」


 途端に機嫌を直して彼は足取り軽く立ち去っていった。ルミナは呆然としたような表情で、寝台に突っ伏し、泣きまねを始めた。

 傷ついた妻とはどのようなものかと母と激論を交わした結果、大人しくしくしく泣くのが一番かわいそうに見えると言う話になったのだ。


 泣きつかれて眠ったと思われるくらいまで。そこからは自由時間だ。

 この2重生活がいつかなくなる日まで続くが、これはこれで楽しいものだ。ルミナは玉ねぎの欠片を握り締めた。

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