7.困惑中
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千織はタオルを絞りつつ考えていた。
なぜまだ2回しか会ったことがない男たちが部屋にいたのか·····泥棒?···変質者?··でもタオルを持ってきてくれるような優しい人····
この世界の人は勝手に売ったり、勝手に入ってきたり·····それが普通?
悩んでも仕方がないと先程の部屋に戻ろうと後ろを振り向くと、大男とひょろ男が目の前に迫っており、「へ?」と思わず声が出たのと同時に大男に抱えられベットに連れて行かれ、なぜかそまま大男の膝の上に座らされた。
どういうこと?と頭の中でパニックを起こしていると
「タオルを持って行ったまま戻ってこなくて心配した」とひょろ男言った。
千織は?と思った。1,2分しか経っていないと思ったが、実は悩みすぎて20分以上戻ってこなかったのである。
その間暫くチャイブとラピスルは千織を見惚れたまま固まっていたが、早々に復活し千織が戻ってくるのを待っていた。
しかし中々戻ってこない。何かあったのか?2人で顔を見合わせた。
チャイブはウロウロとイライラとしながら歩き周り、ラピスルはチラチラとお手洗いを見ていた。ただあまりにも戻ってこない千織に心配が募り、声をかける前にチャイブが迎えに行ったのである。
出遅れたラピスルは不機嫌真っ最中である。
千織は理由が分からなかったが「ごめんなさい。」と謝った。
「いいよ!ぶつけた怪我は大丈夫?」とひょろ男から言われ、確認しようとすると大男に膝に乗せられていたのを思い出し、モジモジしながら「あの多分大丈夫です。でも何で膝の上に乗せられているの?おろして下さい?」
とひょろ男と大男と交互に見ながら聞いた。
すると「お前は危なっかしい。」と言われ、大男の腕がよりきつくお腹を抱きしめた。
あまりの力強さに痛みを感じたが、それよりも恐怖を抱き「はい」と素直にしたがった。
そうすると大男は満足そうに頷いた。
千織はこの時怖くて心のなかでは『ぴぇ〜』と叫び声を上げていた。この世界に来てから死んだことにされた·····死体に愛を投げかけられた····はたまた話が通じない大男に出逢った·······
素直に従わないと何をされるかわからないと思った。誰でもいいからまともな人間に出会いたいと心の底から思っていた。
すると千織のお腹がぐぅ~となった。
「お腹空いたよね?ご飯があるよ。女将さんにちょっと嘘ついて体調不良って伝えたから、パン粥だけど。」
どういうこと?と千織は首を傾げ、ひょろ男を見つめた。
「あぁごめんごめん。俺達が何故ここにいるのか教えてなかったね。説明するね?」と言われ細く説明をしてくれた。
説明を聞きながらウンウンと納得していたが途中から顔がさっと青ざめた。「君黒髪黒目でしょ?」と言われたからだ。慌てて頭を触るとフードが外れて全てをさらけ出していた。
寝ている時はフードがズレていただけだったが、起き上がった時フードが落ちてしまったのである。
フードを急いで被ったが既に意味をなしていなかった。
「大丈夫だよ!よく黒目黒髪で生きてこられたね。」
と手を握りながらひょろ男が言った。さらに「生きているのは厳しい世界だからね〜」と追い打ちをかけるように言われ······死体愛好家から逃げることができれば助かると思っていた心にバキバキとヒビが入った。
すると突然目の前が暗くなりそのまま気を失った。
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突然青ざめた子供が気を失った。
パニックになる。
「おい?」とチャイブが慌てて揺さぶるが全く起きない。
ラピスルもパニックになり、頬を叩いたが起きず、慌てて医者に見せようと動き出そうとしたが、子供の容姿はひと目を引くどころではない。
医者にもし見つかれば、国に報告され何をされるかわからない。
そのため自分たちの部屋へ急いで戻り、ポーションを全て持ってきた。俺達S級冒険者は下級から上級まで全てのポーションを持っている。子供には迷わず上級ポーションを取り、飲ませようと試みたが、口の横から溢れてしまう。
仕方なしに口移しで何とか飲ませて、その後マントを脱がせベットに寝かせた。
マントの下は見たことがない黒い服を着ていた。光沢があり生地の質は間違いなく最高級品である。俺達S級冒険者でも手が届かいレベルである。
黒い服から見える胸元や膝から下の足が何とも色っぽく感じたが、意識が無い者に無体なことはできない。すかさず布団をかけた。足元も靴を脱がせた。靴に血がついていて慌てたが、ポーションで傷は治っているようだった。
それから俺達は片時も離れず、子供の様子を伺った。
1日2回ポーションを飲ませた。身体が衰えないようにと屋台で買ってきたスープを飲ませた。
宿屋の女将さんには体調不良と伝え、スープを作ってもらった。
もちろん口移しで飲ませた。
俺達は片方ずつ食事を取り、片方ずつ子供の部屋で寝る。そんな生活が3日続き、死んでしまうのでないかと焦った俺達は従兄弟に連絡を取ることにした。
物凄く嫌だったが子供が助かるのなら何だって良かった。
従兄弟は黒目黒髪の子孫と言うこともあり、家には色んな書物が残されていると聞いた。
それを見れば助かるかもしれない。
僅かな希望を持って従兄弟に連絡をした。
だが中々繋がらない。普通ならありえないことだ。通信魔道具は常日頃から持ち歩き、有事の際にすぐ連絡を取れるようにしている。
それに誰から連絡が来たのかすぐ分かるはずだ···おかしい。なぜた?黒髪の死体を教えたのは俺だぞ?何故俺が必要にかられたときは連絡が取れない?
イライラして思わず通信魔道具を投げつけた。
相棒のチャイブも隣で貧乏ゆすりが酷い。物凄く苛立っている。
子どもと離れたくない···だけど俺が直接行くしかない。ここから従兄弟の家は遠くない。馬を走らせれば1時間もしないはずだ。
チャイブに子供を任せ、俺は馬を走らせた。
「俺は従兄弟の家に行く。その間子供を任せる。何かあったらすぐに連絡をしろ。」
「あぁ」
と子供を見ながらチャイブが答えた。
馬を走らせながら
『死なせたくない、生きて欲しい、また話したい』そんな言葉がどんどん頭の中で埋め尽くす。まだ出会って数日、話したのは1日しかないがどうしようものないほど惹かれている自分がいる。
あぁ早く着いて欲しい···そう願って馬を走らせるのだった。
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