54 新しい医院
お待たせしました第54話を更新しました!
二階堂君と梨菜は国際医療を終えて城南市に戻って来てましたけど…… 二階堂君は病気で入院、梨菜は無職になってます。折角国際医療で経験を積んで来たはずなのに……
私は城南医療センターを後にしました。あの二人は国際医療で高度な医療技術を身に付けて戻って来たはずなのに、二階堂君は病気になって、梨菜は仕事も無くなって、どうするのかな…… まあ、病気が治れば二階堂君は北山大学へ行けるんだから良いけど、梨菜が専業主婦というのは…… 医師免許だって持ってるし、国際医療で技術も身に付けてるはずなのに。
「飛鳥君、急に呼び出して悪いね!」
「あっ、いえ」
私は今、上杉クリニックの先のトンボ大橋のそばの看板取り付けの立ち合いに来ていますけど……
「あの、上杉先生だけでも良かったんじゃ無いですか」
立ち合いには最初から上杉先生がいました。私はちょっとだけ遅れて行きましたけど、私は必要無いんじゃ……
「飛鳥君、連れない事言うなよ! こんな何もない道路に一人じゃつまらないだろう。それに二人で立ち合った方が何かと気になった事にも気づくと思うんだよね」
うん、確かにそうかも知れませんけど……
「看板に描かれているのは上杉先生の似顔絵ですか!」
「うん、そうだけど…… もう少し格好良く描いてくれても良かったと思うんだよね」
えっと、それって必要だったのかな……
「似顔絵って必要ですか?」
「えっ、飛鳥君も美彩みたいな事を言うのかい」
「はあ……」
「今はこういう看板が流行りなんだよ! だから駅前にも新しいクリニックが出来ているんだけど、そこも似顔絵の看板が駅南口の東西の大通りに建ってたんだよ」
駅前に新しいクリニック!
「それって、なんて言うクリニックですか?」
「いや、それが僕が見たときは、まだ似顔絵だけで病院名は入って無かったんだ」
でも、それって商売敵ですよね……
「良いんですか、そんな呑気な事を言っていて!」
「大丈夫だよ、駅前のクリニックは内科と胃腸科だけ、うちは内科の他に心療内科とジェンダークリニックもあるんだから」
はあ…… 美彩先生が聞いたら慌てますよ。でも、駅前のクリニックって気になりますね。
「先生、そこのクリニックは本当に内科だけなんですか?」
「うん、看板に書いてあったからね」
「患者さんは多かったんですか?」
「いや、向こうもまだオープン前なんだよ」
「それじゃ、うちはオープンしたら医療費三割引きとかして先制しましょう」
「いやいや、そんな事をするクリニックは聞いたことが無いから…… やるならオープンの記念品を配るくらいかな、ティッシュとか」
うーん、そういうもんですか…… お薬三割引きとかも駄目ですよね……
「あっ飛鳥君、看板の全貌が見えて来たよ!」
えっ、下の方に描かれているのは……
「先生、下の方に描かれているのは美彩先生!」
「大丈夫、飛鳥君も描かれてるからね!」
えっ! 嘘でしょう…… これじゃ瑞稀や玲華になんて言われる事やら…… でも、なかなか特徴を掴んでいますね! それに結構可愛く描かれているからまあ良いかな…… 看板の設置も終わり、私は上杉先生に訊いた駅前のクリニックの看板を見に行きました。確かに看板は建っていますけど、似顔絵だけで名前はまだ書いてないですね。でも、この似顔絵は何処かで見た事があるような……
その日の夕方、早速瑞稀から電話がありました。
「飛鳥見たよクリニックの看板!」
「うん…… あれは上杉先生が勝手に描いていて」
「ふーん、結構可愛く描かれていたけど!」
「うん、前に美彩先生の家で写真を撮ったんだけど、その時の写真を参考にしてるみたいで……」
「でも驚いたわよ! 看板に三人の似顔絵があって」
「うん、玲華は何か言ってた?」
「さあ、知らないよ!」
「一緒じゃなかったの?」
「いつも一緒じゃないんだからね、そのうち電話して来るんじゃない。確かこの辺に住んでる筈だよ」
えっ、そうなの…… そういう事は今日の夕方あたり電話が掛かってくるかな。
はあ…… 一日何もしないでいると時間が経つのが早いです。そろそろ夕飯の準備をしないと…… でも、これって私も専業主婦みたいですよね…… そんな事を思いながら支度をしましょう。今日は豚肉が安かったのでポークジンジャーとサラダにしましょう。
『ピンポン!』
その時、インターフォンがなりました。多分玲華かな…… そう思いながら私は返事をしました。
「飛鳥、ちょっと良い!」
はあ…… あの看板の事でここまで慌てなくても…… そう思いながら玄関の戸を開けました。
「飛鳥、あの看板知ってるよね!」
玲華はちょっと慌てていますけど…… 私は今日立ち合いにも行ってるから知ってるよ! そこまで慌てて言わなくても……
「あっ、あれはね、上杉先生が勝手にした事で……」
「ちょっと待って! 駅前のクリニックって上杉先生の所有なの?」
「えっ、駅前? なんの話? 看板の似顔絵の話だよね!」
「そう、あれって梨菜に似てない?」
えっ、どういう事?
「ねえ飛鳥、私の話訊いてる!」
「上杉クリニックの看板の話じゃ……」
「何言ってるの?」
なんだ、違ったのか……
「それで、梨菜は開業するの?」
「えっ、なんの事?」
何だか話が空回りしてますけど……
「あなたね、やっぱり私の話を訊いて無いでしょう!」
玲華はムッとした表情で怒り、久しぶりに玲華の『あなたね……』を聞きました。玲華が話したかったのは駅前を通って帰る時、例の看板を見たみたいですけど、それが梨菜なんじゃないかと言う事でした。
「でも、今朝梨菜に逢ったけど、そんな事は言ってなかったよ! それに二階堂君に梨菜を北総の医師に出来ないかとか訊かれたし」
「えっ、あの二人は帰って来てるの? それじゃ、やっぱり違うのかな……」
「多分、他人の空似なんじゃない」
「そうか…… それでクリニックの看板ってなんの事?」
はあ…… そこは見逃してくれないのね……
夕飯作りも終わったので雫が帰って来るのを待ちますけど…… 玲華にも居座られてしまいました。
「ふーん、飛鳥の似顔絵ね……」
「メインは上杉先生なんだよ」
「そりゃそうでしょうけど…… 帰りに見に行こうかな」
「それほどの価値はないよ」
「良いじゃん! 同期で開業一番乗りなんだから!」
「開業じゃ無いから」
「でも、開業資金はいくらか出したんでしょう」
「まあね! ここまで準備をしてもらってるから」
「それじゃ、共同出資なんじゃん!」
うーん、そう言われればそうかも知れないけど……
「ただいま!」
あっ、雫が帰って来ました。
「あっ、お帰り!」
なんで玲華が言うのよ!
「えっ! 何故玲華さんがいるんですか」
雫の表情が急に硬くなりました。
「雫、そんなに驚かなくても……」
私はそう言いましたけど…… 雫は、固まったようにそそくさと自分の部屋へ行ってしまいました。
「なによ、何度か逢った事あるでしょう」
玲華はそういうけど、雫にしてみれば久々に逢った人は、解っていても怖いんだと思います。とくに玲華は……
「まあ、そんな事言わないで! あれでもかなり人見知りは良くなっているんだから」
「あんなんじゃ絶対結婚出来ないからね!」
「玲華、雫は私の妻です!」
「あっ、ごめん…… そうだった…… いや、何か違和感がね……」
「もう、どうせうちは違和感夫婦ですよ!」
まったく失礼しちゃうわ!
数日後、二階堂君が退院したという事で二人揃って私のアパートへ来ました。
「二階堂君、いつ退院したの!」
「ああ、退院したのは昨日だよ。久々に梨菜のお父さんとも会えて良かったよ」
「梨菜のお父さんが来てたの?」
「うん…… 飛鳥聞いてよ! うちのお父さん勝手に医院を作っていたのよ!」
「えっ、梨菜のお父さんも医師なの?」
「うん、でももう歳だから…… いや、そうじゃなくて! 私に医院をして欲しくて、なんの相談も無く作っちゃったのよ」
「でも、他に勤務する病院はないんでしょう」
「まあ、そうだけど……」
「まあ、俺も大学を退職した後、梨菜と二人で医院をやっても良いかなとは思っているけど」
「飛鳥、どう思う?」
「良いんじゃない! 開業なんてそうそう出来る訳じゃないし」
私はそう言いましたけど……
「あれ、そうしたら離れ離れになるの?」
「えっ、なんで?」
「だって医院は橋本市なんでしょう」
「ううん、城南駅前の一等地だよ!」
えっ、それってもしかして……
「似顔絵の看板を掲げているところ?」
「うん、知ってたの?」
「玲華が、あの似顔絵は梨菜に似てるって言ってたから」
「そうか、玲華はそう思っていたんだ」
何だかちょっと嬉しそうな梨菜です。
「梨菜、それじゃ商売敵だね!」
「飛鳥、そんな事いわないでよ! 判らないところは色々相談したいんだから……」
「はいはい!」
同期の友人達が城南市で一緒に医療活動出来るのは嬉しい事です。
「なあ今村、俺は今村の夢を見たんだ! 医療センターに入院してる時…… そしたら今村がお見舞いに来てくれて……」
二階堂君も私の夢を見てた!
「あっ、あれは私が呼んだんだよ」
梨菜は何気に平静を装っているけど、ちょっとムッとしてるよね! 眉が微妙にピクピクしてるから……
「あっ、そうなんだ」
まあ確かに、梨菜から連絡があって来たんだけど…… 私も二階堂君の夢を見たのは間違いない! でも、梨菜の前では言わない方が良いかな、でもあれって……
「うーん、俺がただ夢を見てただけか……」
この事は、私の心の中に秘めてた方が良いかな…… 二階堂君も梨菜の事をもっと解ってあげないと……
上杉クリニックの看板の件でちょっと驚きましたけど、駅前にまさか梨菜が開業しするとは…… 玲華は気づいていたけど、あの似顔絵はよく見ればやっぱり梨菜だよね……