49 清川村最後の日
お待たせしました第49話を更新しました!
認知症で演技派の浜田さん、医療センターに検査に行きましたけど……
医療センターの長谷川先生から電話がありました。
『浜田さんは本当に認知症なんですか!』
私は焦ってしまいました。浜田さんはどうやら演技無しのようですので、どうしましょう。取り敢えず……
「あっ、まだ軽度なんですよ! それできちっと検査をした方がと…… それに、ほら、他の病気が隠れているかもですし……」
とつい言ってしまいました。なんだかやらかしました…… そんな事、長谷川先生が解ってくれる訳ないのに、もっと早く検査するべきでした。そう思いましたけど……
『ああ、そうなんですね! 解りました。詳しい事が判ったら、また連絡します』
という返事が、本当に信じてくれたのかな…… まあ、そのうち本当の結果が出るとは思いますけど……
そういう事があってから、もう一週間が過ぎましたけど、連絡がないですね。その時!
『チン!』
「えっ、何の音!」
「何の音って、飛鳥先生のスマホじゃないですか、メールの着信音でしょう」
雫にそう言われてしまいました。あっ、そう言えばそうでした。村ではメールなんてあまりしませんから…… そう思い確認しますけど、長谷川先生からのメールでした。
『先日の検査結果をPCの方へ送っていますので確認してください』
そうありますので早速確認しますけど…… やっぱり陰性との事でした。MRIの画像も見ましたけど、脳の萎縮も診られないようです。他の検査でも異常は診られませんでした。はあ…… やっぱりそうですよね…… まあ、これで浜田さんの病気もほぼ解決ですね!
「江下先生、これを見てもらって良い?」
「なんですか?」
「浜田さんのMRIの画像です」
「これって、全然萎縮してないじゃないですか」
江下先生もこれで異常がない事が解ったと思いますので、浜田さんが診療所へ来ても大丈夫ですね。
「完全に浜田さんにしてやられましたね」
まあ、状況としてはそうですけど……
「でも、私が帰る前に解って良かったですね!」
まあ、ちょっと上から目線で言ってみましたけど……
「はい、でも、今度からは早めの検査を心掛けないといけませんね!」
「そ、そうだね……」
なんだか私が責められているように聞こえるのは気の所為でしょうか……
その日の夜、山脇先生からメールが来ました。
『四月からの件はどうでしょうか? 来るつもりなら、早めに面接に来てください』
ハッ! 完全に忘れていました。早くお断りの連絡をしないと…… あと、案西先生にもですね…… 私はすぐに山脇先生に電話しました。
「山脇先生ご無沙汰しています」
『うん、それで面接はいつ来るの?』
まあ、話の流れからしてそうですよね……
「あの、実は……」
『ひょっとして来ないの?』
いや、山脇先生って物分かり良すぎです……
「はい…… 実は上杉クリニックで、ジェンダークリニックをする事になりました」
『そうか…… それじゃ残念だけど、飛鳥先生はそっちに行くよね……』
「すみません…… 本当は八割方医療センターへ傾いていたんですけど、美彩先生が私のために診察室まで準備してくれていて……」
『へぇー、そうなんだ! 美彩先生って、昔うちの病院にいた人だよね』
「えっと、そうなんですか?」
『うん、確か外科で、移植手術をしたんじゃなかったかな』
「移植ですか……」
『うん、心臓じゃなかったかな…… 詳しい事はよく知らないんだけどね』
美彩先生って凄い外科医だったんですね……
『それじゃ、残念だけど仕方がないわね』
「はい、すみません」
という事で、取り敢えず山脇先生には連絡出来ました。あとは……
『はい、案西です』
「あっ、すみません今村ですけど……」
『ああ、今村先生、上杉先生から聞きましたよ! ジェンダークリニックをするんですよね』
「あっ、はい……」
上杉先生から連絡が行っていたとは……
『頑張って下さいね、解らない事はいつでも相談に乗りますから』
「はい、ありがとうございます」
『でも、良かったですね! ジェンダークリニック』
「はい、美彩先生から誘われまして……」
『美彩先生って、上杉先生の奥さんですよね、何だか相当歳が離れていて若い奥さんをもらったようですけど』
えっ、いえ、確か三つか四つって話ですよね、美彩先生はそんなに若くは……
『今村先生は知らないの?』
「いえ、そんなに離れてはいないはずですよ! ただ美彩先生は若く見られる事が多いみたいですけど……」
『そうですか…… それじゃ美魔女って言うやつですか』
「はい、そうですね……」
はあ、私もああいう歳の取り方をしたいですね……
『いや、でも上杉先生が羨ましい。では、今村先生頑張ってくださいね!』
「はい、有難うございます」
これで、心置きなく城南市に帰る事が出来ますね!
私が清川村に残れる時間はあと少しになりました。
「先生、こんにちは!」
奏音ちゃんが診療所へ来ました。
「こんにちは、今日はどうしたの?」
「えっ、今日は注射の日ですよ!」
「あっ、そうか! ごめん、そうだったね。それで、変わった事はない。身体が怠いとか目眩がするとか胸が苦しいとか……」
「あっ、胸が苦しい訳じゃ無いんですけど、ちょっと痛くて……」
えっ、胸が痛い!
「どこが痛いの?」
奏音ちゃんは胸のちょっと上の方を押さえて。
「この辺が突っ張ったように痛いんです」
「突っ張る?」
えっ、どういう事? 皮膚が突っ張るって事…… だよね。
「多分それは、胸が大きくなって来てるんだと思いますよ」
華純さんがそう言いました。
「えっ、でもどうして飛鳥先生じゃなくて、看護師の華純さんがそう言えるんですか?」
華純さんは『うふふ……』と微笑みながら……
「女の子は十歳くらいから中学生くらいにそういう痛みを経験するの! そして胸が少しずつ成長するのよ」
そう言えば、私も高校一年くらいの頃にそんな感じだったかな……
「あの、大丈夫なんですか? 乳癌とかじゃ無いですよね!」
「そうね、乳癌なら胸にシコリがあると思うよ」
私がそう言うと……
「いえ、そういうのは無いと思います」
「もし心配ならレントゲンで調べても良いけど」
「……」
「まあ、ちょっと様子を見ようか! 痛みとコリコリとしたシコリがあると要注意だから」
「はい」
そして、エストラジオール吉草酸エステルを注射して治療は終わりました。私もあの頃は胸の大きさばかりが気になって…… でも、胸の皮膚が引っ張られたような感じがありましたね! それが、まさかここまで大きくなるとは思いませんでしたけど……
「飛鳥先生、晴翔君は最近来ませんね」
「うん…… そうね」
晴翔君は、交代人格がすべて統合されて、治療は終了していますよね。レクサプロが必要ならいつでも来て良いよっては言ってますけど……
「飛鳥先生、大丈夫ですよね! 先生が帰った後に私のとこへ来られても……」
「まあ、大丈夫でしょう。鬱病だったらありえるかも知れないけど」
「えっ、それってどうしたら良いですか?」
「その時は、しっかり話を聞いてあげて! そして、抗鬱薬、彼の場合はレクサプロを処方すれば良いから」
私がそう言うと、江下先生は何かノートに書き込んでいます。やっぱり専門の診療科で無い治療は不安なんでしょうね……
精神系の患者さんはほとんど大丈夫だと思います。奏音ちゃんは月二回の注射を忘れなければ大丈夫ですけど、晴翔君は一度逢っておいた方が良いかな…… そういう事で私の診療は今日と明日の二日だけになりました。
「飛鳥先生!」
えっと徳間先生!
「先生、どうしたんですか?」
「あ、明日診療が終わったら、えびす屋さんで送別会なので来て下さい」
えっ、送別会をして頂けるんですか…… 私、感激して泣いちゃうかも……
「あっ、ありがとうございます」
「まあ、飛鳥先生には私の不眠症を治療してもらいましたし、いろんな患者さんが感謝してるようですから」
そう言えば、そんな事もありましたね。でも、いろんな患者さんが感謝は言い過ぎでしょう。
「では、明日六時半にお願いします」
「はい」
そういう事で徳間先生は帰って行きました。これだけ私に伝えるのなら電話でもメールでも良かったと思いますけど……
そして、最終日になりました。今日は一日中暇でした。
「飛鳥先生、えびす屋さんに行きますよ」
華純さんにそう言われ、私達はえびす屋さんへやって来ました。
「あら、飛鳥先生! おまちしていました」
「女将さん、今日はお世話になります」
「はい、椿の間です。どうぞ!」
「はい、ありがとうございます」
あれ、椿の間って大広間じゃなかったかな…… 私達はみんな集まっても八人くらいですよね…… そう思い椿の間へ行くと沢山の人達がいました。えっ、これって……
「飛鳥先生、待っとったばい!」
そういうのは、アルコール依存症だった朝田大和さんと奥さんの静子さんです。それに拒食症だった白河葉月さんと友達の川村弥生さん。浜田さんに五条奏音ちゃん。そして、星野晴翔君です。
「晴翔君、もう平気なの? お薬は大丈夫?」
「はい、先生ありがとうございました。もう、普通に生活出来てますので」
「そう、良かった!」
私は心底、そう思いました。
「飛鳥先生、はよ座らんね!」
「朝田さんはもう、退院してるんですか?」
「はい、もう社会復帰しとっけん」
「お酒は、もう飲みきらん事なったけどね!」
奥さんの静子さんもそう言って喜んでいますね。
「そいぎ、乾杯すっばい!」
浜田さんが乾杯の音頭を取ってくれました。私は幸せ者ですね、最後に村の皆さんに見送ってもらえるなんて、本当終始涙が出て仕方ありませんでした。みなさん本当に有り難うございました。
飛鳥は最後に村の皆さんから送別会をしてもらって最高の時間だったと思います。




