46 契約終了
お待たせしました第46話を更新しました!
奏音ちゃんと晴翔君の治療も一段落しました。今度は飛鳥の契約終了が近づいています。
私が清川村に来て四年半が過ぎました。奏音ちゃんの手術の後も葉月さん達の大学受験や奏音ちゃんの改名などがありました。最初は性別の変更もあるので一緒にという話もありましたけど、名前だけでも先に変えたいという気持ちと審査が大変で先に性別違和を理由に名前の変更をした方が、その後の性別の変更をする時に家裁に申し立てをすることがかなり楽になるとか…… そういう事で!
「飛鳥先生、やっと五条奏音になれました」
「うん、中学生の時クラスのみんながつけてくれた名前だもんね」
「はい、でも、カノンって曲があるの知ってますか?」
「えっと…… カルメンなら」
「違いますよ、カノンですヨハン・パッヘルベル作曲の! 私はこの曲が大好きなんです。だからみんながつけてくれたこの名前が大好きなんです」
そうか、奏音ちゃんはピアノが得意だからそういう曲も知ってるんだね! でも、やっぱり奏音ちゃんが羨ましいです。性別も名前も変更して…… 私も、飛鳥という名前を明日香に変更しようかな…… でもまあ、今更だし、面倒だからやりませんけどね……
来年の三月下旬、私は城南市へ戻ります。最初診療所へ赴任して来たときは、三年間勤務する事が出来るだろうかと心配しましたけど…… でも、晴翔君や奏音ちゃんの事もあり、二年延長して残りあと少しまで来ました。そういう事で明日、北山総合病院へ行きます。今後の事も決めないといけないので……
『プルプル、プルプル……』
あっ、電話です。誰からでしょうか? えっと、案西先生……
「もしもし、今村です」
『飛鳥先生、久しぶりです。DIDの患者さんはどうですか?』
「はい、お陰様で統合することに成功しました」
『そうですか、それは凄いですね』
「でも、四年ちょっと掛かりましたけど……」
『でも、三人の人格を統合させたんですよね』
「はい、でも、イマジナリーフレンドの子が結構協力的でしたので」
協力というか、ほとんど湊君が晴翔君のために…… 私は利用されたようなものですね。
『そうですか、それで今後は北総へ戻るんですか?』
「えっと……」
『その返事では、まだ決めて無いようですね』
「はい…… 実は大学関連の病院はちょっと……」
『もし良ければ、今津へ来ませんか! 飛鳥先生なら歓迎しますよ』
「はい…… ありがとうございます。でも、少し考えさせて下さい」
『ええ、構いませんよ! ゆっくり考えてください』
「はい、ありがとうございます」
案西先生は私の事を心配して電話してくださったようです。でも、取り敢えずは北総での契約解除を先にしないといけませんね……
翌朝、私が診療所へ行くと……
「飛鳥先生も半年後にはここを出て行くんですね!」
華純さんがちょっと淋しそうに言います。
「うん…… でも、まだ半年はいますからね」
「飛鳥先生、帰っちゃうんですね」
江下先生まで…… でも、代わりの先生は来るのかな……
「飛鳥先生、城南市へ戻っても一緒に仕事出来るんですよね!」
雫はそこが一番心配のようですけど…… 勿論、一緒にお仕事が出来ると良いのですが、私は北総での契約が切れますけど、その後は契約継続はせずに他の病院へと思っています。
「雫は、美彩先生のところで看護師を出来るようにお願いしてくるから」
「先生はどうするんですか?」
うーん…… 雫に訊かれ私はちょっと困ってしまいましたけど……
「私は医療センターか中央病院で医療活動が出来ればと思っているけど」
「だったら、私も……」
雫はそう言うけど……
「大きい病院は、日直も宿直もあるからお互いすれ違いになるかもしれないから……」
「飛鳥先生も美彩先生のところで医療活動は出来ないんですか」
いや、小さなクリニックに先生が二人って可笑しいでしょう。
「雫、無理言わないの」
「でも……」
そんな雫を見ないように私はバッグを持って診療所を出るところです。
「雫、華純さん、江下先生、それじゃ北総へ行って来ます」
「はい、行ってらしゃい!」
華純さんと江下先生は笑顔で見送ってくれましたけど、雫は無言で手を振っただけでした。はあ…… もう、そんな顔しないの、なかなか、思い通りにはいかないんだから…… そう思いながら私は、愛車のとっぽちゃんに乗り山道を下り剣岳インターを目指します。この細い道もかなり慣れました。役場行きのバスと出会っても、難なく左に避ける事が出来るようになりました。慣れというのは凄いですね。
私はいつものように剣岳インターから高速道路に乗り、今度は城南東インターを目指します。いつもなら鈴村SAでソフトクリームを食べるんですけど…… 今日はそんな気分では無いし、一人なので先を急ぎます。そういう事で城南東インターには十一時前に到着しました。その後、北山総合病院を目指しますけど、途中、北条クリニックの前を通りかかったときです。道向かいに建築中の建物がありました。あれって、普通の家じゃないですよね、ちょっと大きいのでお店……? ひょっとして新しい病院とか…… 北条クリニックは大丈夫でしょうか…… あとで美彩先生のところに寄ってみましょうどっちにしても雫の件がありますので……
そういう事で先を急ぎましょう。その後、私が北総に到着したのは十二時を三十分ほど過ぎた頃でした。取り敢えず、お昼を食べた後に院長室へ行きましょう。確か、約束も一時頃という事だったと思いますので……
「あれ、飛鳥?」
「えっ!」
私が振り返るとそこには慶子先輩と看護師さんがいました。
「あっ、先輩!」
「あっ、飛鳥先生お久しぶりです」
えっと、この看護師さんは……
「葉月さん!?」
「はい、真田葉月です」
丁度、私が転院になる前にこの病院に新人として来た看護師さんです。
「わーっ、懐かしい」
「それで、戻って来るの?」
先輩からはそう訊かれ、現実に戻されました。
「えっと……」
「その調子じゃ、戻る気は無さそうね」
「あっ…… はい……」
「玲華が飛鳥を大学へ赴任させようと一生懸命だよ」
「はあ…… でも大学はちょっと」
「まあ、あなたがそう言うと思って、医療センターの山脇先生に話をしておいたから連絡しなさい! 良いわね」
ちょっと厳しめに先輩から言われました。ひょっとして怒ってます……?
「はい…… ありがとうございます」
「それから飛鳥、ちゃんと戻って来るのよ! そうしないと許さないからね!」
やっぱり怒ってますよね! 私がきちっと決めきれてないから…… それから三人でご飯を食べたあと、私は院長室へ向かいます。
「飛鳥先生、お久し振りですね」
受付の女性から声を掛けられました。
「戻って来られるんですか」
「えっと、いえ」
私がそう答えると……
「先生、もう天王寺先生はいらっしゃらないので戻られても良いのでは……」
えっ、天王寺先生は居ない?
「どこかへ行かれたんですか」
「ええ、先生が診療所へ行かれたあと、この事が大問題になって、結局、教授引退予定の上野先生が教授になって、天王寺先生はどこへ行かれたかは判りませんけど」
「はあ…… そうなんですね……」
まあ、あれだけ話が大きくなってましたからね……
その後私は、院長室の前まで来ました。
『コンコンコン』
私がノックをすると中から返事がありました。
「失礼します」
「今村先生、遠いところご苦労様です」
「いえ、今後の事もありましたので」
「という事は残っては頂けないんですね」
「はい…… すみません」
その後の事はあまり覚えていません。気がついたときには契約終了の書類に署名捺印をしていました。これで私は三月いっぱいで北山総合病院を退職します。しかし、何だか晴れ晴れとした良い気分です。
「院長先生、お世話になりました」
「うん、今村先生がいなくなるのは残念ですけど、気が変わったらいつでも私は受け入れますので!」
「はい、ありがとうございます」
その後私は、院長室を出て内科の医局へ来ました。
「吉岡先生、ご無沙汰しています」
「飛鳥先生、契約終了されたんですか?」
「はい」
「そうですか……」
「あれ、今村先生ですか?」
振り返ると、見覚えのある男性の先生が……
「大河内先生!」
「はい、今年の四月に戻って来たんですよ」
「そうでしたか」
「先生も、戻って来るんですよね」
「いえ、私は契約終了しましたので」
「あっ、そうですか…… 残念ですね、今度は一緒に仕事が出来ると思っていたんですけど」
何だか大河内先生も性格が優しくなられたような……
「はあ、すみません」
「いや、先生が謝る事では……」
「あっ、はい…… あの、それじゃ、私はこれで」
私はそう言って北総を後にしました。本当は外科や精神科の医局へも行こうと思いましたけど無理でした…… 何だか胸がいっぱいというか、ちょっと苦しいです。また今度年度末にでもご挨拶に来ましょう。
その後、私は家の前まで戻って来ましたけど、北条クリニックへ逆戻りしました。本当は夕方にゆっくりとと思っていましたけど……
「こんにちは!」
受付で声を掛けると……
「飛鳥さん!」
たまたま受付に来ていた美彩先生に出会いました。
「何かあったの?」
美彩先生にそう言われ、私は張り詰めていた空気がパッと消え楽になりました。
「美彩先生、今日はちょっとお願いがあって……」
「あら、奇遇ね! 私も飛鳥さんにお願いがあるんだけど」
えっと、美彩先生が私にお願いとは……
契約解除をして、飛鳥の気持ちはちょっと辛くなっていたようです。しかし、美彩先生に逢ってその気持ちも少しは楽になったようです。飛鳥は、美彩先生に雫の事をお願いするつもりですけど、美彩先生も飛鳥にお願いがあるとか…… いったいどういう事でしょうか。




