43 晴翔君の異変
お待たせしました第43話を更新しました!
手術が終わった奏音ちゃんは、結構痛々しいです。でも、望んでる性別になれて良かったかな……
昨晩は馬場チームのみなさんと居酒屋さんで楽しいひと時でした。今日はお昼から清川村へ帰りますので、その前に今から山岡大学病院へ奏音ちゃんに逢いに行きます。気分はどうかな…… そう思いながら私はノックをして病室へ入りますけど……
「奏音ちゃんおはよう!」
「あれ、飛鳥先生は帰るんじゃなかったんですか?」
そう言われ、私は三人から注目の的です。って言うか、この二人はもういるよ……
「えっと、帰るのはお昼からね! 葉月さんと弥生さんも来てたんだ!」
「はい、今日も試合は無いので……」
折角、山岡市まで来てるんだから他にやる事無いのかな……
「奏音ちゃん、手術した所は痛くない?」
「うーん、ちょっと痛いです。身体を動かした時とか……」
「そうか、あんまり動かないでね! 傷口が開いたりすると大変だから」
「はい」
「ところで先生、奏音の手術は終わったけど、戸籍の変更とかはすぐ出来るの?」
「えっと、性別の変更は十八歳になってからかな…… でも、名前の変更はすぐに出来るよ!」
「それって、役場とかで良いの?」
えっと…… 役場じゃ無理だけど……
「家庭裁判所に申立てをして許可をもらわないとね!」
「なんだ、そうなんだ…… 名前くらいすぐに変えてくれれば良いのにね」
いや、そんなに簡単には……
「そんなに簡単に出来たら大変よ! それを悪用する人とかいるかも知れないから」
多分、絶対にいるでしょう…… まあ、あってはいけない事なんですけどね。
「確かに、頻繁に名前が変わったら覚えるのも大変ですよね!」
いや、奏音ちゃんそこはちょっと違うんじゃ…… それに名前の変更は一回しか出来ないから……
「先生、私はいつまで入院するの?」
何だかもう飽きたみたいです。
「そうね、多分夏休みの間は入院かな……」
「えっ、そんなに!」
葉月さんと弥生さんはそう言いますけど……
「よそのジェンダークリニックとかは二週間くらいの入院なんじゃないの」
もう、弥生さんはどこで調べたんだろう……
「飛鳥先生そうなんですか?」
もう、面倒だな……
「そういう所もあるかも知れないけど、清川村はもちろんだけど川本市にもジェンダー外来やクリニックも無いんだから…… それに術後の検査とかリハビリもしてた方が良いんだから」
「でも先生、夏休みは八月二十五日までですからね!」
あっ、そうか…… 二学期制ですよね。
「多分、大丈夫だよ! 二十二、三日くらいには退院出来ると思うから」
「それじゃ、奏音は夏休みの課題をここでやらないと駄目だね!」
「うん…… 一応持っては来てるけど……」
それなら大丈夫かな! ただ、今年の夏休みは性別適合手術だけで終わってしまいそうですけど……
その日の夕方、私は南川上町まで戻って来ました。
「飛鳥先生!」
あっ、雫がインターの側まで迎えに来てました。
「雫、ただいま!」
「予定通りですね!」
「まあ、何かよほどの事がない限り大丈夫だよ!」
私はこの日、新幹線に乗り、その後は川本市から高速バスで南川上町まで戻って来た訳です。
「先生、お土産は?」
「あっ、忘れた! コンビニで何か買って行く?」
「えーっ、忘れたんですか……」
もう、雫は私よりもお土産の方が大事なんでしょうか……
「冗談よ! 十問屋さんのワッフルを買って来たから」
「えっ、ワッフルなんてお久し振りですよ」
「蜂蜜風味のふわふわの皮にクリーミーなカスタードクリームをたっぷりサンドした絶品のワッフルだからね!」
「飛鳥先生、コンビニでコーラを買っても良いですか!」
「良いよ」
私はコーラじゃなくてコーヒーで良いんですけどね! でも、雫や江下先生は炭酸系が好きですからね……
やっと診療所へ戻って来ました。
「先生、お帰りなさい!」
「あっ、ただいま! お土産買って来ましたので夜ご飯の後にでも……」
「華純さんワッフルですよ!」
もう、雫は相変わらずです。
「ひょっとして十問屋さんですか!」
「えっ、あっ、はい、有名なんですか?」
「いえ、私はあそこのお菓子は好きですから」
あっ、華純さんはご存知なんですね!
「飛鳥先生、お帰りなさい。奏音ちゃんは大丈夫ですか?」
江下先生も心配してくれてるのかな……
「はい、昨日手術だったんですけど無事終わりました。しばらくは動けませんけど、八月の二十日前後には戻って来れると思います」
「それじゃ、夏休みは終わっちゃいますね」
「うん…… でも、願いが叶った訳ですからね!」
でも、思った以上に手術は凄かったです。私も大学を卒業した後に手術をするつもりでしたけど…… それをしていたら一週間か二週間は身動きが取れなかったと思います。それに雫とも一緒になれなかったと思います。それを考えると今は良かったのかな……
その後、夜ご飯の後にみんなでお土産のワッフルを頂きその日は終わりました。
翌日、朝一番に晴翔君が来ました。お薬が無くなったのかな……
「晴翔君、診察室へどうぞ!」
私がそう呼ぶと……
「飛鳥先生、何とかして下さい!」
診察室へ入って早々に晴翔君が言います。
「一体どうしたの?」
「湊と凛が、脳内で喧嘩してどうにかして欲しいんです」
あの二人は、またやってるのね。
「晴翔君、湊君に変われる?」
「はい……」
その後、晴翔君の目つきが鋭くなりました。
「なんだよ、飛鳥ちゃん!」
「はあ…… なんだよじゃ無いでしょう。どうして喧嘩してるの?」
「だってよ、凛の奴が生意気なんだよ」
いや、生意気って…… 湊君も結構なもんですけどね。
「……」
「そんな事無いもん! 生意気なのは、そっちでしょう」
えっと、今のは凛ちゃん?
「凛ちゃん、一体何があったの?」
「何がって、湊の事が気に入らないだけだよ!」
凛ちゃんもまた…… 困ったものです。
「……」
「別に俺はおまえに気に入ってもらわなくても良いんだよ!」
えっ、また変わった?
「もう、いい加減にしなさい!」
「……」
静かになったかな……
「湊君も凛ちゃんも、晴翔君の事をもう少し考えてあげて! 二人が喧嘩して一番苦しいのは晴翔君だよ! 仲良くしなさい。そうしないと……」
ちょっとは効き目があったかな……
「……」
「はあ…… こんなのと仲良くするくらいなら晴翔と統合した方がマシだ!」
「……」
「言ったわね! 私だって…… 湊なんか大っ嫌い!」
「もう、辞めなさい!」
私がそう叫んだ後、またちょっと静かになりましたけど…… この二人は元々晴翔君が作り出した人格のはず、それなのに…… だから、もう少し解ってくれても良いんじゃないかな……
「晴翔君!」
「あっ、はい……」
「晴翔君は積極的に自分を持ってね! なるべく表には晴翔君が出るように」
「はい」
「お薬はある?」
「えっと、あと四回分くらいは……」
「解った、また五回分処方するから」
「はい、ありがとうございます」
「それと、二人が脳内で喧嘩する時は、あなたも脳内で注意して!」
「はい、解りました」
そこで診察は終わりました。今のところ喧嘩は収まっているようですけど……
「飛鳥先生、湊君と凛ちゃんはどうして喧嘩したんでしょうか?」
雫にそう訊かれましたけど…… 元々あの二人は仲が悪かったですよね…… それを樹君が……
「あっ、そういう事か!」
「何がですか?」
「仲裁役の樹君がいなくなったから……」
「えっ、それじゃ喧嘩は続くんじゃ……」
「そうね…… あとは、晴翔君次第かな……」
でも、これ以上状況が悪くなったら、その時は、無理にでも統合した方が…… でも、難しいですよね……
夏も後半、お盆が近づいて来ました。お盆が終われば奏音ちゃんも帰って来るはずです。そう言えば、お盆は華純さんや江下先生は帰省するのかな……
「華純さんはお盆はどうするの?」
「私は別に、ここに居ますけど……」
そう言えば、華純さんはお盆もお正月もここに居ますよね……
「二、三日くらいは帰省しても良いですよ!」
私はそう言いましたけど……
「いえ、私はここに居ますので」
そうですか……
「飛鳥先生、私はニ日間お休みを頂いても良いですか」
江下先生がそう言います。まあ、奏音ちゃんの手術の時も、ずっと居てもらいましたからね。
「江下先生、良いですよ! たった二日ですけどゆっくりして来て下さい」
まあ、交代ですからね!
「飛鳥先生と雫さんはどうするんですか」
「私達はここに残って温泉三昧です」
「一泊で戻ってもきついだけですもんね」
まあ、そこが雫の本音かな……
「雫、今日えびす屋さんに行かない?」
「温泉ですか?」
「うん、華純さんも江下先生も一緒にどうですか!」
「はい」
「はい、お供します」
そういう事で、今日の夜は温泉です。四人揃っての温泉は久々ですね! 早速、華純さんが麻子さんに電話してるみたいですけど……
「飛鳥先生、女将さんが話があるそうですけど……」
えっ、何だろう。
「もしもし、今村です」
『飛鳥先生、晴翔の事なんだけど……』
「はい、晴翔君がどうかしましたか?」
『最近、いきなり怒ったり泣いたりしてるんだけど……』
多分、あの二人の脳内喧嘩ですね。
「はい、その話は聞いてますので治療とお薬を処方してますけど……」
『先生、今日来るなら診て欲しいんですけど……』
「解りました! それじゃ、早めに来ますね」
もう、あの二人は全然解っていないようです。
その夜、私達は三十分くらい早めにえびす屋さんに来ました。
「あっ、飛鳥ちゃん!」
もう、湊君は…… 馴々しくしないでって言ってるのに。
「なに、どうしたの!」
私はちょっとツンツンした返事をしました。
「大変なんだよ! 凛が……」
えっ、凛ちゃん!
「凛ちゃんがどうかしたの?」
湊君はそう言うと俯いたまま黙り込んでしまいました。彼がこんな仕草をするのは珍しいです。一体、何があったんでしょうか……
脳内で喧嘩中の湊君と凛ちゃんですが、一体何があったのでしょう……