40 おめでたい日
お待たせしました第40話を更新しました!
姉の結婚式のために戻って来ていた飛鳥と雫です。美彩先生に会う為に北条クリニックへ行くようです。
城南市に久々に帰って来た私と雫は、本日休診の北条クリニックへ行く事にしました。美彩先生いるかな?
『ピンポン!』
雫がインターフォンを鳴らすと中から返事が……
『はい、どちら様?』
「えっ、あっ、えっと……」
ちょっとちょっと、早く返事しないと不審者になるから……
「えっ、あの……」
「美彩先生、今村です!」
私は慌てて雫の背後から返事をしました。
『あっ、飛鳥さん…… ちょっと待ってね!』
しばらくすると『ガチャ』と扉が開きました。
「あれ、飛鳥さん……?」
「あっ、その…… 今村、雫です……」
雫が扉の正面に居たので、そうなりますけど……
「あっ、美彩先生! お久しぶりです」
私は雫の背後からまたもや叫んでしまいました。
「あら、いらっしゃい! 飛鳥さんが雫さんの後ろにいたから解らなかったわ!」
いや、雫のすぐ後ろにいたんだから…… 相変わらず先生は天然です。雫だって、美彩先生は初めてじゃ無いのに、何故ここに来て人見知り……
「どうしたの、二人揃って…… また何処か遠くへ行っちゃうの……? まあ良いわ、中へどうぞ」
私達はリビングに通されましたけど、久しぶりに二人で来たからって遠くへ行くなんて可笑しいでしょう。
「飛鳥さんも雫さんもコーヒーで良いかしら」
「あっ、はい、すみません」
あれ、上杉先生はいないのかな…… 今日は土曜日だから自宅にいると思ったんですけど。
「さあ、どうぞ! それで今日はどうしたの? 清川村の方は良いの?」
「はい、明日、姉の結婚式があるので戻って来たんです」
「あら、そうだったの。あっ、そうそう二人とも海鮮弁当食べる? 週末はモールタウンで北海道フェアをしていて美味しそうだったから買って来たのよ!」
「あっ、美彩先生お構いなく! 家でも同じ物を食べて来ましたので……」
「あら、そうなの…… 美味しいのに」
美味しいのは解っていますけど、お腹いっぱいなんですよね……
「ところで、あのGIDの男の子はどうなったの?」
あっ、そうでした。奏音ちゃんと最初に出会った時、美彩先生が清川村に来てたんでした。
「はい、彼女は夏休みに手術をする事になりました」
「えっ、村立病院でするの?」
えっと…… 清川村では当然無理なんですけどね……
「いえ、山岡市の山岡大学病院で手術します」
「ああ、飛鳥さんが前に研修に行ったところね!」
「はい」
あれ、美彩先生に話した事ありましたっけ……
「それで、飛鳥さんが手術をするの?」
えっと…… 多分手術は、猿渡先生かな…… でも、先生の専門は婦人科だから…… あれ、泌尿器科の先生って誰でしたっけ……
「いえ、手術は別の先生です。私はGIDの診断をした医師なので、ちょっと付き添いはしますけど」
本当は行かなくても良いとは思うんですけど、奏音ちゃんの不安そうな顔を見ると一人では……
「そうなんだ、でも折角だからやれば良いのに」
『ピンポン!』
「あら、誰かしら……」
そう言って玄関へ行く美彩先生ですけど…… まったく先生も他人事ですよね、そんな飛び入りで出来るような事じゃないでしょう。
「あら、いらっしゃい! どうぞ」
えっ、お客さんなのかな…… その時リビングに入って来たのは……
「やっぱり美彩先生のところにいた」
「えっ、瑞稀!」
どうして瑞稀がここに……
「私もいるわよ!」
瑞稀の後に入って来たのは玲華でした。
「ねえ、何故私が戻って来てる事を知ってるの?」
「知ってるに決まってるでしょう! 飛鳥のお姉さんはどこで結婚式をするんだっけ」
瑞稀からそう訊かれました。うちの姉の事を知ってるみたいです。
「何故、お姉ちゃんの事知ってるの?」
私が更に訊くと……
「はあ…… だから式場は?」
「ララシャンプルミエ…… あっ、そうか!」
瑞稀も玲華も呆れている様子です。
「飛鳥の天然は今も健在みたいね!」
玲華は相変わらずの性格です。
「あなた達もコーヒーで良いかしら」
「はい」
「先生、私はミルクたっぷりね!」
もう、ここは喫茶店じゃないんだよ玲華! まったく我がままなお嬢様です。
「飛鳥、あのGIDの子はいつ手術なの?」
また、その話か……
「夏休みに予定してるけど」
「飛鳥が手術をするの?」
玲華は美彩先生と同じ事を言ってるよ!
「私はしないよ」
「そうなんだ、でも出来るよね!」
「うん…… 出来ない事は無いけど……」
「ねえ飛鳥、手術が終わったら帰って来るのよね」
はあ…… また始まった。
「もちろん帰って来るよ。鳥越院長にも五年の猶予をもらっているから」
「それで、その後は……」
「まだ…… 考えていない」
「もう、一層の事北山大学に来れば! 上野教授に話してあげるから」
玲華はそう言うけど、もう大学はいいかな……
「飛鳥さんはこっちに戻ったら北総へは戻らないの?」
ほら、美彩先生にまでその話が……
「えっと、医療センターでも良いかなとは思っているんですけど」
「飛鳥さん、いざという時は言ってね! 私もいろんな病院と繋がりはあるから」
「はい、ありがとうございます」
そういうとこで話は終わりました。色々と心配してくれるのは嬉しいけど、このまま清川村に残ろうかな…… とも思ってしまいます。雫には悪いけど…… って言うか、雫はあの二人の所為で呆気に取られて何も喋れませんでした。
その日の夜、姉はセンチメンタルです。姉はこんな性格だったかな……
「お姉ちゃんどうしたの!」
「うん……」
「ここに来て結婚やめるとか言わないよね!」
「それは無いけど…… 飛鳥、戻って来るんだよね」
「うん…… 戻って来るよ」
「お父さんとお母さんの事お願いして良いんだよね」
そうか、姉は父や母の事を心配しているみたいです。
「私もあと二年したら戻って来るから…… それにお姉ちゃんだって、ここから車で二十分くらいのところなんだから」
「そうだけど、羽島家家に嫁ぐ以上は、向こうのご両親も見ないといけないんだからね!」
まあ、確かにそうですけど…… 姉なりに色々と考えているんですね。
翌日、姉は準備があるので家を七時に出て行きました。でも、挙式は十時だったと思うけど…… それでも、心配していた天気も晴れとは言えないけど雨は降っていません。どんより曇ってはいますけど…… 姉は晴れ女なのか雨女なのか微妙なところですね!
「飛鳥、あなたも立派な女性になったのね」
母からそう言われましたけど……
「どうしたの?」
「あなたが三面鏡に向かって化粧してるのを見てたら、それが普通に見えたから……」
「でも、それは今始まった事じゃ無いでしょう」
「はあ…… まあ、そうなんだけどね」
母のその溜息がちょっと気になりますけど……
「飛鳥先生、もうメイク終わりますか」
「雫、ちょっと待って! 口紅つけたら終わりだから」
「先生、その口紅は新色のピンクですよね」
「うん、ネットで二割引だったから」
「えっ、二割引はいつもの事ですよ! 高くなかったですか」
「えっと、そこまでなかったと思うけど……」
そう言えば、ちょっと高かったかな…… メイクも終わりワンピース姿でダイニングに行くと私の両親が普通に食事をしています。
「ねえ、お母さん達はどうするの?」
「私はお父さんと二人で行くから」
「そうなんだ」
「飛鳥、おまえその格好で行くのか」
そう言う父は私の事をジロジロ見てますけど……
「えっ、可笑しいかな……」
「いや…… 何でも無い」
いや、何でも無い事ないでしょう。それなら訊かないよね! 父はまだ私の事……
「飛鳥先生、そろそろ行きましょうか」
雫がそう言うので私は先に式場へ行く事にしました。まだちょっと時間はありますけどね。
ララシャンプルミエ城南に到着してドレスに着替えた後、すぐに瑞稀に会いました。
「瑞稀も参加するの?」
「そんな訳ないでしょう! 私は隼人君の助手よ」
だって! でも、どこからどう見ても立派なスタッフです。本職は確か高校教師だったよね……
「飛鳥、ごめん!」
そう言うと瑞稀は右手で口を抑えて走って行きます。これって…… 私も急いで跡を追いました。
「いた!」
瑞稀は化粧室でオエオエ言いながら何だか苦しそうです。
「瑞稀、大丈夫」
そう声を掛け背中を優しく摩ってあげました。
「あ、ありがとう……」
「いつからなの?」
「うん…… 最近ちょっとね……」
「関先輩は知ってるの?」
「うん…… 一カ月なんだって」
「そうか…… おめでとう。瑞稀もお母さんだね!」
私はそう言って瑞稀の側にずっといたため姉の挙式には参加出来ず、私が駆けつけたときにはブーケトスが行われていました。
「飛鳥、何処に行っていたの?」
母からそう言われましたけど……
「ごめん、瑞稀がつわりで苦しそうだったから……」
「あら、瑞稀さんおめでたなの!」
「うん、一カ月なんだって!」
「そう、もう良いの?」
「うん、もう大丈夫そうだから。お父さん入場は大丈夫だった?」
「もう、唯香もあの人もステップはバラバラだし、緊張して顔は引き攣ってるし…… 可笑しかったわよ!」
何だか、母は酷い言いようです。
「飛鳥、来とったとか!」
お爺ちゃんとお婆ちゃんです。
「お爺ちゃん、友達が気分が悪くてずっと付き添っていたの」
「そうか、友達はもうよかとか!」
「うん」
「うん、うん、飛鳥は優しい子に育ったね」
お婆ちゃんにそう言われましたけど、一応は医師だし、しかも友達が苦しそうにしてたらほっとけないですよ! そして、ブーケトスも終わり姉の結婚式は無事終了しました。あとは披露宴ですけど、姉は二回もお色直しをしています。私だって一回しかしていないのに…… でも、みんなに祝福された姉は満更でもない感じでした。私が雛壇にいる姉の元へ行ってビールを注いであげた時……
「ありがとう飛鳥!」
そう言って微笑んだ姉が凄く綺麗に見えました。私は、姉の幸せそうな笑顔と瑞稀の辛そうだけど優しく微笑んでいた事がとても羨ましく思いました。私も結婚披露宴はしたけど…… みんなに祝福もしてもらったけど…… やっぱりチャペルで挙式はしたかったかな…… あと、赤ちゃんだって、まあ、それは無理ですけど……
その日の夜、姉は両親の前で挨拶を済ませて、最後の夜を過ごしています。改まって「お世話になりました」なんてのはちょっと感動ものですね。はあ…… 私も言ってみたかったな……
「お母さん、お姉ちゃん、それじゃ私達は帰るから……」
「あっ、はい、気をつけてね!」
そう微笑んで母と姉は二人表に出て見送ってくれました。
姉の結婚式と瑞稀のおめでたを羨ましく思う飛鳥です。自分の幸せと姉や友人の幸せを思いながら、これから飛鳥はどうするのでしょう……