表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憧れの診療所勤務!  作者: 赤坂秀一
第四章 二人の受験
36/55

36 奏音ちゃんの受験

お待たせしました第36話を更新しました!


いよいよ、奏音ちゃんの高校受験が始まります。試験勉強も終盤になり大変です。

 季節は変わり寒い冬です。奏音(かのん)ちゃんの高校受験が、もうすぐそこまで迫っています。まずは二月十五日に私立高校の試験があります。

「ほら、また同じ所で間違ってる!」

 葉月(はづき)さんがここのところ毎日のように家庭教師をしてくれています。

「なんで同じ所で間違うのかな?」

 奏音ちゃんは他人事みたいに言ってますけど……

「もう…… 少しは学習しなさい! 奏音ちゃんはケアレスミスが多いんだから、これを良くするだけで三十点は変わってくるよ!」

「二人とも、少し休憩したら暖かいカフェオレを入れたから」

 華純(かすみ)さんが準備をしてくれました。葉月さんはヒートアップしやすい性格のようなので少しクールダウンした方が良いのかな、奏音ちゃんも頭がオーバーヒートしてるかも……

「すみません華純さん」

「良いですよ! 飛鳥(あすか)先生が勉強を許しているんですから」

 うーん、許すも何もこの村には図書館がある訳でもないし、二人とも私の患者さんですからね。拒食症だった葉月さんは体重もかなり戻って来ました。今は48kgでBMIが19.98なのでもう少しくらいは増やしても良いかな…… 奏音ちゃんは受験が終われば医療センターで検査をして、夏休みには山岡大学(やまおかだいがく)病院(びょういん)で手術です。

「飛鳥先生、晴翔(はると)君が来ましたけど」

 うん、久々に来ましたね!

「はい、診察室に入ってもらって」

「晴翔君、診察室へどうぞ」

 華純さんが晴翔君にそう声を掛けました。

「先生こんにちは!」

「こんにちは晴翔君、どう仕事の方は?」

「はい、その事で…… 相談に来たんですけど……」

 晴翔君はちょっと俯き気味に話をします。

「実は僕の上司が何かと僕を虐めるんです」

「虐める……?」

 私も江下(えした)さんも首を傾げます。

「だって仕事が遅いとか、段取りが悪いとか言いたい放題なんですよ!」

 ハハ、そういう事か……

「それは、晴翔君は期待されているのよ!」

 私がそう言うと晴翔君は不思議そうな顔をしています。

「えーっ、どういう事ですか?」

 うーん、なかなかそれを説明するのは……

「晴翔君はまだ新人職員だから色々と教えてもらってる訳だからね」

 江下さんがそう言います。

「でも、言い方があるでしょう」

 まあ、晴翔君の言い分は解りますけど……

「晴翔君、新人はみんなそんな感じなんだよ!」

「えーっ、あんな事が続けば僕はまた可笑しくなるかも……」

「晴翔君、役場の職員というのは学校と違って、お給料をもらうために働いているの! だから少しくらい怒られたりする事はあるんだよ!」

「そうだよ、それが社会というものなのよ!」

 私が言った後に江下さんがしみじみと付け加えて来ました。

「でも……」

「晴翔君、叩かれたりとか殴られたりはしてないよね!」

「あっ、いえ、それは無いですけど……」

 まあ晴翔君も社会人として最初の難関にいるみたいです。

「ねえ晴翔君、そうやって怒られてる時、(みなと)君や(りん)ちゃんはどうしてるの?」

「えっと、湊は呆れた顔をして笑ってます。凛はちょっと怖いようで、顔が引き攣っています」

 そうか、湊君は何となく解っているのかな! 凛ちゃんはまだ、社会を知らないのかな……

「晴翔君、仕事のやり方とかは解ってるの?」

「はい、ただ処理するのが遅かったり、忘れてたりです」

「そうか、とにかく注意されたら『すみません』と一言言って仕事を続けると少しは違うかもね」

「でも、新人のうちは誰だって仕事が遅いのは……」

 私は晴翔君の言い分を制しました。

「それが駄目なんだよ! 出来ないのが当たり前じゃ駄目なの! 出来ないならそれなりに努力しなきゃ」

 すると晴翔君は俯いて……

「湊からもそう言われました」

 晴翔君は、そうぼやいてしまいました。そうか…… 湊君がね……

「晴翔君、まずは一年間努力して頑張りなさい。そうすれば二年目は今よりも仕事が楽しくなると思えるから!」

「そうかな……」

 晴翔君は私が言ってる事を半信半疑のように思っているみたいです。

「晴翔君、私が今まで嘘を言った事がある?」

 ニッコリ微笑んで私が晴翔君を見ると…… 彼は少し顔を赤くしてコクッと頷き、すぐに首を横に振りました。まったくそれってどっちよ!

「晴翔君も暖かいカフェオレを飲んで元気出してね!」

 今日はカフェオレがよく出て来ますね……

「あっ、温かくて美味しいです」

 うん、少しは元気を出してくれたかな……?

「晴翔君、お薬は飲んでる?」

「えっと、ほとんど飲んではいないけど、上司に怒られてやる気が出ない時とかに飲んでます」

「うん、それで良いよ! お薬はまだある?」

「はい、あと三回分は……」

「それじゃ十回分くらい補充しとくね、中々診療所にも来れないだろうから」

「はい、ありがとうございます」

「あっ、晴翔君だ!」

 奏音ちゃんが晴翔君を見つけたみたいです。

「やあ、奏音ちゃん! 勉強の方は捗ってる?」

「うん、まあまあだよ!」

 奏音ちゃんはそう言うけど……

「あれがまあまあね……」

 葉月さんは結構厳しいですね……

「えっと、こちらは?」

「あっ、私は……」

「あっ、えっと、僕は飛鳥先生に診てもらってる星野晴翔です」

「あっ、私も飛鳥先生に診てもらってる白河葉月です」

「今は私の先生だけどね!」

 葉月さんは奏音ちゃんの先生というよりも家庭教師みたいなものね!

「もう、先生なんて大袈裟ね!」

 でも、葉月さんは満更でもなさそうです。それにしても今日は久々に患者さんが揃いましたね!


 二月十五日、今日は奏音ちゃんの私立高校入試の日です。確か川本東(かわもとひがし)高校でしたよね…… なので朝早くに村を出てると思います。まずはひとつ合格をもらう事で自信にも繋がりますよね! 三月には県立高校の一般選抜試験、こっちが本命ですからね!

「先生、こんにちは!」

 えっ!

「葉月さん、どうしたの?」

「奏音ちゃんの試験はどうだったかなと思って」

 葉月さんは心配で診療所へ来てしまったようです。

「まだ、お昼の一時を過ぎたくらいだから、最後の英語の試験があっているんじゃないかな」

「はあ、そうですよね……」

「葉月さんは学校の方は?」

「はい、もう授業は午前中で終わりますので」

 葉月さんは気になってしょうがないんでしょうね……

「あっ、葉月さんいつの間に……」

 華純さんが驚いていますけど……

「葉月さん、今の時間は昼休みなんだけど……」

 華純さんは私に気を遣っているみたいですけど……

「華純さん、まあ良いじゃないですか、折角だから一緒にお昼にしようか!」

「でも、お弁当は?」

「あっ、ここに来る途中にコンビニで買って来ました」

「えっ、どこのコンビニ? この辺に出来たの?」

 すかさず華純さんが訊きますけど……

「あの…… 南川上(みなみかわかみ)町のコンビニですよ!」

 まあ、そうだよね…… もし、清川村に出来たのなら村中大騒ぎですよ!

「葉月さん、体重はどう?」

「あっ、そうそう飛鳥先生、やっと50kgになりました」

「そうか、やっとね!」

「はい、ですからBMIも20.81になりました」

「うん、それじゃこれ以上増えないようにセーブしていかないとね」

「はい、ここからが大変です」

 そういう事は、もう大丈夫かな……

「すみません!」

 あれ、誰か来たみたいですけど……

「あっ、私が見て来ます」

 そう言って雫が玄関の方へ行きました。

「えっと、男性の声だったようだけど……」

「飛鳥先生!」

 そう私を呼びながら雫が戻って来ました。

「雫、誰だった?」

「えっと、男の人です」

「急患なの?」

「さあ……」

 もう、何のために玄関に行ったの! そう思い私が玄関へ行きました。雫の言うように男性の方ですけど……

「どうかしましたか?」

「あの、すみません。白河葉月は来ていますか?」

 なんだ、葉月さんのお客さんか……

「はい、ちょっと待ってください」

 そう言って私は診療所奥の休憩室へ戻りました。でも、どっかで見たような……

「葉月さん、お客さんよ!」

「私にですか」

 そう言って葉月さんが玄関へ行きました。

西條(さいじょう)君! どうして……」

「いや、ここのところ学校が終わったらすぐいなくなるから……」

 そうか、何処かで見た事あると思ったけど葉月さんの彼氏さんか……

 その日、奏音ちゃんから連絡があったのは午後三時前の事でした。取り敢えず無事に終わったようです。葉月さんは、奏音ちゃんもいない事ですし、彼氏さんと帰って行きました。なんか良いな、葉月さん照れちゃって…… 青春してるね!


 一月は行く二月は逃げる三月は去るとよく言ったもので、今日は奏音ちゃんの県立高校一般選抜試験の日です。私立高校の入学試験で合格をもらった奏音ちゃんは、朝からお母さんの車で試験会場へ行ったみたいです。確か県立は剣岳南(つるぎだけみなみ)高校でしたよね…… 県立高校の試験ということは葉月さんの高校も試験があっているでしょうからお休みなんでしょうね! ひょっとしてお昼くらいに診療所に来たりして…… 最近までは奏音ちゃんの勉強を見に来てましたけど、今日は流石に来ないかな!

 今日の診療所はとても暇です。今、十一時を過ぎたくらいですけど、患者さんは一人だけでした。

「あっ、こんにちは、どうぞ!」

 えっと、華純さんの声が聞こえます。患者さんでしょうか?

「華純さん、患者さん?」

「いえ、その……」

「扇屋です。いつもお世話になってます!」

 あっ、お弁当を持って来てもらったんですね…… しかし、本当暇というか退屈です。

 そして、十二時半を回りました。本日午前中の患者さんは一人だけでした。今日は村で何か行事でもあっているんでしょうか……

「飛鳥先生、お昼ご飯食べましょう!」

 雫が私を呼びに来ましたけど……

「うん、そうだね!」

「今日は私がお味噌汁を作りました」

「そうなんだ、それは楽しみだね!」

 午前中は何も変哲のない平和で退屈な時間でした。


 二時になりましたのでお昼からの診療開始です。

「先生!」

 えっ!

「奏音ちゃん! 試験は終わったの?」

「はい、今日は三時間で終わりです。明日またありますけど……」

 あっ、そうか! 県立高校は面接まであるから二日間ありましたね。えっと、面接……!

「明日は面接で色々訊かれるかもね」

「でも、今日の受付でも『トイレは女子用をお使いください』と言われました」

 うん、中学校からきちんと話が行ってるみたいですね。

「試験はどうだった?」

「葉月さんが言ってたような問題が出てましたので大丈夫だと思います」

 うん、どうやら何とかなりそうですね! でも、もう一日、明日は面接もありますけど、大丈夫でしょうか……

取り敢えず受験も終わり、後は結果を待つだけですけど、たぶん大丈夫でしょう。あれだけ葉月さんと一緒に頑張って来たんだからね!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ