35 華純の決心
お待たせしました第35話を更新しました!
私の診療所勤務もあと二年延長する事が出来ました。これで奏音ちゃんの手術を見届ける事が出来ます。葉月さんも少しずつ回復していますけど…… 華純さんから上佐野平へ誘われました。何をするつもりでしょう……
えっ、上佐野平に行くの? そこって確か、華純さんの彼氏さんが亡くなられたところですよね……
「華純さん、どうして上佐野平へ? 全然行けなかったところだよね」
「はい、前にも話しましたけど、私はずっと上佐野平へは行けなかったから…… でも、このままじゃいけないと思って、それで私が行くことで何もかも終わらせてスッキリ出来ればと思って……」
なんだか俯いたままの華純さん…… 変な事考えてないですよね。
「えっと、行くのは別に良いけど……」
「ありがとうございます。それじゃ準備を進めますね」
そう言って笑顔で受付の方へ行ってしまいました。何だかあの笑顔が怖いです。
「飛鳥、上佐野平ってどこ?」
瑞稀が興味本位で訊いて来ました。まあ、この辺は温泉以外何もないですからね!
「上佐野平は、剣岳の登山口だよ」
「へえ、さっきの看護師さんは登山とかするんだ!」
「違うよ!」
「じゃ、何しに行くの?」
瑞稀、それ以上もう聞かないでよ……
「はあ…… 上佐野平は、景色が綺麗で真夏でも結構涼しいかもね!」
私はそういう風に誤魔化しましたけど……
「そうなんだ! 私もついて行こうかな」
ああ、言わなきゃ良かった……
その日の夕方、貸切温泉と夕食を瑞稀と楽しむため、私と雫は扇屋さんに来ました。
「飛鳥、こっち、こっち!」
ロビーでウロウロしていたら瑞稀に呼び止められてしまいました。
「飛鳥、何故フロントで連絡してもらわなかったの」
まあ、確かにそうなんですけど……
「私は扇屋さんはあまり知らないから……」
「でも、温泉に入りに来るんでしょう」
瑞稀も更に訊きますけど……
「……」
「あの、私達はえびす屋さんにはよく行くんですけど、扇屋さんは……」
私が困って言えなかった事を雫がサラッと言ってくれました。よく出来た妻です!
「そうなんだ、飛鳥は行きつけがあるんだね! 格好良いじゃん」
「行きつけっていうか、患者さんの紹介とかしてもらってるから、それに女将さんと如月先生も交流があるみたいだしね」
「なるほどね! それじゃそうなるかな」
瑞稀にも納得してもらったようです。
「ねえ、確か泊まっている宿以外の温泉も入れるんだよね!」
「うん、温泉手形というのがあって、それがあれば他の宿の大浴場へ行けるんだよ!」
「そっか…… それじゃ飛鳥は無理な訳だね」
「うん……」
だから前からそう言ってるじゃん! その後三人で食事をしますけど……
「うん、お肉が柔らかくて美味しいね!」
瑞稀は本当、幸せそうな顔をして食べるね!
「飛鳥先生、牛肉って久しぶりですよね!」
「そ、そうだね……」
雫、そこは言わなくても……
「なに、お肉とかあまり食べないの?」
「うん、瑞稀だって毎日は食べないでしょう」
「まあね、それで食事とかはいつもどうしているの? スーパーもコンビニもこの辺にはないようだけど」
「週に三回移動販売のバスが来るからその時お買い物をね!」
「それじゃ自炊をしてる訳ね」
「うん、ところで瑞稀、関先輩は来てないの?」
「うん、隼人君は相変わらず式場が忙しいみたいなんだよね」
「そうか」
「ねえ飛鳥、玲華に聞いたんだけど、清川村にあと二年勤務を延長するんだって?」
「うん……」
「今日、私に勉強を押し付けた子…… だよね!」
瑞稀も解っていたんだ……
「うん、あの娘がGIDだよ」
「それともう一人DIDの患者さんがいるのね」
「うん…… でも彼は、かなり良くなったの」
「良くなったって?」
「人格を一人統合出来たし、社会復帰もしてる」
晴翔君は…… ほぼ大丈夫だと思います。毎日役場でちゃんと仕事をしてますからね!
「それじゃ、昼間の娘の手術が終われば心残りはない訳ね」
「うん……」
どうやら瑞稀も私の事が心配で清川村に来てくれたみたいです。どうせ玲華が話したんだろうけどね……
その後、私達三人は貸切温泉に入ります。瑞稀も折角来たからと私のために予約を入れていたみたいです。
「飛鳥、ちょっと見ないうちに成長したみたいね!」
えっ、成長?
「瑞稀、私はもう三十だよ! 成長はもう止まっていると思うけど」
「違うわよ! 私が言っているのは飛鳥のおっぱいちゃん!」
そう言ってすかさず触られました。
「きゃっ! ちょっと何するのよ!」
「瑞稀さんやめてください! 私もまともに触った事無いのに……」
えっと、雫も触りたいの……
「はあ…… 高校の卒業旅行の頃はあんなに小さくて可愛かったのに」
「もう、瑞稀だってただでさえ大きかったのにもっと大きくなってない?」
「だって、隼人君が……」
「瑞稀、惚気はもういいよ!」
「それで飛鳥はCカップになったんだ!」
「うん……」
「良いな……」
雫まで何を言ってるのか……
「雫さん、飛鳥に毎日マッサージしてもらったら!」
「瑞稀! 適当な事言わないの」
「だって私は隼人君にやってもらってるから」
まったく、瑞稀は何を言い出すのか……
「飛鳥先生、マッサージで大きくなるんですか……」
雫、そんな目で見ないの……
「個人差があると思うよ! たぶん……」
はあ…… 温泉に入るとこの話はお約束なんだよね…… 折角の雰囲気の良い露天風呂が私達のきゃぴきゃぴした話し声で台無しです。でも、久々に楽しかったけど……
翌朝、私は華純さんと一緒に上佐野平へ行くためお弁当を作ります。私と華純さん二人だけならサンドイッチとちょっとしたおかずで良いと思いますけど…… 瑞稀も本当に来るのかな? 取り敢えずおにぎりも作っとこうかな! お弁当も作り終わり、時間も八時半くらいになったので診療所へ行きましたけど……
「飛鳥、おはよう!」
はあ…… やっぱり行くんだね瑞稀。
「飛鳥先生おはようございます」
「華純さんおはよう。友達の瑞稀も行きたいみたいなんだけど良いかな……」
「あっ、はい、良いですよ! 向こうに着いたら飛鳥先生ひとりだと退屈でしょうから」
はあ…… 華純さんはあそこで何をするつもりなのかな……
「それじゃ、行きましょうか」
そういう事で私と瑞稀も華純さんの車に乗りました。
「それじゃ、行きますよ!」
私達は誰もいない診療所を出発しました。雫も江下先生も当直なので、まだ自宅待機のようです。もし患者さんが来たらまず私の家に来ますからね!
華純さんは私が乗っている時は大人しめの運転をしてくれます。
「看護師さんは格好良い車に乗っているのに運転はお淑やかなのね!」
瑞稀は知らないからそういうけど……
「いえ、本気で走ると飛鳥先生が怖がりますから……」
「あっ、飛鳥に気を遣っているんだね」
華純さんが乗ってる車は黒のスポーツタイプの車で確かスープ! とか言う名前だったと思います。私は格好良いのはあまり詳しくないので……
南川上町に着いた時でした。
「飛鳥先生、ちょっとコンビニに寄りますので」
「うん、瑞稀は何か買っとかなくても良い?」
「うん、あとでで良いかな」
「いや、この先はスーパーもコンビニも無いからね!」
そういう事で私も瑞稀もお買い物です。私はカフェオレを買っておきましょうお昼のサンドイッチと合うでしょうから。
「瑞稀は何を買ったの?」
「私はお茶とソフトキャンディをね! あとで飛鳥にもあげるから」
「うん、ありがとう……」
瑞稀は遠足気分ですね…… コンビニを出て華純さんの車に戻った時でした。助手席に花束があります。
「華純さん、これは?」
「お花ですよ」
それは私にも解りますけど……
「あと、ロウソクとお線香です」
なるほど、そういう事ですか! 彼女は彼との事で気持ちの整理をしようと思っているようです。どうやら私の心配は無用だったようです。
「それにしてもお花をコンビニで買ったの?」
「いえ、以前飛鳥先生と川本市に行った時お花屋さんに行って下調べをしてたんです。それでここのコンビニまで持って来てもらったんです」
なるほど、入念に準備していたんだね……
コンビニを出て一時間半くらい車を走らせたら広い河原みたいな所に来ました。ここが上佐野平です。車はこれ以上は入れません。
「飛鳥先生着きました。私は奥の方にいますので、先生達はこの辺にいて下さい」
そう言って華純さんは、お花とバッグを持って奥の方へ行ってしまいました。
「ふーん、何も無い所だね!」
瑞稀の最初の感想です。
「だから言ったじゃ無い!」
「だって、景色が綺麗で涼しいよって言ったじゃん」
はい、確かに言いました。
「でも、涼しいでしょう!」
「うん、そうだね……」
瑞稀はこの場所に何を求めていたのかな……
「華純さんが戻って来たら一緒にお昼にしようか」
「うん、そうだね! 早く戻って来ないかな」
そんなに早くは無理だよ! 亡くなった彼と気持ちの整理をするために来てるんだから、瑞稀は知らないけどね……
その後も、しばらく瑞稀とたわいもない話をしていたら、お線香の香りがして来ました。
「ねえ飛鳥、お墓参りなの?」
瑞稀に訊かれました。
「お墓は無いけど、華純さんの彼氏さんが数年前にここで亡くなっているの。それでその供養と彼女自身の気持ちの整理なんだよ」
私が瑞稀にそう話すと……
「私は来ない方が良かったかな……」
なんて事を瑞稀が言いますけど……
「良いんじゃない! 私と華純さんだけじゃ暗くなって何も言えなくなってたかも知れないから。だから…… 瑞稀ありがとう」
「うん…… お役に立てたのなら良いんだけど」
私と瑞稀がそう話をしていた時でした。
「飛鳥先生、お待たせしました」
華純さんがスッキリした表情で戻って来ました。
「ちゃんとお話しして来た?」
私がそう言うと……
「はい! これで何とかなりそうです」
華純さんはいつもの感じでそう言いました。
「うん、それじゃお弁当食べようか!」
「えっ、持って来てたんですか?」
「うん、この辺はコンビニもレストランもないからね!」
私はレジャーシートの上にお弁当を広げると……
「あっ、飛鳥のサンドイッチ!」
「さっ、どうぞ!」
「美味しそう! 先生頂きます」
そして、私達三人は楽しくお昼ご飯を食べた後、清川村へ戻りました。今年の夏のちょっとした出来事でした。
華純さんは近づく事が出来なかった上佐野平へ自ら赴き、彼氏さんときちんとお話しして気持ちの整理が出来たみたいです。これでいつもの華純さんに戻れたようです。




