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憧れの診療所勤務!  作者: 赤坂秀一
第四章 二人の受験
30/55

30 合格発表と統合と心配な彼女

お待たせしました第30話を更新しました!


晴翔君の大学受験、二次試験が終わったところです。これから新年度の生活が始まります。

晴翔(はると)君…… いや、(いつき)君の大学受験が終わりました。三月の上旬に合格発表があるはずですけど…… 発表はいつでしたっけ? そんな時でした!

飛鳥(あすか)先生、晴翔君が来ましたけど……」

 いつもの如く華純(かすみ)さんから声を掛けられました。うん、ナイスタイミングです! 本人に訊きましょう!

「晴翔君!」

「先生、パソコン! パソコンを貸してください」

「いきなりどうしたの?」

「良いから早く!」

「うん、良いけど…… 大学の合格発表はいつなの?」

「あっ、それです! 今日なんですよ! 合格者がネットで発表されているんです」

 あっ、今日だったのね…… だからパソコンが必要なのね。私は知らなかったとは言わずにノートパソコンを準備します。

「先生、早く確認しろよ!」

 うっ、この口の利き方がなっていない奴は(みなと)君だね…… まったく! そう思いながらも私は、川本産業(かわもとさんぎょう)大学の合格発表にアクセスしました。

「受験番号は?」

「えっと、樹、受験番号……」

「……」

「よし、アクセス出来たよ! 受験番号何番?」

「……」

 何だか晴翔君の様子が可笑しいです。

「晴翔君、どうしたの?」

 何だか、さっきまでの賑やかさが嘘のようです。

「飛鳥先生、樹がいません……」

 えっと…… 居ないって…… どういう事……

「おい晴翔、何処にも居ないぞ」

 湊君が脳内を探したみたいですけど……

「とにかく合格発表を見てみようよ!」

 (りん)ちゃんがそう言いますけど、受験番号が解らないよね……

「受験番号は37116だよ」

「どうして凛ちゃんが知ってるの?」

「いざという時の為に行動日誌に書いていたんです」

 なるほど、流石は凛ちゃんです。

「えっと、37116だよね」

「はい」

「えっと、37110、37112、37118……」

「な、無いよ!」

「えっ、不合格って事……」

 凛ちゃんが淋しそうな声でそう言いますけど、その後晴翔君に変わってから……

「樹が居ないんだから、不合格で良かったかも知れない」

 晴翔君がそう言った後、また沈黙が流れます。でも、樹君はどうして…… いや、彼は統合されたという事なの?

「飛鳥先生、樹は僕と一緒になったという事ですか」

「うん、多分…… 大学受験が終わって目標が達成されたのかも知れないわね」

「そういえば、今朝旅館の事務所で樹がパソコンを触っていたような…… あれ、晴翔じゃないよな!」

 湊君がそう言います。

「違うよ!」

「それで、声を掛けたの?」

 私がそう訊きますけど……

「ああ、何やってんだ! って」

「樹君、何か言ってた?」

「別にって…… 何だか淋しそうな顔をしてたかな…… そういえば、それっきり見てないと思う」

 そこで、話は終わりました。ここからは私の想像ですけど、事務所のパソコンで合否の確認をした樹君は不合格だったからそのまま消えてしまったとも考えられそうです。取り敢えず、樹君は統合され、交代人格が一人減った事になります。

「先生、薬をお願いします」

「うん、解った……」

 私は晴翔君にいつものレクサプロを処方しました。晴翔君もその日はそのまま帰って行きました。まあ、人格が一人減ったのだから良い事なんですけど…… 何だか後味が悪いです……


 四月から晴翔君は清川村(きよかわむら)役場へ出勤します。樹君のお陰で晴れて公務員です。この間、役場に様子を見に行きましたけど…… 健康保険課で研修をしているようでした。晴翔君も旅館の手伝いではなく、きちっと就職出来たから良かったのかな…… 後は、奏音(かのん)ちゃんです。四月から中学三年生になった訳だから、高校受験ですよね…… それに高校生になった年の夏休みには手術になります。そういう事で山岡(やまおか)大学病院の馬場(ばば)先生にも連絡して手術の予約をしないといけません。そういう事で馬場先生へ電話をしてみましょう。私は山岡大学病院へ電話をしました。

『はい、山岡大学病院、野村(のむら)でございます』

 野村さんって、あの受付にいた事務員さんなのかな……

「あっ、清川村立病院の今村(いまむら)と申します。ジェンダーセンターの馬場先生をお願いしたいのですが……」

『はい、しばらくお待ちください』

 そう言われてしばらく待ちますけど……

『お待たせしました、只今手術に入っておりますので折り返しご連絡致します』

 そう言われました。いや、ここの病院はちゃんとしてるっていうか、この時間も手術をしてるってどれだけ忙しいのかな…… 本当、大変そうです。

 夕飯を食べ、のんびりしている時に私のスマホが鳴りました。

「はい、今村です」

『山岡大学病院の馬場です。今村先生お久しぶりですね』

「ご無沙汰しております」

『お電話を頂いていたようですけど……』

 そうでした……

「今、私の患者さんにGIDの方がいまして、来年の夏に手術をお願いしたいと思っているのですが……」

『そうですか、それでは一度こちらへ来て頂きたいんですけど』

 やっぱりそうですよね……

「えっと、行くのは受験が終わってからでは駄目でしょうか」

『そうですね、出来ればスムーズに手術をしたいので、検査とかをやっておきたいんですよ』

 ですよね……

「あの馬場先生、実はまだ認定を貰っていません、というか検査もしていません」

『ああ、そうなんですか! では、うちで検査をして認定を貰うようにしましょうか?』

「うーん、患者さんが十一月で十五歳なので、検査とかは受験が終わった後にと思っています」

『うーん、判りました! では、春休みにこちらで検査をして、認定もこちらでもらって、夏休みに手術というのはどうでしょう?』

 まあ、それでも良いけど、私が帰った後は長谷川先生に頼らなければならないので、それだけお願いするのも悪いですよね……

「あの、申し訳ないんですけど、認定はこちらの病院でやりたいんですけど…… 手術が終わった後も、ホルモン療法や定期検査も必要になりますので……」

『うーん、そうか…… いつまでも今村先生が村立病院にいる訳ではないから、あとは近くの精神科や婦人科のある病院でという事ですね』

「はい、患者さんの事を思うと…… でも馬場先生の方では手術だけになるので申し訳ないんですけど……」

『いえ、そんな事はないですよ! そういう事なら解りました。ただ、手術前の検査はしますので、夏休みになったらすぐにでも来て下さい! あと、まえもって連絡してもらえると助かりますけどね! それと予約もきちんとしておきますので』

「はい、解りました。よろしくお願いします」

 取り敢えずは解って頂きましたけど…… 馬場先生には、ちょっと申し訳なかったかな……


 四月もそろそろ終盤です。世間ではゴールデンウィークが始まろうとしている頃です。今日は晴翔君がお薬をもらいに来る日です。村役場での事も色々訊きたい事満載なんですけど……

「飛鳥先生、初診の患者さんですけど……」

 華純さんがカルテを持って来ました。

「はい、診察室へ……」

「先生、結構痩せていて顔色が悪いんですけど……」

「えっ、私ですか?」

 華純さんは苦笑しながら……

「いえ、患者さんです……」

 あっ、そうですね……

「うん、解りました。診察室へ入ってもらって下さい」

白河(しらかわ)さんどうぞ!」

 診察室へ入って来たのは可愛らしい女子高生です。華純さんの言う通りかなり痩せていますし、顔色も悪いです。

「初めまして、医師の今村飛鳥です。今日はどうしましたか?」

 そう私が訊いた時です。

「先生、私、太っていますよね!」

 いや、どう見ても痩せています。いや、痩せすぎでしょう……

「いえ、白河さんは太っていませんよ! どっちらかというと痩せてると思いますけど」

「そんな事ありません! 太っていますから、本当の事を言って下さい」

「いえ、本当ですよ……」

 私がそう言うと黙り込んでしまいました。彼女の右手の指は赤くなって、傷になっています。これは……

「あの、白河さんは今、身長はどれくらいあるんですか?」

 私がそう訊きましたけど……

「身長は、百五十五センチです」

「では、体重はどれくらいありますか?」

「昨日の夜測った時は四十一キロでした」

 それを聞いた私は、絶句しました。

「……」

 白河さんは、神経性やせ症です。体重は標準以下というより標準体重の80%を切っています。これは深刻です。

「白河さん、あなたは痩せすぎていて危険な状態です!」

「私は全然元気ですよ、問題ありません」

 どうしましょうか…… 神経性の事なので何を言っても無駄ですよね……

「解りました。では、食事の内容を教えて下さい」

 私がそう言った時でした……

「もういいです! 先生も他の医者と同じなんですね!」

 そう言うと彼女は私の言葉も聞かずに診察室を出て行ってしまいました……

「先生、出ていちゃいましたけど……」

 (しずく)がそう言いますけど…… 私はちょっと、放心状態です。

「飛鳥先生、追いかけますか?」

 江下(えした)先生も、そう言います。

「いえ、やめておきましょう。今の彼女に何を言っても訊いてはもらえないでしょう」

 そう言ったときです。

「飛鳥先生、白河さんですけど、健康保険証を忘れて帰られました。治療費もですけど……」

 華純さんが診察室へ入って私にそう言います。

「先生、住所も南川上(みなみかわかみ)町になっていますけど…… 何故わざわざこんな田舎の診療所に」

 仕方ないですね……

「江下先生、あとお願いして良いですか」

「えっ、どうするんですか?」

「保険証を届けに行って来ます。あとご両親と話が出来るかも知れませんので」

「はい…… 解りました。でも、私に出来るでしょうか……」

 ちょっと自信無さそうな返事ですけど…… 多分、大丈夫でしょう。

晴翔君は晴れて公務員に、奏音ちゃんは中学三年生になったので高校受験です。そんな中現れた一人の女子高生は…… ちょっと心配です。

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