27 華純の憂鬱
お待たせしました第27話を更新しました!
緊急事態で剣岳の麓にある上佐野平へ到着しましたけど、消防と山岳警備隊の車輌で騒然としています。
上佐野平に到着しました。この広い河原の周りにはレスキュー隊の車輌や救急車、山岳警備隊の車輌の回転灯がチカチカしていて、辺りは騒然とした雰囲気です。
「お疲れ様です! 私達は清川村の医師ですけど」
まずは徳間先生が声を掛けてます。
「ああ、お疲れ様です。まだ捜索中ですので本部の方へどうぞ!」
そう言われ、私達は本部の方へ……
「お疲れ様です清川村から来ました」
「ああ、お疲れ様です。ここまで大変だったでしょう! こちらで待機しといてください」
「役場の方から来たんですけど道がかなり荒れてますね」
「ああ、あそこは通る人があまりおらんからね……」
「あの!」
「はい……?」
「行方不明の方は何人くらいなんでしょう」
つい、私は訊いてしまいました。
「えっと、川本大学山岳部の方で、全部で四パーティ二十人というのが入山記録にあります」
「二十人ですか……」
「今、レスキュー隊と山岳警備隊で地上を、自衛隊が空から捜索していますが、まだ見つかっていません」
その話を聞いた時、私は嫌な予感がしました。雫も久々に人見知りと緊張で借りて来た猫のようになっています。まあ、可愛いけど…… やっぱり華純さんの方が良かったのでは…… その時でした!
「レスキュー隊から連絡です。五人の要救助者を発見したそうです」
五人という事は一つのパーティという事でしょうか。そうだとしても、まだ十五人の方が行方不明な訳ですよね。
「今村先生、救助者の容体確認を!」
「あっ、はい! 雫、行くよ」
私がそう言って本部のテントを出ると……
「あっ、飛鳥先生、ちょっと待ってくださいよ!」
そう言って雫は走って着いて来ました。
「大丈夫ですか? 私は医師の今村です。判りますか?」
そう言った時でした……
「先生、胸が苦しくて……」
胸が苦しい……
「今村先生、救護テントで診てください」
徳間先生の指示が出ましたのでそのようにしましょう。
「あの、すみません! 救護テントへお願いします」
「はい!」
すると、待機中の救急隊の方が、その救助者をストレッチャーに乗せて救護テントへ移動しました。私と雫も、その後を追って救護テントへ行きました。その救助者は顔が真っ青で胸が苦しいと言ってましたけど、ひょっとして……
私は聴診器で心音を聞きますけど…… 心音が弱いです。脈を確認しますが脈も弱いです。
「先生、患者さんの首のところが……」
雫が患者さんの首のところにコブみたいなものがあるのを見て驚いています。これは頸静脈怒張です。どうやら間違いないようです。
「あの、下山される時に胸に強い衝撃を与えませんでしたか?」
「あっ、はい…… 滑って転んだ時に…… 岩に胸をぶつけました……」
「判りました。雫、心嚢穿刺を準備して!」
「えっ、あっ…… どれですか?」
そうか、雫は知らないよね、滅多に使わないから……
「これよ雫、覚えておいてね!」
私は患者さんの胸部を触診して針を刺す場所を探します。胸骨左縁から5センチ以上外側の第五肋間と第六肋間と第七肋間。
「雫、リドカイン注1%200mg」
私は麻酔をした後、消毒をして心嚢穿刺を刺しました。
「きゃっ!」
心膜に溜まった血液というか体液が『ピュッ』と飛び出し、雫が思わず声を上げてしまいました。もう…… 可愛い声出しちゃって…… でも、これで心臓の圧迫は減少したでしょう。しかし、出血して心膜に溜まっているはずなので急いで処置をしないと……
「少しは楽になりましたか?」
「はい……」
「すみません!」
私はまた救急隊に声を掛けます。
「搬送をお願いします。心タンポナーデです心膜内に出血があると思いますので病院で処置をお願いします」
「はい! 消防ヘリで搬送します。
「お願いします」
私はすぐに他の救助者のところへ行きましたが…… 既に徳間先生がすべて診て処置が終わっていました。
「今村先生、さっきの彼女は?」
「心タンポナーデでしたので、心囊液を抜いて処置済みです。消防のヘリですぐに搬送するそうです」
「しかし、心タンポナーデなら何処からか出血してるかも知れないな!」
「はい、救急隊には連絡しています! あの他の救助者は?」
「他の方はすべて軽傷でした」
この五人は、雨で下山が難しくなった為、雨が止むのを待って自力で下山して来たようです。
「他の人達とは一緒ではなかったんですね」
「うん、パーティによって下山ルートが違うみたいだね」
その時、自衛隊のヘリが戻って来ました。要救助者を乗せているようです。
「救護室へお願いします!」
新たに二名の救助者が……
「先生お願いします!」
私と徳間先生と手分けして治療をします。私の患者さんは足に深い傷があった為、消毒をして縫合する事にしました。
「雫、4-0ナイロン!」
「はい!」
徳間先生の方は患者さんの足が変な方向を向いています。間違いなく骨折してますね……
その後、夜も更けて仮設のライトがあるところは明るいですけど、辺りは真っ暗です。だだっ広い河原ですけど、もうヘリは飛べないですよね…… そんな中、救助者が次々と搬送されて来ます。地上のレスキュー隊が救助者を担架で搬送して来ました。救護テントは救助者でいっぱいです。ああ、疲れる……
「先生、こっちを早くお願いします」
救助者の方は我先にと思っているようです。
「すみませんが重症の方から治療していますのでお待ち下さい」
私がそう言ったときです。
「どうしました? 何処か痛いですか!」
えっ、玲華?
「あなたは大丈夫ですのでお待ち下さい!」
「あの……」
「飛鳥、その患者さんを優先して!」
「どうして玲華が?」
「こっちの患者さんは任せて!」
玲華が応援に来てくれましたけど、でも村の方は…… しかし、玲華が来てくれたおかげで思いのほか早く患者さんを治療して搬送出来そうです。
「今村、こっちは片付いた! そっちは?」
えっ…… あっ!
「はい、こっちもこの患者さんで終わりです」
「よし、これで終わりだな」
徳間先生がそう言った時、すべてが終わりました。
「先生方、お疲れ様でした! お陰様で死亡者を出さずに済みました」
その言葉を聞いた時、私もホッと安心しましたけど、重症者は少なかったですよね……
「前にも遭難者がいて、ここまで搬送されたんですけど…… あの時は間に合いませんでした…… でも、今回は上手くいきましたありがとうございました」
消防の隊長さんは笑顔でそう言います。
「いえ、本当に良かったです」
「よし、撤収!」
辺りはもう薄暗く夜明けです。一晩中ここにいたんですね…… 私と雫は玲華が乗って来た村立病院の車で戻る事にしました。
「飛鳥、疲れたでしょう! 眠ってて良いよ!」
「玲華、ありがとう! でも大丈夫だから。それより村の方は良いの?」
「うん、何かあったら華純さんから電話があるから」
「そうなんだ!」
「華純さん、飛鳥に悪い事したって言ってたよ」
「どういう事?」
「本当は、華純さんを現場に連れて行こうと思っていたんでしょう」
あっ、そうでしたね! でも、彼女は……
「うん、そうだけど……」
「華純さんは昔、上佐野平で何かあったみたい…… あそこへは行きたくないって言ってたから」
「何があったの?」
「私は知らないよ! 華純さんに訊いたら」
まあ、そうですけど…… なかなか訊けないですよね……
「ねえ、南川上町のコンビニによってよ!」
私は玲華にそう言いましたけど……
「良いけど、まだ開いてないかもよ!」
「えっ、コンビニだから二十四時間開いてるでしょう!」
「でも、西島さんの話では朝六時半かららしいよ!」
「えっと、そうなんだ……」
どうやらこの辺のコンビニは二十四時営業ではないようです。でも、コンビニだよね……
私達は二時間掛けて、ようやく清川村の診療所へ戻って来ました。
「飛鳥先生、お帰りなさい!」
「ただいま! ごめんね、ひとりにしてしまって……」
「いえ…… 私の方こそすみません!」
華純さんはやっぱり何かを引きずっているみたいです。
「華純さん、私達は時間まで仮眠をとるから」
「あっ、あの、飛鳥先生……」
「なに、どうしたの?」
「あの、私は上佐野平へは……」
「華純さん、誰にでも言いたくない事はあると思うから無理しないで!」
「でも、これ以上引きずるのはやめようと思って……」
華純さんはいつになく真剣ですね……
「解った! それじゃ診察室で訊くから」
彼女は私の前の椅子に座り、ゆっくりと話始めました。
「あの場所は私の彼が亡くなった場所なんです!」
えっ、彼氏さん…… そう言えば消防の隊長さんがそんな事を言っていたような……
「遭難されたんですか?」
「はい、彼は川本大学の山岳部で鷹の羽岩を経由して下山していたんですけど、足を滑らせて崖から落ちてしまったんです」
そんな事が……
「それで病院へ搬送されたんですか?」
「いえ…… 上佐野平までヘリで搬送されたんですけど、救護テントの中では治療が出来ず…… 亡くなりました。しかも、死者をヘリで搬送する事は出来ないという事で救急車で川本市の病院まで連れて来たんです……」
そうですか…… そんな事が……
「華純さん、辛かったね……」
華純さんは瞳に涙をいっぱい浮かべて……
「飛鳥先生に話を聞いてもらって吹っ切れそうです」
うん、良かった……
「華純さん、話してくれてありがとう」
彼女は『コクッ』と頷き涙ながらに笑顔を浮かべていました。
救助活動を終えて診療所へ戻って来たあと、華純さんの過去を知りました。普段は優しく仕事熱心ですけど、辛い事があったんですね……




