23 淋しくなります……
お待たせしました第23話を更新しました!
いよいよ耕三さんは厳しいようです……
主治医の先生からご家族を呼ぶように言われました。耕三さんはもう、延命治療になっているのかも知れません。
「あなたが、今村先生ですか?」
耕三さんの主治医の先生にそう訊かれましたけど、この先生は初対面ですよね……
「はい、そうですけど……」
「そうですか、五条さんや長谷川先生から話は訊いています。私は循環器内科の谷口です」
「あの、耕三さんは……」
「心筋梗塞による心不全です。もう少し早ければバイパス術という方法もありましたけど……」
「カテーテルによるバルーン療法は無理だったんでしょうか……」
「はい、バルーン療法もバイパス手術も手遅れでした。あとは家族の方が来るまで延命治療をしています。今はまだ辛うじて意識もありますけど、それも徐々に意識も薄れて来ると思います」
「あの、それじゃ明日の朝までは……」
「うーん、明日の朝まで持つかな…… 今村先生は今晩はこちらにいるんですか?」
「えっと、一応ホテルを予約してますのでチェックインだけはしておこうとは思いますけど」
「そうですか…… しかし、五条さんの事なら私達が付いていますので、村に戻られてもよろしいのでは?」
まあ、確かにそうですけど…… 最期に私と逢って孫の奏音ちゃんの事をお願いした耕三さんを私は最期まで見届けたいと思います。
「ええ、でも折角ですので明日の朝まではこっちにいます。お邪魔はしませんので」
「いえ、邪魔だなんて、先生もお忙しいと思ったものですから…… 失礼します」
何だか谷口先生は私の事を煙たがっているのかな……
夕方六時くらいに奏音ちゃんとお父さんが到着しました。
「飛鳥先生、親父はどうなんですか?」
いや、私は主治医ではないですから……
「あの、それは谷口先生に訊いてください」
奏音ちゃんのお父さんは、谷口先生のところへ行き、奏音ちゃんはお爺ちゃんのそばへ行きました。
「お爺ちゃん……」
耕三さんはまだ少し意識があったようです。奏音ちゃんの声に反応しています。
「飛鳥先生は、どうしてここにいるんですか」
「お爺ちゃんが奏音ちゃんの事をよろしくお願いしますって、直接私に言いたかったみたいなの」
「お爺ちゃんが……」
「うん」
「お爺ちゃん……」
奏音ちゃんはそう言って耕三さんの手を両手でそっと握っています。
「飛鳥先生、今のうちにホテルのチェックインへ行ってください。何かありましたら連絡しますので」
奏音ちゃんのお母さんにそう言ってもらったので私は、医療センターからホテルへ行く事にしました。
「それじゃ、ちょっと行ってきます」
「はい、ゆっくりしてください」
まあ、そう言われましたけど、落ち着きませんよね……
「今村先生!」
私が病院から出る時そう声が聞こえましたので、声のする方を見ていたら……
「あっ、やっぱり今村先生だった」
「長谷川先生」
「いや、こっちに来てるって聞いたので」
それって谷口先生からなのかな……
「先生、すみません一度ホテルへ行って、また戻って来ますので……」
「えっ、仕事ですか?」
うーん、これって仕事? 半分仕事?
「はい、そのような感じです……」
「そうですか…… 良ければ一緒に食事でもと思ったんですけど」
「えっと…… すみません。この間、お願いした奏音ちゃんのお爺ちゃんが、ちょっと危ないので…… 失礼します」
「奏音ちゃん?」
長谷川先生はそう言ってるようでしたけど、私は急いで予約しているホテルへ行きました。何だか最近、私は川本市によく来ていますよね……
ホテルのチェックインを済ませて病院へ戻って来た時でした。
「飛鳥先生!」
奏音ちゃんに声を掛けられました。どうやらみなさんで食事をされてるみたいです。
「耕三さんはどうですか?」
「ええ、もう眠っています」
という事は、もう意識が無いという事ですよね……
「飛鳥先生、お爺ちゃんは死んじゃうの?」
奏音ちゃんにそう訊かれました。こうして改めて訊かれるとなかなか返答し辛いですよね……
「そうね…… でもお爺ちゃんは、いつでも奏音ちゃんの事を見守っているんじゃないかな」
私がそう言った時、奏音ちゃんはポロポロと涙を流しています。お爺ちゃんっ子の奏音ちゃんにすれば辛いですよね…… まだ、中学生だし…… 大人の私だってお爺ちゃんが倒れたって聞いた時は慌てたし…… 私が行くまでは生きていて欲しいって思いましたからね! まあ、たいした事無くて良かったですけど……
「飛鳥先生、夕食は?」
「はい、コンビニでおにぎりを買って食べました」
私がそう答えると……
「先生、そんなに急がなくても良かったとに……」
でも、焦りますよね……
「でも、病院にいればすぐに対応出来ますので」
「まあ、私達は何も出来ませんけどね」
まあ、どうにもなりませんよね……
今は深夜零時を回った頃です。
「飛鳥先生、お爺ちゃんの様子が可笑しいんですけど」
奏音ちゃんがそう言います。
「どんな感じなの?」
「首が何となく横になっているようなんですけど……」
私が病室へ入り様子を見ますけど…… ちょっと様子が可笑しいです。私はすぐに看護師さんに先生を呼んでもらうようにお願いしました。
「先生、お爺ちゃんは……」
谷口先生が来る前にちょっとだけ聴診器で心音を確認しましたけど、もう、風前の灯ですね。その時、谷口先生が来ました。
「モニター確認して!」
谷口先生も聴診器で心音の確認をしています。さっき私が心音を聞いた時は微弱でしたけど……
『ピー……』
モニターのアラームが鳴り響いています。谷口先生はペンライトで瞳孔を確認しています。
「残念ですが…… 御臨終です…… 零時四十六分です」
奏音ちゃんはベッドの脇で静かに泣き出しました。お母さんも瞳に涙を浮かべて、お父さんは涙を堪えています。私は…… 一礼した後、そっと病室を出て、そのままホテルへ戻りました……
翌日早朝、耕三さんは清川村に戻って来ました。村の公民館で通夜と葬儀があるようです。公民館の厨房では婦人会の方々が炊き出しをして、男性方は耕三さんの通夜と葬儀の手伝いをしています。公民館の横には奏音ちゃんと晴翔君の姿があります。晴翔君が心配して来てくれたようです。まあ、話をしてるのは凛ちゃんだと思います。絶対に湊君では無いでしょう。彼はそんな性格では無いので……
「晴翔君、来てたんだ」
「あっ、はい…… 凛が行くって言うから」
「あっ、私はちょっと心配だからって言っただけだよ」
「違うよ、凛が行きたいって……」
なんだか晴翔君と凛ちゃんが言い争っているのは珍しいかな……
「晴翔君、凛ちゃんありがとう。もう大丈夫だから」
奏音ちゃんはこれで大人の階段をまた一歩登ったのかな……
「晴翔君はお薬はまだ大丈夫?」
「はい」
「奏音ちゃんは来週、注射に来てね」
「はい」
そう話した後、私もちょっとだけ婦人会の方へ手伝いに行きました。この日の夜、通夜があり、翌日はお昼前に葬儀があり、沢山の村の人達がお別れに来ていました。
そして耕三さんは、沢山の村の人達に見送られ、通夜と葬儀は無事終了しました。
それから季節は流れ、梅の花咲く早春です。今月、慶子先輩は三年の期限が終わり北山総合病院へ戻る事になりました。
「飛鳥先生、慶子先生が東京に帰るって本当ね!」
この人は以前、慶子先輩に治療を受けていた森下さんです。確か街の専門医で治療をしていたと思いますけど……
「はい、慶子先生も私も三年契約で来ていますので……」
森下さんは淋しそうな表情をしています。
「あっ、でも東京じゃないですよ!」
「えっ、違うと!」
「はい、城南市の北山総合病院です」
「あっ、そうなんですね…… でも、僕の病気は……」
「今は星川医院で診てもらってますよね」
「はい、でも……」
「なにか心配事でもあるなら私も専門は精神科なので」
「あっ、はい」
そう言って森下さんは帰って行きました。森下さんは先輩の事、好きだったのかな…… 先輩の言う通り、星川医院で治療して、今は警備会社で仕事をしてますからね、でも淋しいんでしょうね。
「飛鳥、患者さんの事ノートに書いてるからね」
「先輩、カルテがあるじゃないですか」
「まあ、そうだけど……」
「さっき、森下さんが来ましたよ」
「えっ、何で?」
「先輩がいなくなるのが淋しいみたいです」
「あの人も、早く良い人見つければ良いのにね、私みたいな人妻じゃなくて……」
いや、そういうことじゃ……
その日、村の人達が先輩の送別会をしてくれました。
「慶子先生、はよこっちに来て、酒もあっけんね!」
「飛鳥も早く!」
えっ、玲華はもう食べてるの! まさかお酒は飲んでないよね……
「ほら、慶子先生はいける口やろう」
「でも、私は勤務中だから」
「慶子先輩、私と玲華がいますから……」
「うん、それじゃ一杯だけね」
その時……
「慶子先生、お疲れ様でした」
あっ、麻子さん……
「慶子先生、またうちの温泉に来てくださいね」
「はい、ありがとうございます」
「それとお嬢さん、如月先生の気持ちを解ってあげてくださいね……」
「あの、母は何か言ってましたか」
「ええ、もう好きにさせるって……」
「そうですか、ありがとうございます」
そうして私達は、村の人達からご馳走して頂きました。私が帰る時もやって貰えるのかな…… 何も無かったらちょっと淋しいですけど……
そんな事を思いながら、送別会は夜遅くまでありました。
そして数日後、慶子先輩は私達に見送られながら清川村から北山町へ行ってしまいました。
耕三さんも亡くなり、慶子先輩も北山総合病院へ戻りました。何だか淋しくなりましたけど…… 頑張らないとですね! でも、応援の先生も欲しいところです。




