2 村立病院と出羽診療所
お待たせしました第2話を更新しました!
村立病院の徳間先生へ今から挨拶に行きますけど……
やっと診療所に着いた私と雫は城戸先輩にお昼をご馳走になった後、村立病院へ行く事にしました。
「先輩、ご馳走様でした」
「よし、それじゃ徳間先生のところに行くよ!」
「えっ、先輩も行くんですか?」
「行くよ、どうせシフトの話になるはずだから」
まあ、そうですね、この村に医師は私を含めて三人だけですから……
「それじゃ華純ちゃん、お留守番よろしく!」
「はい、いってらっしゃい」
先輩と華純さんは良い関係性が出来てますね。これが私と雫だと…… 雫、出掛けて来るからなんて言ったら、先生何処に行くんですか? 私も一緒に、なんてなりそうな…… 私は雫の顔を見て溜息です。
「飛鳥先生、どうかしたんですか?」
うっ、雫になにか勘付かれたかな……
「ううん、なんでもないよ」
うーん、そうならないことを願うしかないですね。
私達三人は、とっぽちゃんに乗って村立病院へ来ました。
「徳間先生、今村先生を連れて来ましたよ」
えっと、それってどういう事なんだろう。
「あっ、今村先生お待ちしてました。村立病院の徳間勲です」
「あっ、初めまして、今村飛鳥です」
「えっと、そちらの女性は?」
「あの…… は、初めまして…… い、今村雫です」
まさかの人見知りとは…… 雫はこの村に馴染むのも大変みたいです。
「彼女は私の妻で看護師です」
「ああ、そうなんだ、看護師も増やしたいと思っていたんですよ」
徳間先生は看護師というのは聞こえたみたいですけど、妻というワードはスルーしたみたいです。
「それじゃ、城戸先生、今村先生と私の三人で当直を交代でやります」
「徳間先生、当直は良いけど…… 私、もう城戸じゃなくて桐生だから!」
あっ、そう言えばそうでした。私はここに来て、まだ先輩としか言ってませんよね!
「あっ、すみません…… そうでしたね。つい、呼んじゃうんですよね」
「今後は、名字じゃなくて名前で呼んでくれても良いですよ!」
先輩は悪戯っぽく微笑んでいますけど……
「名前ですか……」
なんだか、徳間先生は名前だと抵抗があるようですね!
「あの、話は変わるんですけど、薬品の補充とかは徳間先生がされるんですか?」
この事を訊いておかないといけません。
「どうしたんですか急に、まあ僕が村立病院と診療所の分は補充をしてますけど、それがなにか?」
「あの、実はエストラジオール吉草酸エステルをお願いしたいんですけど……」
「エストロゲン受容体作動薬ですよね…… どうするんですか?」
徳間先生にもお話しておかないといけないですね。
「実は私が必要としています。私は性同一性障害なので……」
「えーっ! そうなの?」
「はい、それで月に二回接種していますので……」
「あっ…… 解りました。でも、誰が注射するんですか?」
いや、それは、医師が三人看護師だっていますからね……
「注射くらいは私がやってあげても良いわよ」
そう言ってくれたのは城戸…… じゃ無かった慶子先輩です。
「はい、有難うございます」
「私だって出来ますよ!」
雫もそう言いますのでその辺は問題ないでしょう! いざという時は自分で打ちますから。
「それじゃ、今村先生は実際は男性という事でしょうか」
まあ、そうですけど……
「はい、戸籍上はそうなります。見た目では説明が必要になりますね」
淡いピンクのブラウスにグリーンのロングスカート姿じゃ想像は出来ないでしょうけど……
「そうですか…… あれ、そちらの看護師さんも今村さんですよね」
やっぱり徳間先生は人の話を聞いていないようです。
「徳間先生、さっき飛鳥は妻で看護師のって紹介したじゃないですか」
「あれ、そうだっけ……」
徳間先生はちょっと忘れっぽいのか、それとも本当に人の話を聞いてないのか、これはきちっと確認しておかないと……
「それでシフトなんですけど、今村先生は週に二度ほど村立病院の勤務をお願いしたいんですけど」
「はい、それは良いですけど」
「その時は私も一緒に良いですか?」
すかさず雫が訊いています。こういう時は人見知りせずに話せるんだよね……
「いや、看護師さんは村立病院にもいますので、あなたは診療所で勤務してください」
それを聞いた雫は何だかいじけているようです。でも、仕事だからね!
そういう事で私は火曜日と木曜日に村立病院へ行きます。慶子先輩は月曜日と水曜日みたいです。それって、徳間先生は金曜日と土曜日だけが仕事なの? 私が不審そうな顔をしてると……
「飛鳥、どうかした?」
慶子先輩は気になったみたいです。
「あっ、いえ」
「それじゃ徳間先生、私達は診療所へ戻りますので何かあったらメールか電話をお願いします」
そういう事で私達は診療所へ戻ります。その車の中で……
「徳間先生って勤務は週末だけなんですか?」
雫がそう言います。私もちょっと気になったところですけど……
「あっ、徳間先生は通常地域医療で村中を回っているから」
「えっ、村中をですか……」
「うん、私が来るかなり前の話だけど、最初の頃は村立病院しかなかったんだって! でも、病院から離れた人達は来るだけでも大変だからという事で診療所を作ったそうよ」
温泉街より山の方を診療所が診て、温泉街より里の方を村立病院が担当するという事らしいです。しかし、車の運転が難しい高齢者もいますので、そういう人達を週に一回訪問しているようです。ここも地域医療最前線です。
「慶子先輩は食材の買い出しとかどうするんですか」
地域医療の話をしていて買い物の事を思い出しました。
「この辺は週に三回移動販売車が来るから」
なるほど、その時に買い出ししないといけないですね。しかし、移動販売車ですか…… 軽トラくらいの小さい車ですよね。
「スーパーとかは無いですよね」
「無いよ、スーパーは川本市の下界まで行かないと、コンビニだって剣岳インターのそばまで行かないと無いから」
「そうですか…… コンビニに行くのに片道一時間くらい掛かるんですね」
やっぱり、とんでもないところに来てしまったかな、ここは、北山町よりも田舎です。温泉旅行に来た時は、とても良いところに思えたんですけどね……
「飛鳥、今日は取り敢えず荷物を片づけなさい。それと四時半くらいに移動販売車が来るから買い物しとかないと駄目だよ」
「うん、有難う先輩」
うーん、雫じゃないけど、私三年も勤務出来るかな……
片付けも終わったのでコーヒーでも淹れようかな、そう思った時でした。
「先生、終わりました?」
雫がリビングに来ましたけど……
「私は終わったよ! 雫は?」
そう言って雫の部屋を見てみると……
「まだ、片付いて無いじゃない」
「ううう…… だって」
「はあ、仕方ないなあ、手伝ってあげるから」
「はい!」
さっきまで微妙な顔をしていたのに、今はとびっきりの笑顔です。まったくもう…… ようやく私も雫も片付けが終わり、コーヒーを飲んでいた時です。どこからともなくクラッシック音楽が…… この曲はビバルディの四季です。なんだろう?
「先生、外が騒がしいですね」
さっきまでの静けさが嘘のようです。
「飛鳥先生、お買い物は良いですか?」
えっと、この声は華純さん、えっ!
「飛鳥先生、外にバスが来てますけど……」
私が外に出てみると、普通の路線バスよりもちょっと小さめのバスが、しかもビバルディの曲はそのバスから流れています。
「飛鳥、今日はお魚が安かったよ!」
えっ、慶子先輩! 買い物してたの? 診療所の方は…… 村の人もみんな買い物してるみたいです。移動販売車ってバスが来るんですね、私と雫もバスの中へ入ると、このバスの中は通路を挟んで両側にお肉や魚、お野菜などが並んでいます。うーん先輩の言う通り鯖や鯵の青魚がお買得のようです。
「あっ、玉葱に胡瓜に茄子も安い」
うん、これは買いです。
「先生、お肉は買いませんか?」
「うーん、今日は魚を買ったからお肉は今度にしようか」
私と雫がそう話をしていると……
「あれ、君達はあまり見掛けないけど、姉妹で買い物ですか!」
お店の方からそう訊かれました。
「いえ、夫婦ですよ!」
雫、見ず知らずの人にそんな事を言ってはいけません。そう言いたかったけどちょっと遅かったようで、お店の方も不思議そうに見ていました。
「取り敢えずこれで良いかな」
私がバスから出て来ると……
「飛鳥は何を買ったの?」
慶子先輩から訊かれてしまいました。
「お魚とお野菜を買いましたよ!」
「やっぱり魚だったか」
「先輩は何を買ったんですか?」
「私も鯵を買ったよ。鯵フライとか良いかなって!」
何だかスーパーの外で話している主婦の会話ですね。しかし、移動販売車がビバルディのクラッシック音楽を鳴らしながらくるとは……
「あら慶子先生、お野菜はあったかしら」
えっと、あの女性は……
「あっ、女将さん、ありましたよ!」
先輩がそう言った時でした。
「あら、あなたは!」
あっ、えびす屋の女将さんです。
「ご無沙汰しています女将さん」
「あーっ! やっぱり飛鳥さんだ。今回は何処に泊まっているの?」
あっ、遊びに来てる訳じゃないんだけど……
「あの、今日から診療所の医師として来ています」
「あら、飛鳥さんが診療所に来てくれたのね! 嬉しいわ」
「あっ、はい……」
「良かったら今日も温泉に来ない? 歓迎するわよ! もちろん二十三時以降にだけどね」
女将さんに誘われたら行かない訳にはいけませんね!
「はい、伺います」
私がそう返事をした時でした。
「先生、何処に行くんですか?」
雫もちょっと気になってるかな……
「雫も行く?」
「だから、何処に行くんですか?」
「ふふふ、温泉だよ!」
「温泉ですか! 行きます」
雫は二つ返事で了承しました。折角温泉地に来てますからね!
「それじゃ、お待ちしていますね」
そう言って女将さんは移動販売のバスの中へ入って行きました。はあ、久々の洞窟温泉の大浴場です。何だか楽しみです。
診療時間も終わり、先輩の家で一緒に夕食を食べる事になりました。
「華純さんは何処に住んでいるんですか?」
「私ですか!」
調理をしながら華純さんは私と話をします。
「私は白水郷岳のアパートですよ」
「白水郷?」
「飛鳥はこの辺の住所は知らないよね」
「あっ、はい」
「この辺は南剣郡清川村と言って三河郷、白水郷、鳥巣郷の三つの郷に分かれているの」
慶子先輩からそう教えてもらいました。
「この辺は?」
「診療所は白水郷出羽地区、温泉街は白水郷出水地区って言うの」
「村立病院は白水郷なんですか?」
「ううん、村立病院は三河郷森地区、ちなみに役場は鳥巣郷荻野地区ね」
先輩から色々と教えてもらったけどいっぺんには覚えられません。でも、何だか長閑な地名です。白水郷ですか…… 白水二丁目とかじゃ駄目だったのかな。
その後、一緒に夕食の鯵フライを頂きました。
「これ、美味しいですね!」
「うん、鯵も新鮮で綺麗だったからお刺身でも良いくらいでしたからね」
そう言いながら華純さんはビールを一口飲みます。
「あーっ、仕事終わりの一杯がたまらない」
華純は結構いける口ですね。
「飛鳥先生も飲みませんか?」
私も誘われましたけど……
「華純、飛鳥は無理だよ!」
「えっ、どうしてですか?」
「飛鳥も、雫も下戸だからね!」
先輩もそう言いながらビールを一口飲んでます。
「先輩、診療所の宿直はいいんですか?」
「大丈夫よ、飛鳥がいるから」
あっ、そういう事ですね……
「先輩も、温泉一緒に行きません?」
「うん、女将さんからのお誘いだからね行こうかな。華純も行くでしょう」
「うーん、どうしょうかな……」
まあ、二十三時からですもんね……
「どっちにしてもお酒が入っているから帰っちゃ駄目よ!」
「そりゃ、そうですよ。解ってますよ」
「駐在さんに捕まるからね」
えっと、駐在さんですか…… そういう事でみんな一緒に温泉に入った後に、帰る事になりました。
話を聞いていくと段々と不安になります。でも、温泉は良いんですよね!
これから診療所勤務が始まります。