19 玲華の秘密
お待たせしました第19話を更新しました!
今回は、何故玲華が清川村に来たのかが解ります。
晴翔君の治療も終わり、異様な表情をしていた玲華に感想を訊こうと思っていたその時でした。
「飛鳥先生、拓哉君が来てますけど……」
華純さんの一言で、えっ! となったんですけど…… 拓哉君? 今日の朝、一緒に学校でみんなと話をして問題は解消したはずですよね……
「拓哉君って飛鳥と同じGIDの男の子なんでしょう」
まだ表情が硬い玲華からそう訊かれました。
「うん、今朝中学校でみんなと一緒に話をして来たんだけどね」
「何だか、精神系の患者さんが多いのね、さっきの朝田さんとか晴翔君とか、ねぇ……」
玲華にそう言われてしまいました。これもえびす屋の女将さんが村のみなさんに私の事を話してくださったからなんですよね…… 決して私が言いふらした訳ではないですからね!
「あの、飛鳥先生、診察室に通しても良いですか?」
あっ、そうでした。
「華純さん、私が待合室へ行きますので待ってもらって下さい」
そう言って私は、待合室の方へ行きます。
「拓哉君、どうしたの? 何かあった?」
待合室の椅子に座っている拓哉君に訊きます。でも拓哉君は顔を顰めて……
「飛鳥先生、私はもう奏音ですよ! 他の看護師さんにも伝えてくださいね」
あっ、そうでした。カルテの名前にも通称名を括弧書きしておかないとですね。
「それで、奏音ちゃんはどうしたの?」
「先生、成長を一時的に止める薬があるんですよね……」
えっと、そんなのありましたっけ……
「それは誰から訊いたの?」
「えっ、飛鳥先生が言ったじゃないですか! 思春期がどうのこうのって……」
奏音ちゃんは眉を顰めてそう言いますけど……
「思春期? あっ、二次性徴抑制治療の事ですね」
「注射をするんですよね」
あっ、そうでした。でも、まだ承諾書に署名をもらってないですよね。
「奏音ちゃん、治療はご両親の承諾が必要になるんだけど…… ちょっと待ってね」
私は一度診察室へ戻り、机の中から承諾書を取り出しました。
「飛鳥、どうしたの? 承諾書なんて」
「うん、奏音ちゃんの二次性徴抑制治療をするからご両親に署名をもらわないと……」
「奏音ちゃん? 拓哉君じゃなくて……」
あっ、いや、うーん……
「玲華、あとで説明するから」
私はそう言って待合室へ戻りました。
「君が拓哉君なんだ!」
「はい、でも今は奏音です」
えっと、話し掛けているのは晴翔君? それとも凛ちゃん、まさか湊君じゃないよね……
「奏音ちゃんお待たせ! この承諾書にお父さんかお母さんの署名をもらって来て、そしたら治療を始められるから」
「はい、解りました! でも、本人が良ければそれで良いんじゃないんですか?」
うーん、昔、似たような事を誰かが言ってましたね……
「そうなんだけど、奏音ちゃんはまだ、未成年だからご両親の許可が必要なの」
「まあ、言ってる事は解りますけどね……」
怪訝そうに奏音ちゃんは言いますけど、まあ納得してもらったようなので良いでしょう。
「あっ、先生これ!」
今度は奏音ちゃんの隣に座っている晴翔君が私にノートを差し出しました。
「あっ、行動日誌! いつも忘れるんですよね」
「僕も持って来るのを忘れるから」
お互いに忘れているんだから仕方ないですね……
「それじゃ見せてもらうね!」
私はそう言って待合室で行動日誌に目を通します。すると、晴翔君は相変わらず旅館の仕事の時に出て来てるようです。それでも、浴室の掃除や客室の掃除など詳しく書かれています。以前とは大違いです。湊君は夜から男ですね! 変な男に声を掛けられて脅したというのはちょっと気になりますけど…… 凛ちゃんはお客様の接客の時に表に出てるみたい。それと休みの日とかは…… 編み物とかやってるの? 女子力高いですね。それで樹君は…… 何も書かれていないです。あまり表に出て無いですね……
「ねえ晴翔君、樹君はあまり表には出て来ないの?」
私がそう訊くと、晴翔君は奏音ちゃんとのおしゃべりに夢中なようです。
「ねえ、晴翔君!」
もう一度、そう言うと……
「えっと、私は凛ですけど……」
だって! どうりでおしゃべりなはずですね!
午後からの診察時間も終わり夕方です。丁度ビバルディの四季が流れて来ました。
「飛鳥、クラッシック音楽が流れてるけど、これ何! 祭りか何かあるの?」
祭りにクラッシックはどうかと思いますけど……
「これは、移動販売のバスが来ているの、玲華も食材とか買っといた方が良いよ」
「うん…… 私はあんまり自炊しないからな」
やっぱり…… 少しは出来るようになったんじゃないかと思っていたけど、相変わらずだったようです。
「でも、何か買っとかないと知らないよ」
私がそう言った時も……
「飛鳥、その時はまた夕飯よろしく!」
もう、なんてこった……
「玲華、駄目よ! いつまでも頼られてもこの村じゃ困るから」
丁度、慶子先輩が村立病院から帰って来ました。
「えーっ、良いじゃないですか……」
本当、玲華は何も作れないからな…… その時、黒いクーペ系の車が入って来ました。
「おーい、玲華」
えっ、誰ですか? どう見ても女性ではなく男性のようですけど……
「なんだ、みんなで出迎えてくれたの?」
えっと、私達の事を知ってるような……
「真司、どうしたの?」
玲華がそう声を掛けます。えっ、ひょっとして甲斐先輩……
「どうしたって、大学に来たかと思ったらすぐに清川へ行ったって植田先生に聞いたから」
えっ、大学?
「先輩……」
「やあ今村、久しぶりだな」
「先輩、玲華は北山大学にいるんですか?」
「えっ、知らなかったの? それじゃ僕達の事も知らないんだよね!」
えっと、僕達の事って……
「あっ、移動販売が来てるから真司、なにか買い物しようよ!」
そう言って玲華は甲斐先輩と一緒に慌ててバスの中へ……
「どうやら玲華の婚約者は甲斐講師のようね」
玲華の態度を見て慶子先輩が一言言いました。
「えっ、婚約?」
「飛鳥、何も聞いてないの?」
「はい……」
「そうか、玲華は色々あって城南医療センターから北山大学に赴任してるみたいね、そこで婚約したって訊いてたけど、まさか甲斐講師とはね……」
「でも、甲斐先輩なら納得出来ますよ」
「どうしてよ!」
「だって、甲斐先輩は高校の時の先輩で、玲華はずっと付き合ってましたから」
だから、私は大学を卒業したら一番に結婚すると思ってましたけどね……
「ふーん、玲華がね……」
「先輩、玲華は何故、医療センターを辞めたんですか?」
「さあね……」
先輩はそう言いますけど…… まあ、色々とあるんでしょうけど、私もお買い物をしておきましょう。私がそう思いバスに乗り掛けた時でした。
「飛鳥先生、お久しぶりね!」
そう言われ、私が振り向くと……
「如月先生!」
どうしてここに……
「元気そうで何よりだわ」
「あの、先生はどうされたんですか?」
「うちの馬鹿娘が来てるでしょう」
うーん、たぶん玲華の事ですよね……
「あっ、今お買物中です。私も今から……」
やっぱり如月先生の圧力は凄いです。悪い事をしてる訳じゃないけど、何だか緊張します。
「飛鳥先生、診療所で待たせてもらいますよ!」
「はい……」
これは大変です。玲華に知らせないと、私は買い物中の玲華を見つけて……
「玲華、如月先生が来てるよ!」
甲斐先輩と玲華にそう言いました。
「お母様が!」
「良いじゃないか玲華、良い機会だから僕が話すよ」
えっと、これって、婚約したけど如月先生に認めてもらってないとか……
「飛鳥は今からお買物なんだよね」
「うん、まあそんなに時間は掛からないけど……」
「お母様は今何処に?」
「今、診療所にいますけど……」
「ありがとう」
そう言って甲斐先輩と玲華はバスを降りて行ってしまいました。
「飛鳥先生!」
「あっ雫、来てたのね!」
「はい、私が買い出ししてますから大丈夫ですよ!」
まあ、雫がやってくれてるなら任せましょう。
「雫、それじゃ買い物よろしくね」
私は、そう言って取り敢えず急いで玲華と如月先生がいる診療所へ行きましたけど……
「玲華、あなたは何をやっているの?」
「お母さん、玲華さんの話も聞いて下さい」
「あなたにお母さんなんて呼ばれる義理はありません」
「お母様、私達は入籍したの!」
えっ、入籍! 婚約じゃなかったの?
「勝手にそんな事をして、私は認めませんからね!」
「お母様、私はもう二十九なの! 親の承諾はいらないの!」
「知りません! 私はあなたを如月総合病院の理事長にと思っていたのに」
「兄さんがいるでしょう!」
「光一は院長なの! あなた達二人で病院経営をして欲しかったのに……」
何だかいつもの如月先生とは違う人みたいです。
「義姉さんがいるでしょう! 私よりずっと、しっかりしてるから……」
「そうだけど…… 私、あなたに……」
「もう、良いでしょう…… お母様の言う通り医師にはなったんだから」
私は待合室の入口で呆然としていましたけど……
「飛鳥先生、お見苦しいとこをごめんなさいね」
如月先生はそう言って診療所の外へ出ようとしました。
「如月先生、玲華をもう、自由にしてあげてください!」
「飛鳥……」
「飛鳥先生…… そうね、そうかも知れないわね」
そう言い残して、如月先生は診療所を出て行きました。
如月先生と玲華、それに甲斐先輩まで…… まだ、二人の結婚は認められていなかったようですね……