18 君の名は?
お待たせしました第18話を更新しました!
なんと、同級生が拓哉君の通称名をつけてくれる!? 人の気持ちが解る同級生たちですね!
拓哉君の通称名をホームルーム中に決める事になるとは……
でも、男子生徒はちょっと戸惑っています。
「拓哉の名前を決めるってどうすんだよ!」
それは私もそう思います。どうやってつけるのかな?
「男子は考えすぎなんだよ! いくつかの候補を挙げてあげれば良いでしょう」
えっと、それって私も考えすぎの男子なのでしょうか…… ちょっとショックです!
「そうそう、それにこれって、拓哉君にとっても私達にとっても良い思い出になると思うの」
なるほど、確かにそうかも知れませんけど、そんなに上手くいくのかな…… でも、生徒達はなんとなく話がまとまって来てるようです。
「今村先生、これって良いんでしょうか」
流石に柏木先生も不安そうですけど……
「まあ、私は悪い事では無いと思います。たぶん……」
まあ、そう答えておきましょう。
「ねえ、拓哉君はどう思う!」
私がそう訊くと……
「うん、ちゃんとした名前なら……」
「もちろんちゃんとした名前を考えるよ!」
同級生の女子はそう言いますけど……
「うん、そういう事なら……」
そういう事で急遽、拓哉君の通称名を考える事になりました。
「それじゃ、一人ひとつ以上の候補名を紙に書いて前に持って来て!」
なんだかこれって、学級委員長でも決める勢いですね!
「はあ、まさかこんなに大掛かりになるとは思いませんでしたよ!」
柏木先生も予想外の展開みたいだったようですけど、私だって今回のような事になるとは思いもよりませんでしたから……
「柏木先生は、みんなが認めてくれると思っていたんですか?」
「ええ、私の生徒達ですから! でも、ここまでやってくれるとは……」
それじゃ、私は必要なかったんじゃないのかな……
「でも、良かったです。みんなが認めてくれて、教頭先生とはえらい違いですね!」
「ええ、先生なんて偉くなると生徒達の事を考えられなくなるんですよね批判とか責任とかが怖くて」
私と柏木先生が話をしてる中、拓哉君の通称名がある程度決まったようです。
「えっと、一番多かったのが『奏』と『奏音』です」
二つの候補が一番多かったようです。
「それで、あとはどうやって決めるんだよ」
さあ、ここからどうするんでしょうか?
「あとは、何もしないよ!」
「えっ!」
えっと、どうなっているんでしょうか?
「でも、名前はいくつもいらないだろう!」
「だから最初にも言ったけど、私達は候補を出すだけ! あとは拓哉君が決めるのよ!」
素敵! 凄い発想ですね、こんな短時間でここまで決める事が出来るなんて!
「ねえ、何故『奏』と『奏音』なの?」
柏木先生がそう訊きます。
「先生それは、拓哉君がピアノを弾くのが上手だからそこからみんな連想したんだと思います」
確かにピアノを弾くのも好きみたいだし、とても上手で聴いていたら心が洗われそうですもんね!
「それじゃ、あとは拓哉君が決めてね! あと決まったらちゃんと教えてよ! もちろん私達が選んだこの二つ以外でも問題ないから」
クラスの女子がそう言うと……
「ううん、もう決めたよ!」
えっ、もう決めたの?
「私は『奏音』という名前が気に入りました。だからみんなから付けてもらったこの名前で生きて行きます」
「やった! それじゃ今日から五条奏音さんだね!」
「うん、よろしく」
えっ、そんなに簡単に決めて良いの? ご両親と話さなくて良いのかな…… でも……
「拓哉君、良かったね! みんなに認めてもらって」
私がそう言うと……
「今村先生、違いますよ! 私の名前は五条奏音です」
だって! もうなりきってますね。それじゃ、もうこれで決定で良いよね、彼のお父さんはどっちにしてもいろいろ言いそうだから……
これで、問題は解決です。今後は、柏木先生と今泉先生がなんとかしてくれるでしょう。それに何かあれば拓哉君、じゃ無かった奏音ちゃんが診療所に来た時に話してくれるでしょうからね! そういう事で私は清川村の出羽診療所へ戻ります。玲華が待っているでしょうから。
私は一時過ぎに診療所へ戻って来ました。
「玲華ただいま!」
「飛鳥おかえり……」
玲華は、私の家のリビングで横になっていました。
「玲華、具合でも悪いの?」
私が訊くと……
「うん…… 具合が悪いんじゃなくて、ちょっと疲れただけだよ」
だそうですけど…… 何かあったのかな。私は買って来たお弁当を食べるためダイニングに来ました。
「あっ先生、おかえりなさい!」
雫もいましたね!
「先生、お味噌汁ありますよインスタントですけど……」
「うん、ありがとう! ところで玲華はどうしたの?」
私が訊くと……
「えっと、なんだかいつもの診察と違ったみたいで苦労されてたんですけど、浜田さんも来院されたので……」
「えっ、浜田さん!」
「はい、診察室へ入ってすぐに『慶子先生おはようございます』って!」
はあ、浜田さんは誰でも慶子先生に見えるようです。
「それで診察は?」
「華純さんがいつものように計算の担当をしたあと、玲華先生が認知症薬を処方しようと……」
「えっ、お薬を出したの?」
「いえ、飛鳥先生から聞いてた通り音楽療法をしてもらいましたのでお薬は出していません」
「うん、良かった……」
浜田さんのお薬の処方はリハビリや音楽療法を試して、もう少し様子を見ようと慶子先輩とも話してましたからね。
「飛鳥、お昼からは一緒にやってくれるんだよね……」
玲華がダイニングに来てそう言いました。彼女が仕事で音を上げるとは、よっぽど大変だったようですね!
「玲華、お昼からは私が診察するから休んでて良いよ」
私が赴任してから精神的な治療の患者さんが増えたから彼女には大変だったようです。玲華は一か月耐える事が出来るかな……
「大丈夫よ! 一人じゃないんだし……」
「でも、疲れているんでしょう!」
「まあ、慣れない事をしたからね」
「でも、一か月いるんでしょう」
「うん、まあ、そうだけど……」
玲華は絶対何か隠してる。大体、医療センターは清済会系の病院じゃ無いんだから出羽診療所に来る訳ないはずなんだけど、まさか北総に赴任した? それじゃ医療センターは? それとも如月先生が関係してる? うーん、判りません。
「飛鳥、あんまり人の事を詮索しなくて良いから」
「えっ、私は別に……」
なんで判ったのかな…… 顔に出てたかな……
「相変わらず嘘が下手ね! 飛鳥は考え事をする時はいつも腕を組んでいるんだから」
はあっ! 本当だ…… 注意しなければ。
「それじゃ飛鳥、お昼からよろしくね!」
「うん……」
そう返事はしたものの、大丈夫かな…… 確か今日は晴翔君もお薬をもらいに来るんじゃなかったかな。そういう事で、二時になりました。午後からの診療が始まります。
「あっ、朝田さん! もう大丈夫なんですか?」
えっ、朝田さん? 朝田さんはアルコール依存症で医療センターに入院した患者さんですけど、雫がそう言ったような……
「飛鳥先生、朝田さんですよ!」
そう言われて、私は待合室へ行くと……
「あっ、飛鳥先生、その節はお世話になりました」
「えっと、退院したんですか?」
私がそう訊くと……
「先生、そがんじゃなくて週末外出で帰って来たと!」
そう静子さんから説明がありました。
「そげなことはどがんでん良かやっか!」
「また、そがん事を言うて」
また、口喧嘩が始まりましたよ!
「まあ、折角外出されて戻って来たんですから……」
「ほら、飛鳥先生はよう判っとらす」
「でも、お酒は駄目ですよ!」
「えーっ、飛鳥先生、そいはなかよ!」
「でも、今飲んだら、また病院へ逆戻りですよ!」
本当に朝田さんは困ったものです。
「先生、薬ば飲みよっけん大丈夫とよ!」
奥さんの静子さんはそう言いますけど、薬ってアルコールを飲んでも美味しくないお薬ですよね……
「静子さん、お薬って何を飲んでいるんですか」
そう私が訊いたら……
「えっと、ジスルフィラムって書いてあったと思いますけど」
「ジスルフィラムですか?」
あれ、そんな名前でしたっけ……
「静子さん、お酒を飲んでも美味しく無い薬ですよね」
私が小さい声で訊きましたけど……
「先生、そうじゃなかと! お酒を飲んだらすぐに気持ち悪くなったり頭が痛くなったりすると! だけん大丈夫とよ」
と小さい声で静子さんから教えてもらいました。まあ、そういう事なら大丈夫かな…… その後、朝田さん夫妻は帰って行きました。
さあ、診療準備をしないとね!
「あっ、飛鳥先生!」
丁度のタイミングで春翔君が来ました。
「晴翔君、ちょっと待ってもらっても良い?」
私がそう訊いたら彼は心よく了承してくれましたので、私は診察室に戻り準備をしました。
「飛鳥、私はどうすれば良い?」
「今、DIDの患者さんが来てるから玲華は私の後ろで見てもらってて良い?」
「うん、解った」
準備が終わったところで私は晴翔君を呼びに待合室へ行きました。
「晴翔君、お待たせしました。どうぞ!」
「先生、GIDの患者さんがいるの?」
二人で診察室へ行きながら、彼にそう訊かれましたけど、個人情報はちょっと……
「情報が早いのね!」
「えっと、僕じゃなくて凛の情報なんですけど……」
「そうか、でも、個人情報になるからあまり詮索しないようにね」
「あっ、はい」
「それで、樹君の事で何か思い出した事はない?」
「うーん、そうですね……」
そう言って晴翔君は黙ってしまいましたけど、何かブツブツと言ってるような…… 彼の頭の中では脳内会議が行われているようです。それを見ている玲華はなんとなく不思議そうな顔をしています。
「飛鳥先生、GIDの女の子って村の人なの?」
このキーの高い可愛い声は凛ちゃん! その声を聞いた玲華は唖然とした顔で私を見てます。
「うん、村の人だよ。まだ中学生なんだけどね」
「そうか……」
「さっき晴翔君にも言ったけど、あまり詮索しないでね!」
「はい、ただ私は同じ飛鳥先生から診てもらってるから仲良く出来たらと思っただけだから」
そうか、凛ちゃんもちょっと気になるのかな……
「まあ、そのうち診療所で逢う事があるかもよ」
「はい」
「それで、凛ちゃんから見てみんな仲良くしてる?」
「はい」
「そう、それじゃいつものお薬を処方するからね!」
そう話が終わったところで……
「飛鳥ちゃん、俺には話し掛けてくれないのかよ!」
いきなり可愛らしい女の子の声から男性の声に変わったので玲華はまたもや驚いています。
「はい、はい、湊君元気?」
「お、おう元気だぜ!」
「はい、それじゃお大事に」
そういう事で診察が終わりましたけど……
「飛鳥先生、拓哉君ですけど……」
華純さんがそう言いながら診察室へ来ました。
「えっ、拓哉君?」
彼とは今日の朝、中学校でみんなと一緒に問題を解消したはずですけど……
中学校での問題もある程度解消して診療所へ戻って来た飛鳥ですけど、またもや拓哉君が診療所へ来ました。これは……