17 拓哉君の望み
お待たせしました第17話を更新しました!
拓哉君の事をなんとか中学校で受け入れてもらえる事になりましたけど…… 今度は生徒達にも説明をして受け入れてもらわないといけません…… うーん、これは先生達より緊張しますね!
南剣中学校での話し合いも終わり、取り敢えず清川村へ帰ります。明日は、中学生を相手に話を、説明をしなければいけませんからね!
「今村先生!」
そう私を呼ぶのは、音楽の今泉先生です。
「先生、どうかしましたか?」
「いえ、その…… 今村先生も性別違和ですよね」
えっと、私は今泉先生には言って無かったと思いますけど……
「あっ、はい…… そうですけど……」
「やっぱり、なんとなく拓哉君と同じような感覚があったので」
この先生は鋭いですね……
「今泉先生、学校での拓哉君の事、お願いしても良いですか?」
「拓哉君の事?」
「はい、虐めは無いとは思いますけど、ひとりになる事が多いと思います。彼はピアノを弾く事が好きみたいですので……」
彼女は何かを察したようです。
「彼の居場所を作れば良いんですよね!」
「はい、お願い出来ますか?」
「良いですよ! 私も彼のピアノは好きですから」
うん、これで拓哉君も中学校に行きやすくなるでしょう。
「飛鳥先生、色々とありがとうございました」
拓哉君のお母さんです。
「なんとか受け入れてもらえそうなので良かったですね」
「先生のおかげです。これからもよろしくお願いします」
そう言って拓哉君とお母さんは帰って行きました。
そして、私も診療所に戻って来ました。
「あっ、飛鳥お帰り!」
「先輩、今日はありがとうございました」
「ううん、応援の先生が来てくれるんなら別に良いのよ」
もし、応援がなければ…… いや、考えないようにしましょう。
「その、応援の先生ってどんな人なんですか?」
私は中学校で話を聞いた時からずっと気になっていました。
「知らないわよ! 私も徳間先生に今日初めて聞いたんだから。大体、そういう人をお願いしてるなら早く言えば良いのにね」
「先生!」
「あっ、華純! 薬品の片付け終わった?」
「えーっ、城戸先生、私です! 何言ってるんですか!」
へっ、誰でしょう……
「ちょっと、私はもう城戸じゃなくて……」
慶子先輩がそう言いながら振り向いたそこには……
「城戸先輩お久しぶりです! 飛鳥もお疲れ」
そこには如月玲華がいました。
「えっ、どうしたの、玲華!」
「あれ、聞いてない? 明日から一か月ここで医療をするんだけど」
「ちょっと玲華、私は城戸じゃなくて、桐生だからね!」
いや先輩、今言わなくても……
「そうか、玲華が応援か……」
「なに飛鳥、私じゃ不服なわけ!」
「いや、そんなことは無いけど、医療センターの先生が何故ここに来るのかなって……」
「まあ、良いじゃないのそういう細かいとこは……」
なんだか上手く誤魔化されてるような……
「慶子先生、薬品の片付け終わりました。もう、あれは一人じゃ大変ですよ!」
「あっ、華純さんお疲れ様。あれ、雫は?」
「雫さんは村立病院へ行ってますよ!」
えっ、村立病院?
「飛鳥先生聞いて下さいよ。夕方に薬品の補充があったのは良いですけど、その中に村立病院の薬品が混ざってて……」
それで雫が村立病院へ……
「なに、なに、なんだか色々忙しかったようだけど飛鳥は何してたの」
「玲華そうなのよ! この忙しい中、飛鳥は昼から南剣中学校へ行っちゃうし……」
えっ、今更ですか…… ちゃんと許可を取りましたよね…… まあ、先輩はふざけて言っているみたいですけど。
「飛鳥、何かあったの?」
私は、GIDの五条拓哉君の事、中学校へセーラー服を着て行きたい事を話しました。
「そうか、それで一緒に中学校へ行ってた訳ね」
「うん」
「まあ、私だったら別に学生服でも良いんだけどな」
「えっ、玲華も性別違和なの?」
「違いますよ!」
「だって今、学生服でも良いって……」
「玲華はスカートが嫌だからでしょう!」
「正解! それに学生服ってカッコ良いじゃない」
やっぱり…… まあ、玲華は昔から格好良いのが好きだったもんね!
「なんだ、そうなんだ」
「だって、スカートってヒラヒラして邪魔じゃないですか」
えっと、そうかな? それが可愛くて良いと思いますけど……
「まあ、言われてみればそうかもね」
「先輩もスカートは嫌いですか?」
「そんな事ないわよ! ただ、仕事の時は好まないだけ、それに今はお洒落なパンツもあるからね」
「私は、毎日スカートでも良いですけどね」
「そうね、飛鳥はスカート大好きだもんね!」
先輩と玲華は声を揃えたように二人で言います。
「だって、女の子なんだから可愛くお洒落しましょうよ!」
「飛鳥、そろそろ可愛いは卒業した方が良いわよ!」
玲華は私の肩に手を置いてそう言います。
「そうそう、年齢的に綺麗を目指さないとね!」
慶子先輩までもそう言います。
「うーん、そういうもんですか」
「そうそう、三十路間近の女子が可愛いってちょっとイタイからね!」
そうですか…… 私もそろそろ可愛いから綺麗に方向転換しないといけないのかな……
「それじゃ、私はコンビニまで弁当買いに行ってくるね!」
「えっ、玲華、コンビニって何処のコンビニよ!」
慶子先輩がそう訊きます。当然、コンビニなんて清川村にはありません。一番近い所で、車で片道四十分の剣岳インターのそばまで行かないといけません。
「えっ、温泉街とかになかったかな?」
「ううん、インターの側まで行かないと無いよ」
「えっ、そうなの? どうしよう」
まったく玲華は変わらないな……
「しょうがないな、家でよければご馳走するよ!」
私がそう言うと玲華はニッコリ笑顔で……
「ゴチになります!」
だって! まったくもう……
翌朝私は、七時に家を出て南剣中学校へ行きます。
「玲華、それじゃ今日はよろしく! 私もお昼からの診療には戻れると思うから」
「飛鳥、大丈夫よ! 私だって五年間医療に携わって来たんだから」
玲華はそう言うけど、街の病院とは違うからね……
「飛鳥先生、私と雫さんもいますから大丈夫です」
まあそうですね! 華純さんにも早めに来てもらいましたから大丈夫でしょう。
私は三人に見送られ診療所をあとにし、八時前には南剣中学校に到着しました。やっぱり遠いですね……
「おはようございます!」
私が職員室に入るなり……
「あっ、今村先生、今日はよろしくお願いします」
早速、柏木先生に声を掛けられました。
「ところで五条君は来てるんですか?」
「いえ、八時半のロングホームルームに間に合うように来るみたいです」
「そうですか……」
「それじゃ、行きましょうか!」
えっ、行くって!
「あの、どちらに?」
「はい、今から朝のホームルームです」
要するに、今日は朝のホームルームから続けてロングホームルームを九時二十分までするようです。
「今日の一時間目はロングホームルームだったんですね」
「いえ、本当は国語の授業だったんですけど、金曜日の一時間目と変えました。それに私が国語の教師ですので」
「あっ、そうですか……」
昨日からの短時間で用意周到ですね! 教室の前まで来ましたけど、なんだかガヤガヤと賑やかですね!
「先生、準備は良いですか」
えっ、準備ですか?
「はい……」
「それでは」
柏木先生はそう言って教室の中へ入りました。教壇に立ったと同時に……
「起立、礼」
なんだか懐かしいですね!
「先生、ロングホームルームって何をするんですか」
早速、クラスの女子に聞かれています。
「はい、今日は夏休み明けからずっと休んでる五条拓哉君の事で話をします」
「慎吾が虐めてるんじゃねえの!」
「テメー、何言ってんだよ! 先生、俺は虐めてないからな」
「それじゃ、なんで休んでるのよ!」
冗談好きな男の子とちょっと気合の入った男の子、それに心配そうな女の子、まだ存在感はあるようです。
「はい、静かに! 実は五条君はちょっと病気で休んでいるんだけど…… その事を説明をしてもらうために病院の先生に来てもらっています」
柏木先生はそう言って私を紹介しますけど……
「病気ってなんだろう?」
「わざわざ説明に来るってどういう事?」
まあ、学校に病院の先生が説明に来るとなるとそうなりますよね……
「みなさん、おはようございます!」
私がそう挨拶をすると、生徒のみなさんは、不安そうに小さな声で挨拶を返します。
「私は、五条拓哉君の主治医で今村飛鳥と申します」
そう話した時でした。柏木先生が電子黒板に私の名前をデカデカと書いています。ちょっと急に緊張して来ました。でも、教壇って場所も教室を見渡す事が出来て生徒一人一人がよく見えます。しかも、生徒全員が私の事を真顔で見ています。私の緊張度は一層高まって来ました。
「あの、五条君の事なんですけど……」
私は声が上擦ってしまいました。生徒の数人はそれに気付いてクスクス笑ってますけど……
「えっと、五条君は性同一性障害という病気です」
私がそう言い切ったところでクスクス笑っていた生徒も真剣な表情に戻りました。
「それって先生、拓哉は女装するってことですか!」
それを聞いた数人の男子が『わあっ』と笑いましたけど……
「ちょっと、真面目に訊きなさいよ!」
女子は真剣ですね。
「それで、みんなにお願いしたい事があります」
またもや生徒がザワザワし始めました。
「はい、静かに!」
柏木先生がそう言って説明を始めました。まずは体育の授業は拓哉君は女子と一緒に受ける事、着替えの更衣室は保健室を使用する事、トイレは多目的トイレを使う事を話しました。
「それじゃ、拓哉君は女子扱いになるということですか!」
やっぱり女子生徒は気になるとこですよね……
『コンコン』
教室のドアを誰かノックします。
「ちょっと待ってくださいね!」
そう言って柏木先生が対応するため教室のドアのところへ行きます。
「あの、今村先生!」
私も呼ばれたので廊下へ出ると、そこには拓哉君がいました。前回同様カーキ色のワンピースとベストを着ています。かなり緊張しているみたいですけど……
「拓哉君、みんなの前に出れる?」
私がそう訊くと、彼はコクッと頷きました。かなり勇気を出して来たんだと思います。そして、教室の中に入ってもらいました。
またもや生徒達がザワザワと騒ぎ始めました。
「拓哉、おまえなのか!」
「えっ、拓哉君可愛い」
色々と男女それぞれ感想が違うみたいです。
「拓哉、マジか!」
「えっと、五条君は前までは男子でしたけど、今後は女子としての生活を希望しています。みんな、受け入れてもらえますか?」
私がそう問い掛けましたが…… 生徒達は固まってしまったのか反応が薄いです。
「おい、本当に拓哉なのか?」
「うん……」
拓哉君がそう返事をした時でした。
「拓哉、心配するな! 俺はおまえの事を認める。だから、もし虐められたりした時は俺に言ってくれ」
そう言うのはちょっと気合の入った彼、慎吾君です。
「なんだ慎吾、おまえ拓哉に惚れたのか!」
「馬鹿やろ! 拓哉がこんなに言い辛い事を話して、俺達にお願いしてるんだ。助けてやるのが本当だろう」
うん、この子は格好良いですね!
「そうだよね! 私達が守ってあげないとね」
女子もなんとか受け入れてくれそうで何よりです。
「でもさ、女の子になるんなら拓哉は可笑しいよな!」
男子生徒の中からそんな声が……
「その事ですけど、通称名で今後は呼ぶ事になると思います」
私がそう言うと……
「拓哉君、通称名はなんて言うの?」
すると拓哉君は、ちょっとモジモジしています。何だか仕草が女子ぽいですね……
「えっと、まだ決めてないです」
拓哉君はどういう名前にしようか迷っているようです。
「それじゃ、私達で名前を考えてあげるのはどうかな!」
女子生徒から提案がありましたけど、みんな突然の事でちょっと対応に困っているようです。
なんとか生徒達にも拓哉君は受け入れてもらいホッとしました。しかし、通称名をみんなで考えてもらえるとは…… ちょっと羨ましいかな。