15 五条拓哉
お待たせしました第15話を更新しました!
なんと清川村にもGIDの方がいました。大体一万人に一人くらいの割合だったと思います。この村の住人は、一万人はいないと思いますけど……
拓哉君のご両親に解って欲しい。そう思うと黙ってられません。私だって医師ですから!
「解りますよ! 私も拓哉君と同じ病気だから……」
そう言ったら拓哉君のご両親は驚きの表情で私の事を見ていました。
「同じ病気…… 先生も男なんですか?」
拓哉君のお母さんからそう訊かれました。
「はい、あっ、ちょっと待ってくださいね」
そう言って私は机の中にある財布の中からマイナカードと健康保険証を取り出して拓哉君のご両親に見せました。
「先生が男とは思えんけど……」
まずは拓哉君のお父さんの感想です。
「先生も同じ病気なんですか……」
お母さんも私の事をジッと見ています。
「はい、性同一性障害です。ですから拓哉君の気持ちはよく解りますし、きちんと治療をしてもらって普通の生活をしてほしいんです」
お母さんはなんだか複雑な想いのようです。
「私も先生みたいに綺麗になれますか?」
「はい、ちゃんと治療をしたらね!」
そう言って笑顔で拓哉君を見たら彼は少し恥ずかしそうでした。しかし、ご両親はまだ冷静になれないみたいですけど、私は今後の説明をしました。
「拓哉君はまだ十三歳なので経過観察としますが、思春期の兆しもあると思いますので二次性徴抑制治療を同時に行います」
「あの、中学校の制服はどうしたらいいでしょうか」
まあ、母親としてはその辺が心配なところですよね。
「お母さん、それは中学校と話をしてセーラー服とスカートにしてもらうようにお願いして下さい。診断書も必要になると思いますので私の方で準備します」
しかし、お父さんは納得がいかないようです。
「先生、もし治療をせずに男として生活を続けたらどうなりますか!」
まあ、やっぱりお父さんの想いとしてはそうなりますよね……
「お父さん、そうなった場合拓哉君は不登校になるかも知れません。もしくは鬱病を併発するかも知れません。もしくは、もっと重篤な精神疾患になるかも知れません。とにかく良い事はないですので拓哉君のためにも治療をお願いします」
まあ、これだけ脅しておけば良いでしょう。
「うーん、それじゃ、どうしたら良いんですか! 治らないんですよね」
お父さんは両手で頭を抱えてしまいました。
「あのお父さん、ですから治療をして女性化することをおすすめします。ご希望により手術も出来ます」
「手術、手術って、あれを切るんですか!」
お父さんは痛々しそうに顔を顰めます。
「はい、手術をすれば戸籍を変える事も出来ますので」
「えっ、戸籍を変えれるんですか?」
「はい」
「手術のあとに家庭裁判所に申立てすれば、性別と名前の変更が可能です」
「先生は何故、男性のままなんですか?」
拓哉君にそう訊かれましたけど…… 取り敢えず、私の事はどうでも良いんですよ。
「私は、色々と事情があって予定を立てる事が出来ませんでした。それに、私の場合は女性化出来れば良かったんです。手術はちょっとだけ抵抗がありましたので……」
拓哉君のご両親は私の事をジッと見てます。あの、私の顔に何か付いてますか? 恥ずかしいんですけど……
「先生、手術って海外でやるんですよね! タイとか……」
またもや拓哉君のお母さんです。
「いいえ、日本で出来ますよ! 山岡大学病院のジェンダーセンターに私の知っている先生がいますので、それでもちょっと遠いですけどね」
「でも先生、その手術は保険が適用されないんですよね……」
あっ、そうか…… その件がありました。
「えっと、そうですね…… 拓哉君の誕生日は十一月十六日なんですよね」
「はい、そうですけど……」
「それでは、高校生になってから手術と治療をしましょうか」
「あの、先生…… 保険の話は? それに何故、高校生になってからなんですか?」
拓哉君からまたもや指摘が…… 私はまた、患者さんをほったらかしにして話を進めていましたね……
「あっ、すみません…… まず治療ですけど、経過観察をしますので十五歳にならないと治療出来ません」
「経過観察をしないと……」
「その場合は十八歳にならないと治療出来ません」
「十八歳ですか……」
「それと手術ですけど、ホルモン治療をした後では手術費用の保険適用が出来ません」
「やっぱりそうなんですね……」
拓哉君のお母さんはそう言って俯きますけど……
「但し、ホルモン治療をしていなければ保険適用出来ますので、手術費用は三割負担となります」
すると三人の顔が笑顔になりました。
「先生、それじゃ高校生になってからの治療になるから中学生の間は男のままで良いんだよな」
まあ、確かにそうですけど、お父さん拓哉君の気持ちを考えてあげて……
「それじゃ、私、中学校には学生服で通うの? 絶対に嫌よ!」
こうなりますよね……
「先生、治療は出来ないんですよね」
「そうですね、ホルモン治療は出来ませんが、さっき言った二次性徴抑制治療は出来ます。ですから、中学生から高校生の夏までの間は二次性徴抑制治療をして思春期による身体の成長を止めます」
「先生、セーラー服は?」
拓哉君が心配そうに訊きます。
「勿論、中学校に話をして着れるようにしないとね」
まあ、それだけでは無いですけど、何とか話はまとまり、私は診断書を書いてお母さんへ手渡しました。
「でも先生、女の子に拓哉という名前は可笑しいですよね……」
まあ、そうですよね……
「その辺は通称名を使えば良いですよ」
「先生の通称名は明日香ですか?」
お母さんは私が首から下げているIDカードを見てそう訊きます。
「あっ、私は本名です。飛ぶ鳥と書いて飛鳥です。女性の場合、明日の香りで明日香というのが一般的ですけどね」
そういえば、私が大学病院に通っていた時はそういう話はしませんでしたね。そこで診察も終わりました。
「先生、お疲れさまでした。お昼にしましょうか」
華純さんからそう声を掛けられ私は時計を見てびっくりです。もう一時半を回っていました。他の患者さんがいなかったので、拓哉君の診察がかなり延長していたみたいです。ですからいつもより空腹度が増していたんですね。
翌朝!
『プルルル、プルルル……』
私は一本の電話で目が覚めました。
「先生、スマホ鳴ってますよ……」
同じお布団の私の隣で眠っていた雫が、毛布を被りながら言っています。まったく誰だろうこんなに朝早く……
「はい、今村です」
『あっ、飛鳥先生、グッスリ朝まで眠れましたよ!』
えっと、何の事ですかね……
「あの、どういう事ですか?」
『あっ、徳間です。薬無しで朝まで眠れたので嬉しくて!』
「あっ、そうですか……」
はあ、急患じゃなくて良かったです。
『すみません…… ひょっとしてまだ寝てました?』
ひょっとしなくてもそうなんですけどね…… でも、眠れたのなら良い事にしましょう。
「あっ、えっと、そろそろ起きようと思っていました。でも、眠れるようになって良かったです」
でも、早朝の電話はやめて頂きたいです。その後、朝食を食べた後、私は診療所に行きました。
「おはようございます飛鳥先生」
もう華純さんがいました。診療所の外の掃き掃除をしています。誰かさんとは大違いです。
「おはようございます華純さん! 慶子先輩は?」
「診察室ですよ」
という事で診察室の中へ。
「飛鳥、どうしたの?」
「いえ、徳間先生から朝一でお薬無しで朝まで眠れましたと電話がありまして……」
「それって何時頃の話?」
「六時くらいです」
「はあ、迷惑な話ね、よっぽど嬉しかったんだろうけど……」
「まったくです」
「でも、お昼までゆっくりしてて良いわよ」
「はい、一応そのつもりですけど、拓哉君や晴翔君絡みの電話があると先輩判りませんよね」
「うん、その時は折り返すように言うから大丈夫よ!」
「はい、お願いします」
「飛鳥が来てからそっちの方の患者さんが増えたからね」
先輩とそう話している時でした……
「飛鳥先生、五条さんからお電話ですけど」
言ってるそばからこれです。それにしても、何でしょうか…… 私は急いで診療所の電話に出ました。
「もしもし、今村です」
『あっ、飛鳥先生、今日一緒に中学校へ行って欲しいんですけど……』
へぇ、どういう事?
「何があったんですか?」
私がそう訊ねると、拓哉君のお母さんの話では制服の件で中学校に電話をしたようなんですが、今まで前例が無くよく判らないので医師の説明を訊きたいとの事でした。
『それで、今日一緒に中学校へ行ってもらえませんか』
「はあ、そう言うことなら…… それで時間は?」
『校長先生からは三時くらいにという事でした』
三時ですか…… 私は慶子先輩の顔をチラッと見て……
「えっと…… あとでまた、ご連絡しますので、すみません」
そう言って一度電話を切りました。
「飛鳥、行って来て良いよ! どうせそんなに忙しく無いだろうし、私も予定は無いから」
あっ、先輩聞こえてました……
「先輩、ありがとうございます」
「飛鳥、今度えびす屋さんの温泉プリンね!」
「はいはい、そんなんで良ければ」
そういう事で、私はお昼から拓哉君が通っている南剣郡南川上町立南剣中学校へ行きます。この中学校は剣岳インターのそばにあるんですけど、拓哉君は毎日こんな遠くの中学校まで通学してるんですね。
午後三時、私は待ち合わせ場所の中学校近くのコンビニエンスストアに来ました。何だか、久々にコンビニに来ました。ここが清川村から一番近いコンビニですから……
「飛鳥先生、お待たせしました」
あっ、拓哉君のお母さんが来ました。あれ、隣の女の子は……
「あの、拓哉君?」
「はい」
拓哉君はカーキ色のワンピースにベストを着ています。どこからどう見ても女の子です。
「可愛くお洒落して来たのね……」
「はい、こうした方が先生達にも解ってもらえると思いましたので……」
「そうか……」
果たしてそんなに簡単に行くかな…… その後、私達三人は中学校へ入って行きました。
「すみません、三時に約束してました五条ですけど……」
そう事務員さんにお母さんが声を掛けました。
「はい、聞いています。校長室へどうぞ」
話が出来ていたようで、すんなり私達は校長室へ通されました。
「五条君……?」
そこには男性の先生が二人、女性の先生が一人います。最初に声を掛けたのが女性の先生です。
「柏木先生……」
拓哉君を見た先生方はちょっと固まってしまったようです。
「あの、初めまして、拓哉君の主治医の今村飛鳥と申します」
「それでは五条さんが電話で話していた事は本当なんですか!」
いや、そんな大事な事で嘘をつく人はいないでしょう。
「はい、拓哉君は性同一性障害です。まだ経過観察中ですけど」
「あの、五条君はどうなるんですか?」
「あっ、えっと……」
「あっ、すみません。私は五条君の担任で柏木美月と言います。こちらは校長先生と教頭先生です」
みなさん初めての事で緊張されてるみたいですね。
取り敢えずまだ経過観察ですが、中学校から女子扱い出来れば、高校生になってからも自然と女性化出来ると思います。このまま問題なく行って欲しいんですけどね……