14 GIDの娘
お待たせしました第14話を更新しました!
温泉旅行に来ていた美彩先生が帰り、また通常モードですが、昨日村立病院に来ていた五条君の事が気になります……
今週金曜日、今日は晴翔君がお薬をもらいに来ます。しかし、まだ診療所には来ていないようです。
「飛鳥先生、薬をもらいたいんですけど」
なんだ、徳間先生ですか! すでに診察用の椅子に座ってますけど……
「徳間先生、村立病院の方は良いんですか?」
「いや、まだ診療開始まで三十分くらいありますから」
徳間先生は笑顔でそう言いますけど……
「はあ、あの睡眠薬…… ですよね……」
「はい、レンドルミンベンゾジアゼピン系の薬です」
うーん、この間先輩にも話しましたけど、先生に処方していたのは、ただのビタミン剤なんですよね……
「先生、夜はちゃんと眠れていますか?」
「はい、グッスリです」
「途中、起きる事はないですか」
「いえ、朝まで眠れています。六時くらいには目が覚めますけど」
「そうですか…… それならもうお薬は必要ないと思いますけど……」
「いえ、薬が無いと眠れませんから」
うーん、そう来ましたか……
「先生、プラセボ効果って知ってますよね」
「はい、新薬の治験とかでよく言われてますよね、それが何か?」
「はい、実は…… それをやっていたんです!」
「はあ…… 何がですか?」
うーん、意外と徳間先生も鈍いですね……
「ですから先生に処方していた睡眠薬は、ただのビタミン剤なんです」
「えっ、ビタミン剤! それって睡眠薬にもなるんですか?」
いやいや、可笑しいでしょう。なに華純さんのような事を言っているんでしょうか……
「そんな訳ないでしょう! 先生の場合、あまり深刻では無かったのでプラセボ効果が期待出来るか様子を診ていたんです」
「でも、実際に眠れるようになったんですよ」
「はい、だから、もう大丈夫です。先生もご存知だと思いますけど睡眠薬は副作用がありますので、あまり処方したく無かったんですよ」
「でも、今日からまた、眠れないかも知れませんよね」
急に徳間先生の顔が不安そうな元気のない顔になっています。
「大丈夫です! ビタミン剤を飲んで眠っていたんですから」
「まあ、そうですけどね……」
「病は気からって言うでしょう! まさにそれです」
「はい…… 解りました」
徳間先生は納得してはいないようですけど、そう言って肩を落として村立病院の方へ行ってしまいました。本当に大丈夫ですよね、先生の事を見ていたら私が心配になるんですけど……
「飛鳥先生、診療を始めますけど……」
華純さんからそう声を掛けられました。
「あっ、はいお願いします」
でも、晴翔君はまだ来てないようです。
「徳田さんどうぞ」
徳田さんは数日前に気管支炎で来院されてますね。
「徳田さん、いかがですか?」
「はい、熱も下がって、咳も止まりました」
「うん、順調に良くなってますね。雫、お熱は?」
「三十六度八分です」
「うん、お熱も下がりましたね、良かったです!」
この間はあまり酷いと救急車で街の病院まで行かないと駄目かと思いましたよ。
「徳田さん、胸の音を聴きますので服を上げてください」
私は聴診器で胸の音を聴きます。
「うん、音も綺麗ですね! 次は喉を確認します口を開けてください」
私は咽頭を確認します。うん、かなり炎症も良くなってます。
「身体は怠くないですか」
「ちょっと、怠いです」
「うん、でも良くなって来てますので怠さもすぐに治ると思います。もう少し安静にしてくださいね」
「はい、有難うございます。先生、薬はもらえますか?」
「ええ、同じものをまた三日分出しますので、症状が治っても最後まで飲んでくださいね」
「はい」
「では、お大事にどうぞ」
そうして、徳田さんを見送った時でした。
「飛鳥先生、村立病院の青山さんからお電話ですけど」
「青山さんですか?」
なんでしょうね……
「もしもし、今村です」
『飛鳥先生、今、五条さんのご両親がお見えなんですけど……』
あっ、そうです。昨日私がご両親に逢いたいと言ったんですが、普段は診療所にいる事を言ってませんでした。
「うーん、今からそっちへ行きますので待ってもらうように言ってもらえますか」
『はい、ちょっと待ってください』
青山さんが説明しているのが聞こえますけど……
『今村先生ですか?』
あっ、いきなりスマホから男性の声が……
「あっ、はい」
『診療所にいるのならそちらに行きますので待っていて下さい』
「あっ、あの、すみません! 私がきちんと説明していなかったので」
『いえ、それはいいです。とにかく息子の事をきちんと説明して頂ければ』
「はい、では、診療所でお待ちしています」
そういう事で、今から五条さんのご両親がお見えになります。私、きっと怒られちゃいますね……
「飛鳥先生、晴翔君が来ましたけど……」
「あっ、はい、診察室へ入れてください」
すると……
「あっ、先生…… おはようございます……」
うん、間違いなく晴翔君のようです。
「なあ飛鳥ちゃん、穂乃花さんが母親って本当なのかよ?」
もう入れ替わっているし……
「もう、勝手に入れ替わらなーい」
「でも、それなら僕達の事も何か解るかも知れないですよね」
えっと、今度は樹君?
「ねえ、飛鳥先生はいつから知ってたの?」
はあ、凛ちゃんまで……
「ちょっと待ってよ! 今は僕が話をするんだから」
どうやら晴翔君に戻ったようですけど、晴翔君少しは積極性が出たかな? お薬が効いたかな。
「晴翔君は穂乃花さんが母親だって知ってた?」
「いいえ、でも、穂乃花さんが側にいて話をすると心が和むんですよね」
やっぱり晴翔君は無意識のうちに母性を感じていたんですね。穂乃花さんは、凛ちゃんともよく話をしていたみたいだし、湊君の事もきちんと注意していましたよね。
「晴翔君、それじゃ治療を始めます。あっ、ノートは持って来た?」
「あっ、すみません…… 忘れて来ました」
「うん、しょうがない次回は忘れないようにね! それじゃ私をジッと見て肩の力を抜いてね」
「はい……」
晴翔君は少しボーッとして来たようです。
「それじゃ、始めるからね。晴翔君は中学生の頃、虐められたようだけど誰か助けてくれる人はいたの?」
「えっと…… 僕は…… 虐められていません……」
えっ、虐められていない?
「友達はいたの?」
「うーん…… いなかった…… いつも一人だった……」
そうか、晴翔君はずっと一人だったんですね。私は晴翔君の肩をポンと叩いて催眠を解きました。
「それじゃ、凛ちゃんに代わってね」
私がそう晴翔君に言った時……
「先生、代わったよ!」
「うん、それじゃ肩の力を抜いて私の目を見てね」
凛ちゃんも催眠にかかりました。
「凛ちゃんは中学生の頃虐められた?」
「はい…… みんな私の事を…… 笑いながら…… 文句言ったり…… 叩いたり…… しました」
「誰か助けてくれたりしなかった?」
「えっ…… 解りません……」
そこで凛ちゃんの治療を終え、今度は湊君ですけど、こいつはなかなか催眠に掛かりにくいんですよね……
「湊君、治療をするから変な事言わないでよ!」
「えっ、だって飛鳥ちゃんは、俺の事をジッと見つめるからさ、なんか恥ずいんだよな……」
うっ! それは、治療をする為…… 私、顔が赤くなってないかな…… 何でこいつに言われて顔を赤くしなきゃいけないのよ……
「とにかく、変な事したり言ったりしない事、いいわね!」
私は真顔でそう言いました。
「はあ、解ったよ! たぁっく面倒臭いな……」
そういう事で催眠を始めます。私は湊君を見つめるというより、睨みつけて……
「肩の力を抜いて!」
すると、湊君の鋭い目が少しとろーんとしたような…… 掛かったかな?
「湊君、聞こえる?」
私は小さな声で聞いてみますけど、大丈夫なようです。
「あなたは小学生の頃、晴翔君を父親から守っていたの」
「うん…… あのクソ親父は…… 晴翔の…… 母ちゃんも殴るし…… 晴翔にも手を出してたから…… ムカついて二、三発…… 殴ってやった……」
やっぱり…… ボーッとした口調で言ってるけど、内容は凄すぎる。本当に催眠に掛かってる?
「それじゃ、中学生の晴翔君を虐めから守ってあげたのよね」
「えっと…… クソ親父を殴った後は…… よく覚えていない…… 中学の時は…… 晴翔は…… いつの間にか…… 引きこもっていたから……」
「その頃、凛ちゃんがいたのよね」
「ああ…… いつも…… 晴翔の側で…… 泣いてたかな…… うっ、ううう……」
もう限界かな…… 私は湊君の肩を叩いて催眠を解きました。
「はあ、はあ…… 俺は…… 何をしてた……」
湊君は、ちょっと疲れたかな。
「次は樹君に代わって!」
しばらくの沈黙の後、鋭い目つきから優しい目に変わりました。
「樹です。お願いします」
その後、樹君はすんなり催眠に掛かりました。
「樹君はいつ頃から一緒なの?」
「えっと…… 僕は…… 解らないけど…… 湊と凛が喧嘩するのを止めていた……」
「晴翔君が中学生の頃をしってる?」
「いや…… 僕が知ってるのは…… 晴翔が…… 高校三年の…… 時だったと思う……」
「晴翔君とは何か話したりする」
「いや…… 僕は…… いつも…… 湊と凛の喧嘩を…… 止めてる」
そこで私は樹君の催眠を解きました。うーん、やっぱり樹君の存在は謎です。
「晴翔君!」
「はい……」
「レクサプロをまた処方するから」
「はい」
「これを飲んで気分が悪くなる事はない?」
「いえ、最近は…… なるべく表に出たいと思うようになりました」
うん、やっぱりお薬の効果かな!
「それじゃ、また一週間後ね」
そういう事で晴翔君の治療が終わり、次は五条拓哉君です。私は待合室へ行きました。
「五条さんお待たせしました。診察室へどうぞ」
すると拓哉君のお父さんが先頭で次いで拓哉君、お母さんの順で診察室へ入られました。まず拓哉君が私の前の椅子に、ご両親には華純さんが折りたたみの椅子を準備してくれました。
「それで先生、拓哉は病気なんですか?」
「えっと、病気というより障害と言った方が良いかも知れません」
「障害! それで拓哉は男の子という事で良いんですよね」
拓哉君のお母さんも訊きます。
「あの、拓哉君は身体的には男の子ですけど、精神的というか心は女の子です」
「しかし、身体が男なら男らしくしてもらわないと駄目だろう」
まあ、普通の人の考えはそうでしょうけど……
「お父さんは今日からスカートを履いて生活してくださいと言われたらどうですか?」
「えっ、私は男だからそんな物は履けません」
「まあ、そうなりますよね」
「当たり前です」
「拓哉君も中学校に行くのに学生服は無理なんです。心が女の子なので、身体が男でもセーラー服とスカートが良いんですよ」
「しかしですね!」
「さっきお父さんがスカートなんて履かないと言った気持ちと同じなんですよ」
私がそう説明すると…… 拓哉君のお父さんはムッとした表情で……
「先生は拓哉を病気にしたいだけなんでしょう! 大体あなたに何が解るんですか」
そう言われてしまいました。でも、私も黙っていられません。私だって医師ですから……
「解りますよ! 私も拓哉君と同じ病気ですから……」
そう言ったら拓哉君も、ご両親も驚きの表情で私の事を見ていました。
やっぱり、家族といってもなかなかGIDというのは受け入れられないようです。だからこそ飛鳥は患者の気持ちが痛いほど解ると思います……