10 晴翔君の真意
お待たせしました第10話を更新しました!
検査を受けに来ている晴翔君ですが、少しずつ何かが解って来ました……
私と晴翔君、それと穂乃花さんは昼食を取るため、医療センター中央棟のレストランに来ました。
「結構大きい病院ですよね!」
「そうですね、ところで一緒だった看護師さんは内科の方に行かれたようですけど」
「はい、彼女は年一回検査がありますので……」
「飛鳥先生もですよね?」
「あっ、はい…… 麻子さんからは何も聞いて無いんですね」
麻子さんは私の事を知ってますからね。
「姉は知ってるんですか?」
「はい…… 実は私GIDなんです。月に二回女性ホルモンを注射してます」
「えっ、GID? あの…… それって、飛鳥先生は男…… という事ですか」
穂乃花さんはそう言って私の事をジッと見ます。そんなに見つめないで! あんまり見つめられると恥ずかしいから……
「あの…… こういう格好をしてますけど、戸籍上は男です」
やっぱり顔に熱を感じます。赤くなってないかな……
「そうなんですね…… って、看護師さんもですか!」
「あっ、いえ彼女は普通の女性です」
穂乃花さんとそう話をしていた時、雫が戻って来ました。
「先生、やっと見つけた!」
「えっ、探していたの?」
「ええ、検査が終わって精神科へ行ったらもう食事に行ったって聞いたから……」
うっ、雫怒ってる……
「でも、終わったなら電話かメールをくれれば良かったのに」
私は宥めるようにそう言いましたけど、それでも雫はご機嫌斜めのようです。
「それで、結果はどうだったの、よかった?」
「陰性でした!」
何だか棘がある言い方だな、これくらいのことで機嫌を悪くしなくても良いのに……
「うん、でもこれで一年間は安心ね」
「もう大丈夫ですよ! 飛鳥先生に手術してもらっているんですから」
「えっ、先生って外科もやるんですか?」
穂乃花さんに、また訊かれてしまいましたけど、どう説明しましょうか……
「えっと、病状にもよりますけど……」
これ以上は突っ込まれませんように……
「そうですか……」
その時、横から口を開いたのは……
「看護師さんはどこが悪いんだ!」
湊五月蝿い! こういう時ばかり話に割り込んで来て、私はそう思い湊君を睨みつけましたけど、どうも彼とは合わないですね。
「何だよ、飛鳥ちゃん!」
「湊、そういう口の利き方は駄目だって言ってるでしょう」
穂乃花さんに注意され、湊君は静かになりました。
食事が終わり、内科検診と心理検査があります。晴翔君の内科検診があってる間に私の検査結果を長谷川先生から訊きます。
「今村先生、検査の結果は問題ありませんでしたけど……」
「あの、なにかあったんですか……」
検査結果に問題がないならそれで良いはずなのに……
「はあ…… まさか、先生が男性だったとは……」
えっと、それはどういう事でしょうか? まさか、以前桐生先生が言っていた事は本当だったという事でしょうか……
「あの、私は……」
「いえ、良いんですよ! 私が勝手に思っていただけですから…… こんなに綺麗な娘が男性だなんて」
いや、そんな事言われても……
「今村先生の診察はこれで終わりです。あとは星野さんですが、先生は星野さんの過去の事は訊きましたか?」
「あっ、いえ…… まだ訊けてません」
「うん、そうですか…… たぶん三人の人格の中にイマジナリーフレンドがいると思うんですが……」
「あの…… あの三人がイマジナリーフレンドではないんですか?」
「いえ、それは違います。イマジナリーフレンドとはイマジナリーコンパニオンとも言われ幼い頃の空想上の友達です。普通は成長と共にいなくなるんですけど、彼の場合は何らかの事態があって、イマジナリーフレンドからもう一つの人格、つまりDIDになったんだと思います」
「それじゃ、晴翔君は虐めとかにあっていたと……」
「いや、それは本人に聞いてみないと、それと付き添いで来ている女性は母親ですか?」
「あっ、いえ、晴翔君が勤めている旅館の方です」
「そうですか…… それじゃ、彼の昔の事を訊くためには催眠療法とかも必要かもですね」
催眠ですか……
「でも、そこまでして聞き出さなくても……」
「しかし、今後の治療にも役に立つと思いますけどね」
そこで、晴翔君の話は終わりました。
「ところで先生、朝田さんはどうですか?」
「あっ、朝田さんは入院当初は色々ありましたけど、今はアルコールも抜けて健康に生活してますよ」
「面会は出来ますか?」
「ええ、星野さんの心理検査が終わったあとでよければ」
「はい」
まあ、朝田さんの様子を奥さんの静子さんにも報告したいですからね。
そのあと私は、雫と一緒にコーヒーを飲みながら休憩していました。
「飛鳥先生、晴翔君はどうですか?」
「うん、今後の治療をどうしよかと長谷川先生と話していたんだけど……」
「進展なしですか?」
「そんな事はないけど……」
その時でした。
「あの、今村先生ですか?」
センターの看護師さんから声を掛けられました。
「はい、そうですけど」
「すみません、診察室へお願いします」
「はい」
何かあったんでしょうか? 確か今は心理検査があってると思いますけど…… 私はすぐに診察室へ戻りました。
「長谷川先生、何かありましたか!」
「今村先生!」
そこには晴翔君と長谷川先生が向かい合って話をしていたみたいですけど……
「樹さんと凛さんの診察はしたんですけど…… 湊さんが……」
はあ、また湊君か……
「どうかしたんですか?」
「今村先生の診察しか受けないと……」
「だって、この先生変な事するから……」
はあ、まったく困ったものです。
「先生、すみません。変わります。今は、どういう診察をしていたんですか?」
「いつ頃から晴翔さんと一緒にいたのか訊いていました」
それって、イマジナリーフレンドをそれとなく探っていたという事ですよね……
「解りました」
そう言って私は晴翔君の前に座りました。
「晴翔君、話を訊かせてもらっても良いかな」
私がそう言うと……
「飛鳥ちゃん、俺には訊かないのかよ!」
また、割り込んで来ました。まったく困ったものです。
「湊君には、後でゆっくり訊くから」
私がそう言うと…… 晴翔君と交代したようです。
「晴翔君、私の目を見てもらって良いかな、肩の力を抜いて」
私は優しく声を掛けながら晴翔君を見ます。晴翔君は少しボーッとしているようです。催眠が効いてきたかな……
「晴翔君、樹君や湊君、凛ちゃんとはいつ頃から一緒なの?」
私が訊きますけど……
「えーっと…… 湊とは…… いつも一緒だった…… と思います」
「凛ちゃんは?」
「凛は…… 判らない……」
「それじゃ、樹君は?」
「えっと…… 判りません……」
うん、ここまでかな。私は晴翔君の肩をポンと軽く叩いて催眠を解きました。
「飛鳥…… 先生……」
「晴翔君ありがとう! 湊君に代わってもらって良いかな」
「はい」
すると、ちょっと目つきが鋭くなったような……
「代わったぜ、飛鳥ちゃん!」
もう、溜息しか出ません……
「はあ、それじゃ肩の力を抜いて私の目を見てね」
「お、おう」
そう言って私の目をジッと見つめてきます。
「な、何だかちょっと照れるな!」
えっ、なに!
「ちょっと、変なこと言わないでよ…… もう、良いから何も考えずに力を抜いて!」
うーん、催眠出来るかな…… 私はもう一度、催眠療法を試しますけど……
「飛鳥ちゃん、何がやりたいの?」
駄目だ! 催眠出来ません…… まったく、なんて事なの。
「もう、しょうがないわね…… 湊君は晴翔君とはいつ頃から一緒なの?」
もう面倒臭いから直接訊いてみました。
「えっと、どれくらいだっけ? ガキの頃からだから……」
「えっ、そうなの?」
「うーん、わかんねー」
うーん、これってどこまで信憑性があるんだろう……
これで、検査とカウンセリングが終わりました。取り敢えず、晴翔君と穂乃花さん、それと雫の三人は中央棟のレストランで待っててもらう事にしました。私は今から朝田さんに会わないと……
「まあ、交代人格者の話だと湊さんがイマジナリーフレンドの可能性が高いかな、その次が凛さん、彼女は中学生くらいからの付き合いらしいです。そして、樹さんはここ一、二年の付き合いらしいんですけど…… どっちにしても、まだカウンセリングは必要です」
「そうですか、私は樹君が長いと思ってましたけど」
「うん、でも、まだ判りませんからね」
そう話をしながら大きな壁がある場所へ来ました。
「飛鳥先生、ここから先が精神科病棟です」
長谷川先生はそう言ってカードキーをかざし、小さな扉を開けました。しかし、そこは何ひとつ変わらないところですけど……
「朝田さんはたぶん解放病棟にいると思うけど」
そう話をしてるときに誰かが私達の後をついてきます。
「あの、長谷川先生うしろ……」
「あっ、気にしないでください」
えっと、何でしょうね、これ…… 解放病棟へ来た時でした。
「飛鳥先生、わざわざ来てくれたんですか?」
朝田さんが私のところへ来ました。
「朝田さん、元気そうですね」
「はい、アルコールもすっかり抜けましたので、いつでも退院出来ますよ!」
朝田さんはそう言いますけど……
「朝田さん、あと一ヶ月は我慢してくださいね!」
「えーっ、一ヶ月ですか?」
「はい、今退院しても、すぐに戻って来る事になるかもしれないので」
まあ、まだアルコールを我慢している状態なので、今退院すると、またアルコール漬けになって戻って来る事になるかもしれませんね。しかし、解放病棟にいる人たちは、みんな患者さんですよね、みんな普通の人のように思えますけど…… いや、そうでもないかな…… 私は解放病棟を後にしました。
「今村先生、こちらへ良いですか?」
長谷川先生は私を、解放病棟から離れた部屋へ連れて来ました。
「ここは何ですか?」
この部屋はベッドとトイレ以外何もないだだっ広い部屋です。
「ここは、保護室です。何か問題を起こした患者さんが一時的に入る部屋です」
「でも、何も無いですよ!」
「はい、何も置けないんです。カーテンや手すりをつけると、それを利用して自殺する人がいるかもしれないんです」
えっと…… そんな事って……
「あの、そんな事ってありますか?」
「はい、要するに幻聴や幻覚によってそうなってしまうんです。そうなるとある物を使って創意工夫をして、私達では考えられない事をしてきます。
いや、創意工夫って可笑しいでしょう……
「それじゃ、戻りましょうか」
一般病棟へ戻る時も私達の跡をついて来る人が……
「先生、また誰か着いてきますけど」
「あっ、あの人は私の患者さんです。よくある事です」
あとで判ったことですが、担当の先生や看護師さんの跡をついて回る人は多いそうです。患者さんが安心するんでしょうという事でした。長谷川先生曰く『人気のバロメーターですよ!』という事でしたけど、私はちょっといいかな……
検査の結果、晴翔君と一番付き合いが永いのはどうやら湊君のようですけど…… でも、あれだけで決めても良いのかな…… まだまだカウンセリングが必要みたいです。