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憧れの診療所勤務!  作者: 赤坂秀一
第一章 田舎の診療所
1/55

1 清川村再び

お待たせしました憧れのスカート、憧れの医療に続く三作目、憧れの診療所勤務! を更新しました! 

今回から場所を城南市から清川村へ移し、過疎化した村の診療所を舞台に物語が進んでいきます。今後ともよろしくお願いします。

 私は今村飛鳥(いまむらあすか)、ジェンダーレスの戸籍上は男性です。北山総合(きたやまそうごう)病院で勤務医をしていましたけど、関連の大学病院の先生から言い掛かりを受け、妻の(しずく)と二人清川(きよかわ)村の診療所へ旅立ちます。

「飛鳥先生、清川村へは車で行くんですか」

「そうよ、車で行かないと大変だよ」

「どうしてですか?」

「どうしてって……」

 雫は有名な温泉地だから交通の便が良いとでも思っているのかな。

「だって、バスはあるけど一日六本しかないからね」

 私の言葉を聞いた雫は……

「嘘でしょう! それじゃ全然足りないんじゃないですか?」

 まあ、過疎地を知らない彼女には信じ難い話なのかな……

「それじゃお母さん、行ってくるね!」

「いってらっしゃい、雫さん飛鳥の事よろしくね」

 母の言葉は、ちょっと引っ掛かるけど、まあ良いかな。今日からとっぽちゃんにもかなりの負担が掛かるかも知れないけど頑張ってもらわないと行けません。あっ、とっぽちゃんというのは私が乗っている赤い軽自動車です。この子は頑張り屋さんで可愛いんですよね!

「先生、高速は何処から乗るんですか?」

城南東(じょうなんひがし)インターから乗って剣岳(つるぎだけ)インターで降りるから」

「それで二時間ですか?」

「うん、途中休憩をするから二時間半くらい掛かるかな」

「やっぱりそのくらい掛かるんですね……」

 そう言うけど、雫は助手席に乗ってるだけで私が一人で運転するんだけどね…… 私はそう思いながら高速道路に乗りました。

「先生、もう少しスピード上げても良くないですか!」

 雫はそう言うけれど……

「これでも九十キロくらい出てるんだけど」

「えっ、そんなに! 周りの車に抜かれているからゆっくり走っていると思いましたよ」

「普通車は百キロくらいで走ってるからね」

 雫だって車の免許は持ってるんだから解ると思うけど、それに軽自動車でこれ以上はちょっと……

「何処かのPA(パーキングエリア)に寄るんですよね!」

「うん鈴村(すずむら)SA(サービスエリア)で休憩するから」

「そこだけですよね……」

「まあ、一ヶ所で充分かな」

「先生、音楽聴いても良いですか」

「良いけど、FMでも聞くの?」

「スマホですよ!」

 そう言って雫はチューナーとスマホをUSBで繋ぎます。それで音楽が聴けるんだ。私はそういうのは苦手ですから、でも私の車の装備なんだけどね…… 私達は音楽を聴きながら鈴村SAに到着しました。

「ちょっと売店に行くけど雫はどうする」

「診療所の皆さんのお土産ですか?」

「ううん、それは城南市(じょうなんし)で買って準備してるけど、ソフトクリームとか買おうと思って」

「あっ、私も買います!」

 そう言って雫は、私の側に走って来ました。そんなに慌てなくても良いのに。

「雫は何にする」

 彼女はメニューを見て種類の多さに目移りしてるみたいです。

「私はバニラとチョコのミックス! 先生は?」

「うーん、私はやっぱりバニラかな!」

 そう言って私は注文しましたけど、フライドポテトも美味しそうで、私は誘惑に負けて注文してしまいました。

「あーっ、先生ずるいです、私も食べたい!」

「雫、一緒に食べよう。一人一個はちょっと多いから」

「私は大丈夫ですけどね!」

「太るよ! 良いの?」

 私がそう言ったら雫は苦笑いです。

 私達はソフトクリームを食べた後、また車を走らせます。

「雫、ポテト一人で食べちゃ駄目よ!」

 そう言って、ドリンクホルダーのポテトに手を伸ばす私です。

「うん、美味しいね」

「はい!」

 雫の顔は満面の笑みです。そして、車を走らせること五十分剣岳インターに到着しました。ここから山道になります。

「雫、運転してみる?」

「えっ、いいですよ…… 道が解らないし、狭いし……」

 まあ、そこが本音かな。

「それじゃ、運転しなくてもいいけど、道は覚えてね! いつ、雫に運転してもらう事になるかも知れないから」

「えーっ、私も運転するんですか?」

「車の運転くらい出来ないと生きて行けないよ! ここではとくに」

 雫は目を見開いて私を見ています。でも私は気にせずそのまま運転して結構山手の方まで来ました。

「雫、ここが清川駅だよ」

「あっ、電車はあるんですね」

「電車じゃなくて気動車ね」

「気動車って何ですか?」

 はあ、気動車が判らないのか……

「電気で走るんじゃなくて、ディーゼルエンジンで走るんだよ」

「へぇー、そうなんですね」

 駅前から、さらに山手の方へ行こうとした時、懐かしいあの、古い車輌の村営バスが来ました。

「先生、あれって……」

「あっ、あれが一日六便の村営バスだよ」

「この狭い道をあんなのが走るんですか?」

 うーん、でも大型バスじゃないよね、中型ってとこかな、ほとんど人は乗って無いけど…… 私は更に山手を目指します。結構、上まで来ましたけど。

「ほら雫、あそこの茶色い建物」

「あれが、診療所ですか?」

「違うよ、あれは村立病院!」

「えっ、あれが村立病院なんですか……」

 雫は、相当幻滅したかな…… 更に奥へ行くと、温泉入口までやって来ました。

「あの、ここが清川温泉なんですか……」

「うん、車はここまでしか入れないからね」

「温泉街は歩きなんですね」

「うん、でも浴衣を着て歩くと風情があるんだけどね」

「今日行けますか?」

「うーん、時間があれば行ってみようか」

 私はそう言いますけど、雫の表情は硬いですね……

「はあ…… はい」

 ちょっと、今日から三年間はここで暮らす事になるんだけど、大丈夫かな……

 それからまだ先へ、出羽(いずわ)診療所を通り過ぎ、やっと清川村役場に到着しました。

「雫、着いたよ!」

「えっ、ここですか? コンビニとかは無いんですよね……」

「うん無いよ!」

 この辺はコンビニはおろかスーパーもありません。

「ほら、行くよ! 病院も診療所も村営だから、まず村長さんにご挨拶をしないとね!」

 私達は役場の受付に来ました。

「おい、まだ待たせるのかよ! 他に誰もいないんだからさっさとやれよ」

 若い男の子が役場の窓口で騒いでますけど……

「あの、御用件は?」

 私は、男の子に気が取られていて、受付の女性から声を掛けられ訊かれてしまいました。でも、あの男の子は気になります。

「あっ、北山総合病院から来ました。今村飛鳥と雫です。村長さんにお会いしたいのですが」

「お待ちください」

 女性は電話で確認しています。

「お待たせしました二階の村長室へどうぞ」

 私達は階段を使って二階へ行きます。

「先生、エレベーターとかないんですか」

「二階しかないのに必要ないでしょう」

 そんな話をしながら村長室に到着です。ノックをすると、中から返事がありました。

「失礼します」

 私達が中へ入ると……

「お待ちしていましたどうぞこちらへ」

「北山総合病院から来ました今村飛鳥と雫です」

「はい、私は清川村村長の田村雅人(たむらまさと)です。よろしく」

「はい、よろしくお願いします」

「村立病院の方へは行かれましたか?」

「あっ、いえ、まだです」

「あっ、そうですか、後からで良いので行ってください。徳間(とくま)先生がシフトの管理をされていますので」

「はい」

「それとこれがあなた達の住居の鍵です。診療所向かい側の白い壁の家です」

「はい、有難う御座います」

「あの、男性の先生が来ると訊いていたんですけど」

 あっ、そうなんですね…… それじゃまた説明しないとですね、なんたって私がその戸籍上男性の医師ですから…… その後、説明をすると……

「あっ、それじゃそちらの方が看護師さんですか」

「はい、看護師の今村雫です」

「えっと、夫婦ですか?」

「はい……」

「あっ、そうですか…… それではよろしくお願いします」

 何だか、村長さんも困った表情です。そういう事で挨拶も終わり取り敢えず診療所へ行きましょう。私達が一階へ降りて来た時は、さっきの男の子はもういませんでした。

 私達は車に乗り、来た道を後戻りして出羽(いずわ)診療所へやって来ました。

「はあ、やっと来た!」

 城戸(きど)先輩は私達を待っていたようですけど……

「先輩、元気そうですね!」

「あーあ、飛鳥が来ちゃったから私は来年からまた北総勤務だよ」

「仕方ないですよ…… 天王寺(てんのうじ)先生から変な言い掛かりをつけられたんですから」

「まあね、だから大学病院系列は嫌なのよ! 飛鳥はここに何年いる予定なの?」

「一応、三年ですけど」

「そうなんだ、ねえ雫は大丈夫? 元気が無さそうだけど」

 雫は村立病院を見たあたりから結構幻滅してるみたいなんだよね……

「はい…… 大丈夫ですよ」

 やせ我慢する元気はあるみたいです。

「飛鳥、お昼はまだなんでしょう」

「はい、だから温泉街に食べに行こうかと思っていたんですけど」

「そんな事だろうと思ったわ! 扇屋(おうぎや)さんから弁当を作ってもらったから一緒に食べようか」

 そういう事で、私達は診療所の中へ入りました。まずは腹ごしらえです。

「こんにちは、お待ちしてました」

 看護師さんがいらっしゃいました。

「飛鳥は一度逢ったことがあるよね」

「えっと……」

佐藤華純(さとうかすみ)です」

「飛鳥、卒業旅行で清川温泉に来た時に逢ったでしょう」

 あっ、そうでした。

「私が見学に来た時に一度逢いました」

「はい、看護師兼調剤をしてます」

「えっ、薬剤師さんですか?」

 雫は、尊敬の眼差で華純さんを見てますけど……

「ううん違いますよ、ただの看護師です」

「えっと……」

「雫、こういう田舎は薬局とかもないから医師の管理下で処方した通りの薬を看護師が準備するのは認められているの、確か登録医師三人以下の医院だったかな」

 私が説明すると……

「そう、それと保健所の事前許可が必要なんだけどね!」

 私の説明に先輩が付け加えてくれました。

「さあ、早くお昼にしましょう」

 私は扇屋さんのお弁当を開きます。

「うわーっ、凄いご馳走」

 お弁当のメインはお刺身です。三種のネタがありマグロ、ハマチ、サーモン、それにイクラを散りばめた散らし寿司です。

「飛鳥先生、豪勢ですよね」

 雫も少しは心に余裕が出来たかな! この後は、村立病院にも行かないといけないし引っ越しの荷物も片付けないと…… これから新天地で雫と二人頑張らないとですね!


清川村へやって来た飛鳥と雫ですが、飛鳥は何度も何度も訪れた所ですが、雫は初めての田舎でちょっと戸惑っているようです。まあ、城戸先生、飛鳥がいるから大丈夫かな……

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