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2-4 婿に来ないか

 翌日、ある男性がレイダンを訪れた。その男性はスタッフを見つけると「あのブログを書いたやつを呼べ」と強い態度で迫った。そのスタッフは、これは苦情を言いに来たのだと察したらしいが、迷いつつも、私に取り次いだ。

 私はこの男性を応対し、相談室に案内した。席に着いても、なかなかこの男性は言葉を発しなかった。「おれの言いたいこと、分かるだろ」と言われている気がした。

「本日はどのような……」

 私が用件を尋ねるのを男性は遮った。

「私は先日ここを退会した者だが」

 私は一瞬、レイダンを見直して、入会し直しに来たのかと期待した。だが、そのつもりでないことは明らかだろう。

「あのブログは鼻持ちならない。私がやめた直後に生まれ変わる? 冗談じゃない。なぜ最初からそうしなかったんだ。『入会するなら今しかない!』とか、私への当て付けのつもりか」

「お怒りはごもっともです。レイダンは行き届いていなかった部分を反省してサービスの向上を図っている途上にあります。どうか温かい目で見守っていただけたらと」

 私はなんとかこの男性をなだめようとしたが、強硬な態度は変わらなかった。

「どうせ何も変わらんさ。結婚相談所なんて、胡散臭い場所だ。私の時間を返せ」

 男性のクレームはおさまらない。私はためらいながらも聞いてみた。

「どうでしょう。新しいレイダンで婚活してみませんか」

 男性は即答した。

「ふざけるな。私は二度と婚活はしないと決めてるんだ」

 男性は最後に大きな溜め息をつき、肩を怒らせながら相談室を出て行った。

 私は自分の力不足を痛感する。ここで婚活している間に、傷つけられることでもあったのだろうか。入会しなかったことはそんなに問題ではない。このままだと、この男性はずっと結婚相談所への不信感を持ち続ける。それを取り除けなかったのは、重大なミスのような気がした。何事も許せず、世の中を斜めに見てしまうのは、自らを幸せから遠ざける愚行ではないだろうか。

 事務室のデスクに戻っても、気が晴れない。谷底に突き落とされたような気分だった。私の対応はふさわしかったのか。悩みを引き出して、手立てを一緒に考えることはできなかったのか。私の頭の中を、カウンセリングの専門用語や理論がぐるぐると駆け巡っていく。今日はブログを書けそうにない。

 パソコンの画面を閉じた私の肩に、誰かがぽんと手を置いた。

「モナミ。あまり根詰めすぎないで」

 ランだった。よほど暗い顔をしていたのだろう。ランは私を励ましてくれた。

「まだこの仕事始めたばかりなんでしょ。うまくいかないことだってあるわ。これからよ、これから」

 次いでランは予想外な提案をした。

「そうだ。気分転換に映画でも観に行かない?」

「え、映画?」

「そう。仕事から解放される時間も必要よ」

 私はランの突飛な発想に驚く。あんなことがあったので、遊びに行くのには罪悪感がある。私が映画を観ることで解決される問題はないはずだ。ランは私を暗黒面に染めようとしている……と、妄想はここまでにしよう。ランは悪い人ではない。私は最初は戸惑うけれど、最終的にはランがいてくれてよかったと思えるのだ。私は付き合うことにした。

 時計を見れば、退勤時刻まであとわずか。なんだかだんだん楽しみになってきた。秒針が進むごとにその気持ちが膨らんでいく。隣の席のランも、同じ思いらしい。私たちは気もそぞろにその時を待つ。

「はい、みんなお疲れ様。今日はここまで」

 代表のひと声で事務室の空気が弛緩する。おそらく私とランは周りの人が気づかないほど早く、レイダンを後にしていた。

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