2-3 婿に来ないか
会員のプロフィール書き直しが済んで、検索システムの改修も終わる頃、宣伝の効果があったのか、新しくレイダンに訪れる人が増え始めた。
私はその内の一人、タカオさんを担当した。タカオさんも、ネットでレイダンの存在を知ったそうだ。相談室に入り、ヒアリングを開始する。
タカオさんは市内に住む三十歳の男性。小学校の教師をしている。さわやかな印象を受けるが、お酒好きということで、ややお腹がたるみだしている。
私は結婚相談所を訪れた理由を聞いてみた。
「僕は、楽しみと言えばお酒くらいで……。ギャンブルにも手を出してみたんですけど、全然勝てなくて。このままじゃいけないと思っていたとき、SNSでレイダンのことを知ったんです。それで、ああ、婚活でもしてみようかなと」
「そうでしたか……」
「友人や職場の同僚には反対されたんですけど、SNSやブログを見た限りでは案外まともな所じゃないかって思って、確認の意味も込めて来てみました」
この国で結婚相談所を取り巻く環境は厳しいようだ。それでもタカオさんのような人は来てくれる。私のブログやランのSNSも決して無駄ではなかったようだ。タカオさんもブログを読んだのなら、例の事件は知っているだろう。ここは包み隠さず、ありのままのレイダンを伝えよう。
「お恥ずかしい話ですが、レイダンは過去に失敗もありました。でも、失敗から学んで、今は立て直している最中です。来談者の方にしっかりと寄り添って、万全の状態で婚活をサポートします。入会してみませんか」
「うーん……まだ迷ってます」
「どういったことで悩んでおられますか? ぜひお聞かせください」
「決め手に欠けるというか……高いお金を払ったのに、最後まで結婚できなかったら嫌じゃないですか」
「でしたら、希望の相手がレイダンにどれだけ登録されているか、前もって調べることができます。入会するかどうか判断する材料になると思いますが……」
「ああ、そんなことも書いてありましたね」
私はタカオさんにチェックシートを渡した。チェック項目は、希望する年齢の幅、身長や体重はどれくらいが理想か、学歴や職種、住んでいる場所の範囲など。記入が終われば検索にかける。
「あ、いました」
検索で出たのは二十人ほど。その画面をタカオさんに見せる。個人が特定できる情報は伏せられている。
「入会すれば、このような方たちを中心にお見合いすることになりそうですね」
タカオさんはしげしげと画面を見てから、やがて納得したように言った。
「……まあ、これだけいるんだったら」
自分の婚活の見通しが立ったからか、そこからのタカオさんの決断は早かった。
「入会します。やるからには全力で取り組みますので、どうぞよろしくお願いします」
「ありがとうございます。ではタカオさんのプロフィールを書きましょう」
「分かりました」
私は記入用紙を渡した。以前に比べれば見違えるほど項目は充実した。生年月日、身長、体重、出身地、住所、学歴、職業、年収、家族構成……。最後に自由記入の欄がある。何を書けばいいか分からない人のために、こんな例示がある。「学生時代のあだ名」、「スポーツ履歴」、「贔屓のチーム」、「好きな朝ご飯の献立」などなど。
いずれも会議で出た案だった。なんとなく却下しづらかったので採用してみたが、これがだんだん実際にレイダンで働いている人たちの経験からくる当を得た案のように思えてきて、今では愛着が生まれつつある。
それから私はアドバイスを挟みながら、タカオさんのプロフィールを書くのを手伝った。時間をかけて慎重に記入していく。新しくなったプロフィールは完成させるのも一苦労だ。個人情報なので、この後は厳重に保管する。入会のための細かな手続きは後日改めて行うことにして、この日のヒアリングは終了した。




