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6ー13 偶然の産物

 俺はこの学校のいち生徒として、机の上に置かれたそれを手に取り、ページをめくった。

「楽しかったなあ……」

 客観的に評価しようとしたが無理だった。生徒会誌作りに勤しんだ日々がよみがえる。大変なこともあったはずなのに、不思議と「楽しかった」という感想がしっくりくる。それだけ充実していたのだろう。

 俺たちの仕事は終わった。あとは、この生徒会誌を手に取った誰かが、少しでもこの学校に、「調色」に興味を持ってもらえることを願うばかりだ。この一冊にはさまざまな思いが込められている。いつか、思いもよらないところで、誰かの心に届くかもしれない。生徒会誌の制作は、これからもずっと続けていってほしい。

 それにしても、俺たちが調色編集委員として過ごしたあの時間のとうとさは、どんな言い回しをすれば伝わるだろう。うまい表現が思いつかない。小説家志望のくせに、これでは情けないか。


 三年生になった。いよいよ受験生だ。俺は進学先をカノウ高校に決めた。担任の先生も太鼓判を押してくれたし、迷いはなかった。それに、万が一落ちたとしても、すぐに立ち直れそうな気がした。いろいろな困難を乗り越えて「調色」を作り上げた経験が、どこでだってやっていけるという自信をつけさせてくれたのかもしれない。

 ある日、教室前の廊下でランとすれ違った。進級してランとは別のクラスになっていた。少し、話をした。

「よお」

「あっ、ノリオ、久しぶりー」

 しばらく話さないうちに、ランの雰囲気が以前よりやわらかくなったと感じた。

「新しいクラスではうまくやれてるのか?」

「まあね。友だちもできたし。なに、心配してくれてんの?」

「別に……」

「二年の時は、ノリオにもきつくあたっちゃったねー。ごめんね。でも私、ノリオには感謝してるのよ。私のトラブルに、親身になって対応してくれたでしょ」

「そんなこともあったな」

「ノリオって、意外と世話焼きよねー。じゃあね」

 去っていくランの姿を目で追いながら、俺は子供が手を離れるのはこんな感じなのかと、またもや父兄のような心境になってしまった。俺がランに抱いていた感情は、親心? それとも、恋心だったのだろうか。いや、仮に後者だとしても、望みはなかっただろうな。

 そんなことより、ランが新しいクラスになじめているのが何より喜ばしい。あんなにとげとげしていたのに、変われば変わるものだな。

 その日の昼休み、図書室に行くと、オミオが席にも着かず窓際で本を読んでいた。今日は昔の仲間によく会う日だ。

「よっ。何読んでんだ?」

「おう……小説」

「へえ、お前も小説とか読むのか」

 本のタイトルが気になったが、聞かないでおいた。

「志望校決めたか?」

「ああ。カナヅ高校にしたよ」

「カナヅ? なんでまた。お前、カノウ受けろよ。カズオも、ウメコも、ヨネもカノウなんだぞ」

「ちょっとね……やりたいことがあって」

「やりたいこと? カノウじゃできないことなのか?」

「うん。俺にしかできないようなことが、見つけられそうなんだ」

「俺にしかできないこと、か……」

 相変わらず、何を考えているのか読めないやつだ。口ではこう言うが、何かよんどころない事情でもあるのだろうか。

 俺は図書室をあとにして、考えにふけった。

 ひょっとしたら、ランの人当たりの悪さも、オミオの外見のよさも、青春の優劣といえるのではないか。ランのきつい態度にもそれなりの理由があった。オミオだって、ルックスに恵まれてはいても、人知れず困難な事情を抱えているのかもしれない。優れているのにも劣っているのにも、複雑な背景がある。どうして優劣は発生してしまうのか。ひとりひとりのバックボーンとの関連も解き明かしてみたい。もしかしてこれが、俺にしかできないことなのだろうか。

 三年生になっても学校行事はいろいろある。前期は委員会にも入らなければならない。中学生生活最後の一年をこなしながら、受験勉強に取り組んでいるうちに季節は過ぎ去り、あっという間に試験当日を迎えた。結果は、合格。カズオもウメコもヨネも合格した。ランもオミオもカナヅ高校に受かったらしい。「調色」組の進路は無事に決まった。そして、県立高校の合格発表が終わると、すぐに卒業式の日がやって来る。この学び舎ともお別れだ。実は俺にはこの日まで、受験の結果よりも楽しみに待っていたことがあった。「調色」の配布だ。さて、後輩たちはどんなものを作ったのかな。

 ぱらぱらとめくる。まあ、代わり映えはしない。誰が作っても同じようなものになるということか。なんとなく、三年生のクラス紹介のページを開いた。同じ調色編集委員だったあいつらは、どんなコメントを寄せているのか、気になった。

 オミオのコメントを読んで、手が止まった。

 衝撃で、手が震えた。

 もういちど読み返す。言葉の意味を噛みしめるたび、もうこれ以上のものはないと確信してしまう。何がどうすごいのか、説明を求める人がいれば、あいつの代わりにその役を買って出たいくらいだ。

「負けたよ。お前には敵わない」

 清々しくさえあった。俺の夢はいとも簡単に、打ち砕かれてしまったのだ。

  

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