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6ー11 偶然の産物

 調色編集委員になって、俺たちはずっと編集作業にかかりきりだったわけではない。作業の合間の息抜きに雑談して過ごすこともあった。一緒に作業する仲間のパーソナリティを知るためには、そういう時間が必要なこともある。俺たちも何気ない会話を重ねることで、お互いの理解を深めていった。

 たとえば、こんなことがあった。

「ねえ、オミオって、俳優のショウマに似てない?」

 ランがオミオにからんでいた。オミオはまごまごとしていた。そりゃそうだ。ラン、お前は自分の威圧感に気づいていないのか。

「えー、どこがー?」

 オミオの代わりに本気で驚いたような反応を示したのは、近くにいたヨネだった。そういえば、オミオとヨネっていつも一緒にいるな。離れているところを見た気がしないんだが。

 しかし、それよりも俺はランのオミオに対する気安さが引っかかった。やっぱりあれか。オミオの顔がいいからか。くっ、舌打ちまでされた俺との扱いの差がこうもあるとは。俺はオミオの整ったルックスが羨ましくなった。

 俳優のショウマ。俺は顔を思い出そうとする。今は話題の連続ドラマに出演していたはずだ。ランはああいう男が好みなのか。舌打ちされた時は絶対に打ち解けられないだろうと思ったが、こうして一緒に過ごしてみると、意外と普通だということに気づく。俺はまだ警戒されているようだけれど、ふとした瞬間、気を許してくれたのではと思うことがある。もっと知りたい。ランのことを。そして理解したい。彼女はどうしてあんな態度を取ってしまうのか。


 中学二年の冬ともなれば、否が応でも自分の進路に目を向けなければならない頃だ。

 俺たちの雑談にも、志望校とか将来の夢のことが話題にのぼるようになった。

「ノリオは何になりたいんだ?」

 カズオに話を振られた。だが、その問いに間髪入れず「小説家だ」と言い切ってしまうのは気恥ずかしさがあった。俺はできるだけ曖昧にぼかして答えることにした。

「俺は……言葉に関する仕事がしたい」

「おっ、作家先生か?」

 俺は心臓が跳ね上がるのを感じた。まさか、心を読まれた?

「そんなんじゃねえよ。というか、カズオはどうなんだよ」

 俺は焦っているのを見抜かれないように、努めて平静を装いながらカズオに質問を返した。

「俺か? 俺は、新聞記者だ」

「新聞記者? なんで?」

「なんでも何も、新聞って面白いだろ」

「そうかあ?」

 新聞が面白いかはともかく、カズオの態度は見上げたものだった。なりたいものを明確に宣言せず、必死でごまかした自分がひどくちっぽけに思えた。

「オミオはどうだ?」

 カズオは今度はオミオに話を振った。俺もオミオが自分の将来をどう考えているのか興味があった。

「んー……まだ分からない」

「なんだよそれ」

 はっきりと答えなかったオミオに、俺はどこかほっとした。

「たった十四年しか生きてないのに、自分が何になりたいのかなんて、決められないよ」

「ふうん……なんか冷めてるな」

 オミオの言い分ももっともだと思える。しかし、いささか生真面目すぎやしないか。ここでの発言が一生を左右するわけがない。有言実行できなくても、誰もとがめたりしない。まだ中学生なんだから、なりたいものくらい軽い気持ちで口に出せばいいのだ。俺が言えたことではないが。

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