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6ー10 偶然の産物

 ノリオさんはここで昔語りに一息入れた。

 私たちは彼の気遣いに感謝しつつ、各自注文した飲み物をそれぞれ口に運んだ。

 最初に感想を口にしたのはヤツエさんだった。

「ランって中学の頃、そんなにつっけんどんな感じだったんだ……」

 ヤツエさんは素直に驚きを口にしただけなのかもしれないが、その言い方は微妙にランをからかっているようなニュアンスがあった。

「そこ重要じゃないでしょ」

 ランが噛みつく。またしても、ランとヤツエさんのいがみあいが始まろうとする。だが私も、ノリオさんがここまで語ったなかで、そこが一番気になった。

「私も驚きました。今のランからは想像できない……」

 私は隣の席のランの顔をしげしげと見た。どうやら、ランの目にはそれが釈明を要求しているように映ったらしい。

「まあ……ね。あの頃の私は、毎日どうしようもなくイライラしてた。自分でも周りにさんざん当たり散らしてたのは反省してるわ。だから『調色』には感謝してる。編集委員になってあのメンバーと出会えてなかったら、今みたいな人生は歩めなかったと思う」

「ランをまっとうな道に戻してくれたのが『調色』だったんだね。ますますその制作風景に興味が湧いてきたよ。早く続きを聞かせてくれないかい」

「いいでしょう」

 ノリオさんがロベールに応じる。私も同感だった。いつの間にか私たちはノリオさんの語り口にすっかり引き込まれていた。その後「調色」の制作はどうなったのか。ランが今のランになるまで、何があったのか。オミオくんの真意を明らかにするつもりのはずが、ノリオさんの話に新たな聞き所が追加された。早く続きを聞かせてほしい。私たちは親鳥からただエサを与えられるのを待つ雛のように話の続きを渇望していた。

 私たちの視線がノリオさんに注がれる。なんとなくだが、彼はそういうのに慣れているような気がした。

 私たちのような聴衆を前にしても気後れなどすることなく、ノリオさんは昔語りを再開した。


 「調色」の編集作業がスタートした。まずは編集委員になった生徒の顔合わせからだ。この中学校では一学年は三クラスから成る。集められた人数を確認すると、各クラスちゃんと二名ずつ選んできたようだ。合計十二名の編集委員の顔ぶれが、ひとつの教室にそろった。

 本来なら一年生もひとりひとり紹介すべきところなのだが、ここでは割愛する。この話に登場させるのは俺たち二年生だけになることを許してほしい。

 では、その二年生の編集委員を順に紹介していこう。

 二年一組、男子、カズオ。一年の時も編集委員だったようで、今回は委員長を務める。新聞部に所属している。

 二年二組、男子、オミオ。俺とはあまり関わりがなかった生徒だ。顔はいいが、なんだか頼りなさそうな印象を持った。

 二年一組、女子、ウメコ。そして、二年二組、女子、ヨネ。この二人なら知っている。成績優秀で、生徒会役員の常連だった。しかし、この二人なら他の委員会の主要なポストに就いていてもおかしくないのに、なんで調色編集委員なんてやっているのか謎だ。

 そして、三組の俺と問題児ラン。自己紹介の時、ランのつんけんした態度は相変わらずだった。そんなんじゃ誰とも仲良くやれないだろう。俺はつい授業参観のときの父兄のような心境になってしまった。

 このような個性的なメンバーのなかで、俺も自分がうまくやっていけるか不安だったが、同時に楽しみでもあった。生徒会誌がどのように作られていくのか、その過程を見届けることができるのは、貴重な経験に違いなかった。


 「調色」はいろいろなコーナーからできている。俺はそのうちのひとつ、文芸・論壇のコーナーを担当することになった。まずは、掲載する作文や作品を集めることから始める。といっても、載せるものはもう用意されていた。編集顧問の先生があらかじめ決めていたのだ。俺のすることといえば、原稿を誤字脱字がないように書き写すことぐらいだった。

 こういう作業には慣れていた。作文コンクールがあるたびに文芸部員が書いた作文を部長としてチェックしていたからだ。今回は手直しすることはさすがにできなかったが、正しい言葉遣いで文章を書くことに関しては、俺なりに自負がある。確実な仕事をしたつもりだった。だが、誰もがそんな自負を持っているわけではない。ひとりひとりの能力には個人差がある。たとえば、こんなことがあった。

「おい、オミオ。ここ間違ってるぞ。真面目は『真自目』じゃなくて『真面目』だ」

「へー、そうなんだ」

「そうなんだって……。しっかりしてくれよ」

 オミオは旅行記コーナーの担当だ。旅行記コーナーは修学旅行や校外学習の様子を伝えるコーナーで、日程と写真、生徒が書いた感想を掲載する。オミオはサッカー部の後輩から素材となるレポートを借りてきたようだった。しかし、原稿を仕上げる段階で、委員長のカズオに間違いを指摘されていた。

 俺からすればありえないミスだったが、この出来事はこれまで気づけなかった奥深い真理をもたらしてくれた。それは、青春に優劣はつきものだということ。この小さな発見が、のちに俺の進路選択に大きな影響を及ぼすことになる。

 俺はできあがった原稿をカズオのところに持って行った。委員長のチェックを受ける。

「うん、さすがだな。どこも悪いところはなし。やっぱり文芸部は信頼できるな」

「俺にとって誤字脱字がないのは当たり前だからな。きっちりしないと気が済まないんだ」

「だよな。俺も新聞部だ。誤植は許せねえ」

 俺は嬉しかった。文芸部以外で意気投合できそうな仲間に出会えた喜びがあった。

 そんな俺たちのやりとりを、オミオは微笑ましいものでも見るかのように、ただ笑って眺めていた。

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